20
「2つ目・・・と言っても簡単な事だよ。買い物をする際、領民に対してだけ割引をすればいい。合言葉か何か決めればいいんじゃないかな。」
これが一番現実的な案ではないだろうか。何よりコストもかからず、すぐに実行できるところがいい。
「ふむ・・・じゃがそれだと領民と観光に来た冒険者や商人を見分けられんじゃろ。合言葉だって悪用されるかもしれんぞ?」
「うん、だからそこは諦める。」
爺さんの言う通り、合言葉が流出し、悪用される可能性もある。だが悪用といっても、観光客が領民割引を使って買い物する程度の事だ。重罪ではないだろう。だからそれにさえ目を瞑れば、この方法は手間暇かからない、最適解な気がする。それに領民かそうでないかなんて何となくわかるだろう。「あ、この人は見た事ある」くらいの感覚で判断すればいいし、変にトラブルになるようなら割引して物を売れば済む話だ。そこまで大きな損失はない。
「多少の損失は覚悟の上。それにその損失より、領民の消費の上昇率の方が高いはず。だから利益は上がるし、街の成長にも繋がると思う。」
「なるほどの・・・辺境伯、いかがかな?」
爺さんはアキの案に概ね賛成なのか、セラストリアに話しを振る。
「そうですね・・・ええ、やってみましょう。損失は大した事ないでしょうし、何より領民を優遇するという点がいい。彼らの私に対する印象がよくなる素晴らしい案だと思います。」
セラストリアは満足気に頷く。
そう、セラストリアの言ったように、この案の一番の利点は「領民を優遇する」というところだ。領主が領民をどれだけ大事に考えているかアピールできれば、不平不満も減るし、街全体の雰囲気も明るくなる。成長や利益はそれに付随する形で自然と上昇するはずだ。
「ほっほっほっ、アキよ。思ったよりちゃんと出来ておるの。領地を下賜されたと聞いて心配しておったが、これなら問題なさそうじゃわい。」
爺さんがお墨付きをくれる。
ただ全然安心出来ない。今回は偶々アキの考えた案が通っただけで、次回も上手くいく保障なんてどこにもない。自分の領地へ行って、いざ内政ってなった時、どんな問題に直面するのか・・・今から不安でしかない。そもそも地球での経験が毎回生きるとも限らないしな。
「そうかな?偶々だよ。」
「そんな事はなかろう。それに不安になる必要はないしの・・・ほれ、別に1人で解決する必要はあるまい。」
そう言ってアキの隣に座っているベルを見る爺さん。
「はい!!そうです!!!アキさんには私がついているのです!どんな問題でもどんとこいです!!」
ベルが誇らしげな顔で言い切る。
うちのベルのテンションがちょっと鬱陶しいが、その通りだ。別に1人でやる必要なんてどこにもない。うちにはベルを含め、セシルやエリザと言った頭脳明晰な子達が揃っている。何か困ったらこの子達に相談すればいいだけだ。
「そうだな、ベルがいるんだったよ。」
「そうですよ!忘れないでください!私はアキさんの妻ですから!」
何時ものセリフと共に、えっへんと胸を張るベル。
「アキさん、私も!私もいますわよ!」
ミルナがはいはいと手を挙げ、存在をアピールしてくる。
「ミルナも頼りにしてるよ。」
実際ミルナも領主の娘として、色々と教育を受けているから期待できるしな。
「ええ、うちの娘はちょっと・・・残念・・・ですが、しっかり教育はしておりますのでシノミヤ侯爵のお役に立てると思います。」
アキの考えてる事を見抜いたかのように、セラストリアが言う。ただ残念と言われたミルナは納得がいかないらしく、セラストリアに食ってかかる。
「お父様!残念ってなんですの!どこか残念なんですの!!」
ミルナのどこか残念か、ここで小一時間語ってやろうか。うちの屋敷では毎日食って寝てのぐーたらな生活をしている事を暴露してやりたい。ただそんな事するまでもなく、セラストリアやミルリースは娘であるミルナの事はちゃんとわかっている。
「何言ってるんだ、お前は。いつもいつも食っては寝てばかりじゃないか。」
どうやら暴露するまでもなかったようだ。というか実家でもその生活だったのかと呆れる。ある意味凄いな、ミルナ。
「そ、そんなこと無いですわ!アキさん違いますわよ!」
必死に弁解してくるが、今更そんな事をされても意味はない。
そもそもうちでも同じことしてるしな。
「実家でもそうなのか、ミルナ。」
「実家でも・・・?ということはシノミヤ侯爵のところでもそうなのですか?」
「ええ、うちでも自由奔放に生活してますよ。」
「アキさん!?何を言ってるんですの!?嘘、嘘はやめてくださいませ!」
嘘どころか事実しか言ってない。
「はぁ・・・やっぱりそうなんですね。冒険者になるなると言っていたのはまだいいんですが、ずっと自堕落な生活をする子だったので、早く結婚させようとしたんですよ・・・」
溜息交じりに呟くセラストリア。
その説明はミルナから聞いていない。政略結婚させられそうになったから家出したとは聞いたが、そもそもの原因がミルナの自堕落生活だとは聞いてないぞ。
「そうなんですか?冒険者になるのを反対され、政略結婚させられそうになったから家出したと本人からは聞いたんですが・・・」
「まあ否定はしません。レインバース領の為に結婚して貰おうとしたのは事実です。ですが冒険者になるのは反対したのは、あんな生活をしていたら冒険者としてやっていけないと思ったからなんです。本気で真面目に冒険者になろうと取り組んでいたら少しは考えたと思います。」
どうやら根本的な原因はミルナにあったらしい。
これは少々ミルナを問い詰める必要がありそうだ。
「ち、違いますわ!!私は毎日魔法の勉強をしていたんですの!!!アキさん!本当なんですのよ!!!お父様は自分の為に私を結婚させようとしたんですの!決して私が食べて寝てばかりだったからではありませんのよ!!!」
ミルナの絶叫が木霊する。