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「で、ミルナ?どういう事なのかな?」
ミルナに聞いてた話しと、セラストリアの言い分には齟齬がある。アキは改めてミルナに確認する。ただ別に怒っているわけじゃない、どういう事か知りたいだけだ。だがミルナはアキが怒っていると勘違いしたのか、大慌てで言い訳してくる。
「アキさん!本当なんですの!私は毎日ちゃんと魔法の勉強をしていたんですの!それなのに冒険者になる事を許して貰えず・・・政略結婚させられそうになったから家出したんですの!!!」
うん、まあ政略結婚は本当だろう。先程セラストリアもそれは認めていたしな。領地の為にミルナを結婚させようとしたと。だがそれは領主として必要な決断をしただけ。縁談を組んだ本当の理由は、自堕落生活を送っていたミルナを何とかしようとしたからだ。
「まあミルナミアは確かに魔法の訓練を頑張っておったようだが・・・」
セラストリアが呟く。
「そうですわよ!ほら、アキさん!私は無実なんですの!」
「だがお前は『それしか』してなかっただろ。魔法の練習を始めた時は感心したんだがな・・・結局食べて寝てに魔法が加わっただけで・・・ああ、我が娘ながら情けない・・・」
セラストリアが溜息を吐く。
「ミルナ・・・なにやってんだよ・・・」
ミルナは冒険者になると言って、魔法の訓練を真剣に始めた。だが始めたはいいが、本当に「その訓練しか」してなかったようだ。領主の娘としての仕事も色々あっただろうに、それを全部放り出していたのだ。
「アキさん!!ち、違いますの!!!!」
涙目でミルナが訴えかけてくるが、さすがに同情出来ない。
「そんなミルナミアに私や妻が『お前に冒険者なんて無理だ!』って言ったら家出したんですよ。」
「ああ、そうだったんですね。」
「ええ、でも家でごろごろしているよりはいいと思い、冒険者として頑張ってくれたらと思っておりました。縁談の件は残念だったと言わざるを得ませんが、それでも娘が自分で行動を起こした事は嬉しかったんです。」
セラストリアが語る。
しかし段々とミルナの家出の全容が見えてきた。冒険者になる事を反対された。親と喧嘩した。両方とも間違ってはいない。だがその本当の理由はミルナから聞かされていたのと少々異なる。ミルナが結婚させられそうになったのは、領地の為もあっただろうが、あまりにぐーたら生活をしていたミルナの将来を両親が心配したからだ。冒険者にはなるのを反対されたのも、そんなミルナが冒険者なんて出来るわけがないだろうという心配から。そしてそんな口煩い両親を鬱陶しく思ったミルナは家を飛び出した。
これがミルナ家出事件の真相だ。
「そんなミルナミアが男を連れて帰って来たものですから・・・変んな男に騙されたんだと思って取り乱してしまいました。申し訳ありません。」
改めて頭を下げるセラストリア。
「いえ、そんなミルナが帰ってきたんですから親としてその反応は当然ですち。気にしないでください。」
「そう言って貰えるなら幸いです。」
「ちょっと!2人して『そんなそんな』って言わないでくださいませ!!」
子供が癇癪を起したように地団駄を踏むミルナ。
そしてそんなミルナを見てセラストリアは溜息を吐く。
「シノミヤ侯爵・・・本当にうちのミルナミアでよろしいので?見た目は美人だと親の目から見ても思いますが・・・性格はご覧の通りで・・・」
「お父様!?」
「セラストリア辺境伯、問題ありません。私はそんなミルナを慕っているのです。しっかりしているように見えて実はダメダメ。家で食べて寝てばかりなのも含めて好きなんですよ。」
嘘ではない。そういうミルナがアキは好きだ。完璧で非の打ち所がないミルナだったらここまで心惹かれていたかはわからない。ポンコツお姉さんだからミルナは可愛いのだ。
「なんかさり気なく貶された気がしなくもしませんが・・・アキさん、大好きですわ!!」
ミルナが満面の笑みで抱き着いてきたので頭をぽんぽんと撫でてやる。
「こんな娘ですがよろしくお願いします。」
そして再び深々と頭を下げるセラストリア。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。それよりセラストリア辺境伯、話の続きをしましょう。」
アキはそう言って爺さんの方をチラッと見る。
「うむ、そうじゃな。家族団欒は後にしてもらおうかの。とりあえず領民を優遇する方法はアキが言ったのでよかろう。あとは観光客をどう誘致するかじゃの。」
爺さんが脱線した話を戻してくれる。
だがこれがこの街の成長に関わってくる一番重要な部分だ。観光客の絶対数が増えれば間違いなく商売は繁盛し、利益も伸びる。その観光客である冒険者や商人を呼び込む為、どんな特典を付ければいいだろうか。アキも少し考えてみるとしよう。