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屋敷に戻ると、ミルナ、ソフィー、エレンも既に帰宅していたようでリビングで休憩していた。彼女達の横には紙袋がいくつかある。今日買った服だろうか。部屋に持って行かずにここで待っているという事はアキに見せたいのだろう。アキはそんな健気な彼女達に苦笑し、ソファーに腰掛ける。見てやる約束だし、ファッションショーくらい喜んで付き合ってやるつもりだ。アキがソファーに腰を下ろすや否や、待っていましたと言わんばかりにソフィーが話しかけてくる。
「アキさんおかえりなさいですー!」
ミルナとエレンもおかえりと声を掛けてくる。とりあえずエスタートの屋敷で話した事を皆にも共有しておく。4日後も人と会う用事が出来たので行ってくると。
「その日も休日としよう。ちょうどBに上がる予定日の翌日だし丁度いい。」
「わかりましたわ、何もお手伝い出来なくてすいません……。」
ミルナが申し訳なさそうにする。
「いちいち気にするのはミルナの悪いとこだよ?仲間なんだからそういうのはいいんだって。俺も一杯我儘言うから覚悟しとけ。」
「ふふ、わかりました。」
肩の荷が下りたのか微笑むミルナ。
「それより皆が何買ったのか早く見せてよ。」
皆も早く見せたそうにしているのが丸分かりなので、アキのほうから話を振ってやる。そう言うとみんなは各々に買った物を見せてくれる。ミルナ、ソフィー、エレンは服を少しと日用品。アリア、セシル、レオも同様だ。彼女達が帰りに持っていた荷物のほとんどは食材や生活必需品だったようで、自分達の物ではない。盛大なファッションショーでも始まるのかと期待したが、1,2着程度しかなく、数分で終わってしまった。しかも皆今着ている服とほぼ同じで新鮮味もない。
「セシルまでまた似たような服買って……。」
アキは呆れた表情を浮かべる。
「だって……どれがいいかわからなくて。それにやっぱりこれが落ち着くので。この服でお仕事は駄目ですか?」
セシルがいいならそれでいいが、せっかくだし他の服も見てみたかった。
「もっと色々買えばよかったのに。アクセサリーとかさ。皆女の子なんだし服だっていっぱい買いなよ。」
アキはてっきり10着くらい買ってくると思っていたから拍子ぬけだ。アキがそう言うと皆が一斉に口籠る。
「多分みんな私と同じ考えだと思うんですけど……アキさんから頂いたお金は本当に必要な時以外は使わないようにしようと思っているんです……。軽々しく使えないというか……。」
ソフィーがみんなを代表するように言う。
「じゃああと追加で皆に5000金ずつ稼いでくるか……。」
アキがボソッと呟く。それが聞こえたのか、全員がビクっと反応する。
「お願いやめて!アキさんなら本当にできちゃうから!心が持たないから!ちょっとお散歩してくる的な勢いで金貨稼がないで!おかしい事に気づいて!」
ミルナの口調が素に戻っている。そこまで必死にアキを止めたいのだろうか。大袈裟だなと思うアキだが、全員が必死に同意しているからやめた方がよさそうだ。
「わかった、やらないよ。でも皆のその気持ちは嬉しいけど、毎日ように散財するんじゃないのであれば好きな物買って欲しい。皆が新しく買った服やアクセサリーを着ているの見たい。」
買い物はいい息抜きになると思っていたから皆に出掛けて貰ったのにここまで遠慮するとは思わなかった。気持ちは本当に嬉しいけど。
「で、でも悪いわよ……。」
あのエレンですらいつもと違って歯切れが悪い。これは少し荒療治が必要かもと思い、アキはアリアに声を掛ける。
「アリア、買った服着て来てよ。見せて?」
「え……でもその今はお仕事中ですし。」
「いいから、命令。」
「は、はい……。」
