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「ちなみにセラストリア辺境伯はどういった事を考えておったんじゃ?観光客を誘致する為にお主が取った対策を聞かせてはくれんか。」
爺さんがセラストリアに尋ねる。どうやらここからはアキが意見を言うだけではなく、全員で話し合う方向で進めるらしい。
「そうですね・・・例えば冒険者や商人の方の宿泊費を一部こちら側で負担したりですね。後は食事処が安くなるなどの優待を考えておりました。」
手を顎に当てながらセラストリアが返事をする。
「ふむ、まあ妥当なとこじゃが・・・ちと弱いの。」
爺さんも難しい顔をしながら呟く。
だが爺さんがその表情になるのも仕方ない。実際、爺さんの言う通り、その程度の優待では少々インパクトが弱い。地球でも閑古鳥が鳴いているような観光地ではよくとられていた手法だし、誰もが考えつくと言う意味では目新しさはない。まあ多少の観光客の増加は期待できるだろうが、所詮は微々たるものだろう。
ただセラストリアも当然そんな事はわかっている。だから悩んでいるのだ。
「はい。ですのでエスタート会頭の商会を使って宣伝して頂いてもあまり効果は期待できないかと。申し訳ありません。」
「そうじゃの。儂がそれを宣伝したところで大して意味はないの。」
そう、レインバースが観光地という事はある程度は知れ渡っている。だから爺さんの商会が宣伝したところで、「何を今更」程度にしか思われないだろう。まあ商人達からしてみれば「ああ、ミレンド商会は今レインバース領に力を入れているのか」と興味を示してくれるかもしれない。爺さんの商会は今や破竹の勢いで伸びている。商人からしてみれば、「レインバースに何かあるのかも」と食いついてくる可能性はある。だが爺さんはあくまでアキの頼みでレインバースの宣伝を行うだけ。レインバース領にビジネスチャンスが本当に転がっているわけではない。だから商人達はレインバースへ一度は来てくれるかもしれないが、落胆して帰る事になるだけで、むしろこの宣伝は逆効果だろう。
冒険者も「宿泊が安くなるなら行ってみるか」と少しは来てくれるかもしれないが、「レインバース領へ行くべきだ!行こう!」とはならないだろう。一応観光客が増加するから戦略としては間違ってはいないが、このままではあまり効果は見込めない。
「セラストリア辺境伯、レインバース領の特色はなんでしょうか。商人や冒険者達は何を目的にここへ観光に来るのですか?」
効果的な戦略を練るの為に、まずはレインバース領の事をもっと知るべきだろうだろうと思い、アキはセラストリアに尋ねる。
「そうですね・・・我が領地の最大の特色は言うまでもなく海でしょう。レインバース領は海と街が調和していますし、とても美しい。ここへ来て羽を伸ばして頂ければ、冒険者や商人の方の疲れを癒せると自負しております。」
自信ありげにセラストリアが語る。
まあセラストリアのこの表情も当然だ。この街は本当に美しい。レインバースの街を見て、アキも一目で気に入った。ただこの金ぴか趣味悪領主館以外はという注釈は付くが。
「はい、私もそれは思いました。」
「ええ、実際に見て頂ければ大抵の方にはそう言って頂けるのです。そして観光へ来て下さった大抵の冒険者や商人の方は繰り返し来て頂けるのですよ。」
つまりリピーターが多いという事だ。
そしてこれは間違いなく良い事。リピーターが多いのであれば、新規顧客を掴めれば彼らもリピーターになる可能性が高い。まだレインバース領へ来た事ない商人や冒険者も多いだろうし、市場開拓が出来る見込みはありそうだ。
ただそれと同時に、この世界ならではの問題も垣間見えた。
リピーターが多いと言う事は、それだけこの街が素晴らしいと言う事。ただ普通なら口コミでその噂が広まり、レインバースは一大観光地となっていてもおかしくない。だが観光客の数は一定数を保っており、増加傾向には無いとセラストリアは言う。つまり口コミで全然噂が広まっていないのだ。まあこれはこの世界に写真やら映像技術がないから仕方ない事だとも言える。地球だったら「ここ凄い素敵だったよ!」という感想と共に写真を共有したりできる。だがベルフィオーレでは本当にただの口コミでしかない。レインバースを訪れた冒険者や商人が「とても素敵なところでした」と口で言ったところで、聞いた側は「そうなんだ、まあいつか行ってみるか」程度の感想しか持たないだろう。
「そうなると、とにかく一度レインバース領へ来て貰うのが大事ですね・・・」
「はい!その通りなんです!ただ・・・色々な伝手を使って誘致をお願いしているんですがやはり言葉だけでは中々この素晴らしさが伝わらないようで・・・」
自分の領地に絶大なる自信があるからこそ、余計現状に納得できないのだろう。だがこれならいくらでもやりようはある。爺さんの力を借りられるのであれば割と簡単に打開できるのではないだろうか。
「ほう、その顔・・・アキは何か案があるのかの?」
目敏く爺さんが指摘してきた。
「まあ、一応。」
「さすがアキさんです!」
「はい、さすがですわ!!」
そしてベルとミルナが嬉しそうに褒めてくれる。ただそんなにハードルをあげないで欲しい。その信頼は嬉しいが、そこまで大した事ではない。