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「アキさん!おかえりなさいですー!遊びにいきましょー!」
宿に戻るなり、ソフィーが抱き着いて来た。
どうやら相当暇していたらしい。
「暇だっただろ。やっぱり出掛ければよかったのに。」
「いいのよ。これから出かけるんだもの。」
ソフィーの隣にいたエレンが「ふふんっ」とすまし顔で言う。もしかしてクールで大人のレディー的な立ち振る舞いをしようとしているのかもしれない。
ただ残念ながらまったく出来ていない。
「エレン、出掛けるのがそんなに楽しみだったのか・・・」
「なっ!?ベ、別にそんなことないわよ!なんでそうなるのよ!!!」
エレンは必死に否定するが、説得力は皆無だ。
「だって滅茶苦茶お洒落してるじゃん?」
「し、してないわよ!これは普段着よ!普段着!」
いつもの動きやすい冒険者としての格好ではなく、エレンは可愛らしい水色のワンピースを着ていた。そしてそれだけではなく、ネックレスなどの装飾品をつけ、軽く化粧までしている。これを普段着というのはさすがに無理があるだろう。
「エレン・・・それを普段着というには無理があると思うな?それにさっきまで何を着ていこうって一緒に盛り上がっていたよね?」
リオナが苦笑いしながらエレンの行動を暴露する。
「こ、こら!リオナ!それは内緒って言ったでしょ!」
エレンが顔を真っ赤にしながらリオナに掴みかかる。
「えー、別に内緒にしなくてもいいと思うけど・・・」
「そ、そうかもだけど!なんかイヤなのよ!!・・・ってアキ!なに笑ってるのよ!ぶっころすわよ!!!」
こういうところがエレンの可愛いところだ。
しかしどうやらアキを待つ間、あまりに暇だったエレン達は、みんなでお洒落をしようという話になったらしい。リオナやソフィーもそれぞれが可愛い服を着ている。
ただエリザ、エリス、ルティアはいつも通りの格好だ。
「ちなみに3人は何してたんだ?」
気になったので聞いてみた。
「うん?私か?私は筋力トレーニングをしていたのだ!」
エリスが嬉しそうに応える。
「なるほど・・・まあエリスらしいな。ルティアは?」
「ん。木の実集めてた。」
こっちもいつも通りだった。もうそれが何用かは聞くまい。
「で・・・エリザは?」
「わ、私?私はあれよ、魔法の勉強をしていたわ!おねーさんだしね!」
ドヤ顔で答えるエリザだが、嘘だ。日向ぼっこするとかいっていたし、どうせ昼寝でもしていたんだろう。服に皺が出来ているから多分間違いない。
「口元に涎の跡がついてるけど。」
「え、うそ!?さっき拭いたはず・・・」
アキがそう指摘すると、エリザは慌てて口元を拭う。
「まあ嘘だけど。」
「にゃ!?ア、アキ君!ずるいわよ!その誘導尋問は!!」
尻尾を逆立てながら怒るエリザ。
「嘘をつくエリザが悪い。」
「だ、だって!しょうがないじゃない!いいお天気なんだもの!日向ぼっこしてお昼寝して何が悪いのよ!!」
何故か逆切れしてくるエリザ。というか悪いなんて一言も言っていない。そもそもお姉さんらしくという変なプライドに拘って見栄を張ろうとするからいけないのだ。普通に昼寝してたと言えばいいのに。
「まあ・・・とりあえず待たせて悪かった。ミルナの両親への挨拶も無事終わったし、出掛けようか。」
ミルナとの婚姻を認めてもらえた事など、領主館であった一幕をみんなに伝える。
「ふーん?無事に終わったのならよかったわ。それで?どこへ行くのよ?仕方ないから付き合ってあげてもいいわよ?」
エレンが再びすまし顔で言う。
だからそんな気合の入った格好で・・・まあもう何も言うまい。
「ミルナから聞いたんだが、この街の歴史が分かる資料館があるらしい。とりあえずそこへ行こうと思うんだが、いいか?」
正直資料館なんて歴史に興味がなければつまらないだろう。まあアキは領地経営があるし、勉強の意味でも行っておきたい。ただエレンやソフィー達にとっては退屈なデートコースだと思う。だから「えー、いやよ。」とか言われるくらいは覚悟していたのだが・・・
「そうなのね、いいわよ。」
アキの予想に反し、笑顔で了承してくれるエレン。
「他のみんなも行く?」
「「「「当然!」」」」
ソフィーやエリス達も、文句の一つも言う事無く、即答する。きっと「アキと出掛けられればなんでもいい」という事なのだろう。いい子達だ。本当にアキにはもったいない。
「じゃあ・・・ミルナ、案内頼むね。」
「はいですわ!」