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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十一章 故郷巡り
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28

 ミルナの説教が終わったところで、アキ達は領主館を後にした。


 ここからは楽しみにしていたレインバース領の観光だ。とはいえエレンやソフィー達を宿で待たしているので、一旦宿に向かわなければならない。それにベルもまだメイド服のままだ。いい加減着替えさせないといけないだろう。まあ本人は「ずっとメイド服のままでもいいですよ!」と満面の笑顔で言ってくれたが、さすがに外聞もあるのでそう言う訳にはいかない。


 ちなみにエスタートはまだセラストリアと話して行くらしく、一旦領主館で別れた。まああの爺さんの事だ、「孫と遊ぶのじゃ!」とか言ってすぐに追いかけてくる気がするし、問題ないだろう。


「うぅ・・・酷い目に遭いましたわ・・・」


 領主館を出たところでミルナがお尻をさすりながら涙目で呟く。

 

「ミルナ家の説教ではお尻叩かれるのか?」

「ち、違いますわよ・・・!」


 慌てて否定するミルナだが、目が泳いでいる。


「そ、それよりアキさん!!!」


 そんなことより言いたい事がありますわと、目をカッと見開くミルナ。


「私を売りましたわね!酷いですわよ!せっかくお説教されずに済むところでしたのに!アキさんは私の味方ではなかったんですの!!」


 アキがミルナを説教するようセラストリアに進言してから1時間、ミルナは戻ってこなかった。そして戻って来たかと思えば、完全に憔悴しきっており、ぐったりしていた。どうやらがっつり母親のミルリースに説教されたらしい。まあ可哀そうだと思わなくもないが、1年以上家出していたのだから仕方ない。両親を心配させた分、そこはちゃんと怒られるべきだ。


「家出するからだろ。」

「だ、だって仕方なかったんですもの!」


 そんな事はない。結婚させられるのが嫌だったとはいえ、元はと言えば、ミルナが自堕落な生活を送っていたのが悪い。


「家でごろごろしてたのが仕方ないと?」

「う、うるさいですわ!!!アキさんのばーか!ばーか!」


 言い争いは分が悪いと悟ったのか、ミルナが子供のように駄々をこね始めた。


「そ、それにアキさんはそんな私が好きなんですわよね!」

「あー、まあ・・・そうだけど。」


 そんなはっきりと聞かれると答えるのが少々照れ臭い。


「じゃあいいではありませんの!私はごろごろするのが大好きなんですの!!!」

「な、なるほど。」


 ミルナのやつ、とうとう開き直りやがった。どうやら生活を改善する気は一切なく、これからも堂々と自堕落な生活を送るつもりらしい。まあそう言いつつも、ミルナはやる事は最低限ちゃんとやっている。ただ他の子達に比べると、だらだらしている時間が格段に多いからダメ人間に見えるだけだ。


「だ、駄目ですの!?」

「いや、ミルナはミルナのままでいいよ。」

「そ、そうですわよね!!」


 まあ今更勤勉で働き者のミルナになられても気味が悪い。ミルナは今のままでいい。ただそんな宣言をしたミルナをベルやセシル達は呆れた様子で見つめている。どうやらうちの子達の間ではミルナの評価が駄々下がりのようだ・・・ただそれも今更だ。


「それよりミルナ、観光したいから案内してくれ。どこか良い場所はないのか?」


 ミルナの生活習慣はともかく、とりあえずはレインバースの観光だ。ミルナの両親に挨拶するという一番の用事も無事終わったし、あとはのんびりとこの街を楽しみたい。


「いっぱいありますわよ!私にお任せくださいませ!!!」


 どこへでも案内しますと気合十分のミルナ。領主館へ行く前とは打って変わってテンションが高い。どうやら両親とのわだかまりが解け、すっかり元気になったようだ。


「んー・・・色々見て回りたい。この街の名所とかあるか?」


 アキがそう言うと、ミルナが手を顎に当て考え込む。そして暫くして、行き先を提案して来た。


「そうですわね・・・それでしたらまずは資料館とかいかがです?」

「へえ?そんなのがあるのか?」


 辺境都市であるレインバースに資料館のような施設があるとは思わなかった。これがエスぺラルドの王都であるミスミルドなら、「エスぺラルドの栄光と歴史」をアピールする為に作られていてもおかしくはないが。実際、ベルとの出会いの場である王立図書館のような場所はあったしな。


「そうなんですの。実はお父様がその・・・」

「あー、なるほど。なんとなくわかった。」


 あの金ぴか領主館に住んでいるセラストリアの事だ。きっと自分の功績を称える為とか言って資料館を作らせたのだろう。ただそうなるとそこに展示してある資料が本当に史実通りなのか少々心配になる。


「資料館の監修は私がしましたので大丈夫ですわよ。」


 アキの考えを察したのか、そうミルナが付け加える。


「なんだ、ミルナもちゃんと仕事してるじゃないか。」


 そういえばアキ達が宿泊しているあの宿もミルナの監修だと言っていた。実家にいた頃はごろごろしてばかりだとセラストリアは言っていたが、やはりやる事はちゃんとやっていたようだ。


「そうですわよ!私は立派な淑女なんですのよ!」

「いやー・・・それはどうかな?」


 さすがにそれはないだろう。実際、一緒の屋敷で暮らすようになってから、ミルナは毎日欠かさず朝食を食べて二度寝して、昼食を食べて昼寝して、おやつを食べて夕寝して・・・を見て来ている。よくそれだけ食べて、あれだけ寝られるものだと感心するレベルだ。


「なんでそこを疑うんですの!!!」

「まあまあ、そんなミルナが好きなんだからいいじゃん。」

「そ、それはそうですけど・・・!」

「それよりその資料館とやらに案内してくれ。まずはそこへ行こう。」


 それだけ言い、アキは足早に宿へ戻る。


 いつまでもくだらない話をしていたら、宿で待たせているソフィー達に怒られる。観光するにせよ、雑談するにせよ、まずはソフィー達と合流するのが先だ。

挿絵(By みてみん)

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