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「そろそろ儂の意見も言おうかの。」
そう言って爺さんはコホンと一つ咳払いをすると、ゆっくり話し始める。
「アキの方向性で概ねは間違っておらん。儂も同じ考えじゃ。ただ先も言ったが、そこまではおそらく辺境伯でもわかってる事。問題はその内容じゃの。」
一応アキが言った事は的外れではなかったらしい。ただあれで「素晴らしい、正解」という訳にもいかないようだ。まあそんな事はアキもわかっている。特典をつけて観光客を誘致しようなんてのは誰でも思いつく事だ。大事なのはどういう特典を付けるかだ。
「じゃが税率に関しては一理あるの。その方法は考えておらんかたわい。」
爺さんが感心したように呟く。
「そうですね。観光客誘致の為の特典に関しては色々と考えもありましたが、領民を優遇する為、税率を変えるというのは盲点でした。」
セラストリアも爺さんに同意する。
どうやらアキがした領民優遇に関しては斬新な提案だったらしい。地球ではそういうやり方がよくあったので当然と思っていたが、ベルフィオーレではそうでもないようだ。ハワイなどのメジャーな観光地では物価が高い。観光客は財布の紐がゆるくなるから、そうなるのも当然だろう。ただ物価が高いとなると、現地で暮らす人々にはどうしても負担がかかる。賃金が高いならそれでもいいが、中々そう言う訳にもいかない。そこで採用されていたのが、特別税率や割引を現地の人に適応する方法だ。
「しかしアキよ、領民と観光客をどう見分けるかの?冒険者は一目瞭然じゃが・・・この街を拠点にしておる冒険者もおる。商人なんか余計わからんと思うが。」
爺さんの言う通り、問題はそこだ。観光客と領民を見分けるのは難しい。正直言って不可能と言っても過言ではない。例えば領民割引を適用する為、合言葉を決めたとしよう。それが風の噂で広まり、観光客もそれを使いはじめたら意味がない。地球だったら身分証を見せろとか言えるかもしれないが、ベルフィオーレにそんな便利なものは存在しない。まあ冒険者証がそうと言えるかもしれないが、商人や一般市民はそんなものは持っていないだろう。
だが方法が全くないわけではない。
「2つ案がある。1つ目は全体の税率を弄ってしまう方法。領民には後で還元すればいい。領民の名簿なんかがあればその辺は容易だと思うよ。」
名簿がないなら作ればいいしな。
「でもそれだと誰がいくら使ったかわからないのでは?」
セラストリアが聞いてくる。
「そうですね。でもセラストリア辺境伯、この街で買い物する際、物品には全て税が掛っていますよね?」
「ええ、我が領地には生産税、販売税など複数の税がありますが、実際に物を購入する際にも税金を上乗せした価格で販売するようお願いしております。」
いわゆる消費税だ。
ベルフィオーレでは、どの程度税金をかけるかは、その国、そしてその土地の領主によって違う。例えばエスぺラルドだと、まず国が各地に対して税金をかける。どういう基準で税の額が決まっているのかはベルに聞いてみないとわからないが、各領地に対して年間いくらという税金を課している。それを基本的に支払うのが領主。そして領主はその税金を払う為、領民に様々な税を課す。
その一例が生産税や販売税などになる。生産税は第一次産業者に課される税金で、生産された農作物や水産物の量に応じた金額を領主に収める。販売税は消費税と違い、この街で商売をする為に必要な税金だ。他にも様々な税金があるのだとベルが言っていた。中には理不尽な物もあるらしいが、そういうのは発見次第、ベル達が粛清するのだとか。
とりあえずこの世界の税についてはこんなところだ。
「生産税や販売税はそのままでいいと思います。販売税の部分を領民に還元するのがよいかと。方法としては・・・領民が物を購入した際、いくらで何を購入したかの明細を発行するように義務付けます。そして年度末などに、購入した明細を提出させ、その額に応じて、還元処理をすればいいかと。」
まあ簡単に言えば、レシートを発行し、それを提出すれば還元が受けられるというものだ。
「いい案だと思いますが・・・それはちょっと手間がかかり過ぎるのでは?」
セラストリアが難しい顔で呟く。
だがその通りだ。この方法であれば領民に対して還元を確実に行えるが、これは正直あまり現実的とは言えない。各店がレシートを発行し、それを領民がきちんと保管、報告をしなければいけない。さらには報告を受けた領主側が全て精査しなければいけないので、かなりの工数が掛る。まあ工程さえ構築してしまえば楽だとは思うが、0からこれを作り上げるのは時間もコストもかかり過ぎるだろう。
「そうですね、虚偽の報告なども出るでしょうし、この方法では辺境伯の仕事が増えるだけです。」
「うむ、あまり現実的じゃないの。それよりアキ、2つ目の案はなんじゃ?そっちが本命じゃろ?」
爺さんが早く話せと急かして来る。
その通り、実際に提案したいのは2つ目の案だ。