アリアだけはメイド服ではない私服を買っていたのでアリアを使わせてもらおう。勿論メイド服でないアリアにも興味があったというのもある。今は仕事中であまり乗り気ではないようだが、命令といったら渋々着替えに行ってくれた。彼女の場合は常にメイド服なので、それ以外の格好を他人に見せるのが恥ずかしかっただけなのかもしれない。
「お、おまたせしました。」
アリアが頬を赤らめてリビングに戻ってくる。やはりただ単に恥ずかしかっただけのようだ。いつもの仏頂面のアリアとは思えないくらい羞恥心で顔を赤くしている。
「へえ……。」
アキはついつい見惚れてしまう。アリアは白いワンピースのようなとても女の子らしい服を着て来た。彼女の長い綺麗な黒髪にとても合っている。普段の毒舌ぶりからは考えられないくらい清楚な雰囲気だ。アリアの事だからもっとお堅い服を選ぶのかと思っていたが、案外彼女も乙女なのかもしれない。
「や、やっぱり変ですよね、もう着ません……。」
アキが何も言わないのにアリアは不安になったらしい。いつもの彼女らしくないネガティブな思考だ。
「ううん、あまりにアリアが可愛いからついつい見惚れてた、ごめんね。」
「そ、そうなんですね……。嬉しいです。」
「普段はメイド服で常に表情も仕事モードだから尚更新鮮だよ。アリアも可愛い女の子なんだなって改めて思う。メイド服やめたら?」
「だ、だめです!あれを着ないと!メイドできません!」
多分彼女からしたらメイド服は戦闘服のようなものなのだろう。あれを着れば仕事のスイッチが入り、優秀で完璧なメイドになれる。だが戦闘服を着ていない時は普通の女の子という事なのかもしれない。
「そうなんだ。じゃあ着ないとね。優秀なメイドでいて欲しいし。うーん、それなら従者としてじゃなくアリアとしてお出かけする時はその私服着てよ。俺が見たい。」
「そ、それなら……はい。」
アリアが恥ずかしそうに頷く。いつも出かける時は側仕えとしてだったから、たまにはアリアとして出かける時間も作った方がいいだろう。
そしてそんなアキとアリアのやり取りを黙って聞いてられないエルフが当然いる。
「ア、アキさん!私も着るので見てくださいー!」
必死にアピールするソフィー。だがアキはバッサリと断る。
「え、いいや。」
「なんでですかー!」
少し涙目になりつつ縋りついてくる。
「ええい、離れろこの暴走エルフ。」
そう言ってソフィーを振り払う。
「だってソフィーだけじゃなく全員今の格好とほぼ同じ服しか買ってないじゃないか。見ても変わらない。だから別にいい。いつもと違う服だったら見たかったのにな。」
アキはわざとらしく残念そうに告げる。それを聞いたソフィー達がやってしまったという表情を浮かべる。
「も、もっと……買えばよかったですわ……。」
「なんで同じのしか買わなかったのよ!私のバカ!」
「あー……失敗した。」
ミルナ、エレン、レオが落胆したように自分を責める。そしてセシルも兎耳を垂れ下げながらちょっと寂しそうにしている。
「やっぱりメイド……メイド服を買わないと……。」
「それは買うなっていってんだろうが。」
「ひぅ……痛いですー!」
アキはソフィーの頭を思いっきり叩く。
「そう思うならみんな好きな物を買いなさい。わかった?」
これで少しはお金を使ってくれるだろう。可愛いアリアの姿も見られたしアキ的には一石二鳥だ。アリアにとってはただの災難でしかなかっただろうが。彼女を餌にしたのは申し訳ないので今度埋め合わせでもしておこうと心に留めておく。
「今度は俺も一緒に行って、選ぶよ。それなら少しは買いやすいんじゃない?」
「いきます!今すぐいきましょー!」
ソフィーが飛びついてこようとしたので躱す。
「今度って言っただろうが、この駄エルフ。」
ソフィーの頬を捻りあげる。
他の皆はそれなら大丈夫、と楽しみにしてくれているようだ。早めに王都での用事片付けて散策する時間を取ってあげるべきだろう。




