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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十一章 故郷巡り
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32

「さあアキさん、復唱してください。『私は』」

「私は」

「『冒険者を辞め、二度と危険な事は致しません』」

「二度と危険な事はしません。」


 ベルお小言が再び始まってから数十分。


 やっと説教も終わりかと思いきや、何故か踏み絵のような誓いを言わされている。


「あ・・・『あとベルの言う事は何でも聞きます。』」


 取って付け加えたかのようにベルが言う。


「いやまて、それはおかしい。」


 どさくさに紛れて絶対服従の要求をしてきやがった、この腹黒王女。


「むぅ・・・今の流れなら行けると思ったんですが・・・」

「『お願い』なら考えなくもなかったけどな。」

「はっ!?ではそれで!アキさんは私に絶対服従でお願いします!」


 そんなお願いは嫌だ。


「とりあえず冒険者についてはわかった。考えておくよ。」

「ふふ、よろしい。いい子ですね、アキさん。」


 ベルが満足気に微笑む。


 だがアキとしては冒険者をやめるつもりは毛頭ない。色んな場所へ行って、様々な経験が出来る素晴らしい職業だ。まだまだベルフィオーレの物見遊山は終わっていないし、旅に飽きるまでは生涯冒険者として活動していくつもりだ。


 ただここでベルに反論しても水掛け論になるだけだ。さらに言うなら、ミルナ達もどちらかというとベルに賛同している。つまり圧倒的に不利。うちの子達相手に勝てる気がしない。とはいえアキが本気で頼めば渋々了承してはくれるだろう。だがせっかく楽しい旅行に来ているのだ。あまり雰囲気を悪くするような事はしたくない。ここは適当に話を合わせておいて、また後日ゆっくり話すとしよう。


「それよりミルナ、まだか?」


 資料館から大分移動した気がする。そろそろ一般開放されているビーチとやらに到着してもいい頃だ。まあ街中での馬車移動は遅いので、時間が掛るのは仕方ない。正直歩いた方が早いまである。ただ王女であるベルや領主の娘であるミルナがいるので、馬車での移動は絶対。貴族や王族としての体面は大事らしいからな。


「もうすぐですわ。」

「そっか。しかしやけに遠いな?」

「あ、いえ・・・海岸は資料館のすぐ側なんですの。ただ色々と手配していたんですわ。ですので馬車はぐるぐる同じところを回っているだけですの。」


 ミルナがしれっと真実を告げてくる。


 全然気付かなかった。まさか同じところを周回していただけだったとは思わなかった。というかずっとベルに説教されていて、外をあまり見てなかったというのもあるが・・・さすがにちょっと情けない気がする。


 しかし何故そんな事をしているのだろう。


「さっきミルナが御者と話していたけど・・・それに関係するのか?」


 海へ行くと決まった途端、ミルナは一回馬車を止め、御者と何かを話していた。


「ええ、そうですわ。」

「何を手配してたんだ?」

「大した事ではないですわ。一応うちには王女様がいるので・・・」


 そう言ってベルをチラッと見るミルナ。


「浜辺を貸し切りにしようと思いまして。その手配をしておりましたの。」


 ああ、なるほど。確かにベルに何かあっては不味い。それに市井の民の目があったらベルは気軽に楽しめないだろう。後、うちは女性が多いし、面倒事を避けると言う意味でもミルナの配慮は助かる。


「それはありがたいが・・・可能なのか?」


 いくらミルナが領主の娘とは言え、観光スポットの1つであるビーチを閉鎖し、貸し切りにするなんて可能なのだろうか。まあ可能か不可能かで言えば可能だとは思うが・・・レインバース領の事を考えるとあまりよろしくない気がする。


「あ、さすがに全部ではないですわ。実は貴族が使える特別な浜辺が端の方にありますの。そこを貸し切りにするだけですのよ。」


 そう言ってミルナが色々と説明してくれた。


 どうやらビーチはかなり広く、距離にすると数キロくらいはあるとの事。そして端には貴族御用達の屋敷があり、海を見ながら食事をしたり、パーティーが出来るようになっているらしい。ちなみにその屋敷、貴族専用というわけではないらしいが、利用料金が馬鹿高いので、基本使うのは貴族、そしてエスタートの爺さんのような豪商だけなんだとか。


 そしてミルナはそこを貸し切りにする為、色々と手を回してくれたようだ。確かにそれなら時間がかかるのも仕方ないだろう。利用者がいたら丁重にお引き取り願わなければならないしな。


「色々と悪いな。」

「いえ、私に出来る事をしただけですわ。」


 大したことはありませんとクールに言っているが、ミルナの表情が滅茶苦茶ご満悦だ。出来る女をアピールできたのが嬉しいのだろうか。まあ今更そんな事をしても普段のポンコツぶりは返上出来ないのだが。


「とりあえず貸し切りなら、周りの目を気にしなくていいって事だな?」

「はい。それに浜辺も周囲からは見えないようになっていますの。上手く地形で隠れるように色々と設計したのですわ。だから完全に私達の貸し切りですのよ。」


 それは素晴らしい。


「ミルナ・・・」

「ふふ、褒めてくださってもいいんですわよ。」

「偶には凄いな。」

「なんでそんな微妙な褒め方なんですの!?」


 とりあえず、今回ミルナはいい仕事をしてくれた。


 これで気兼ねなく海でのバカンスと洒落こめる。


 ただ・・・この世界に水着ってあるのだろうか?

挿絵(By みてみん)

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