表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十一章 故郷巡り
789/1143

14

「ほっほっほっ・・・可愛いメイドさんをそう怒鳴るものじゃないぞ。」


 豪快に笑いながら応接室に誰か入ってきた。


 白髪で、顎には立派な髭がある年配の男性。


 もう誰だかは言うまでもないだろう。エスタートの爺さんだ。


「げ・・・爺さんかよ。」


 つい声に出てしまった。というか爺さんの話をしていた途端本人が登場するとかどこのB級映画だ。さすがの出来過ぎた展開に呆れてしまう。


 そもそも何故爺さんがこのレインバース領に来ているのだろう。


「こら、アキ!『げっ』とはなんじゃ!!」


 アキの呟きが聞こえたらしい爺さんが不機嫌そうな顔で文句を言ってくる。


「だって急に爺ちゃんが出てきたら驚くだろ。」

「久々に孫に会いに来たのにこの仕打ち・・・酷いのじゃ!」


 酷いとか言われても困る。


 この状況、どうしたものかと首を捻っていたら、爺さんの背後から1人のメイドがスッと姿を見せる。


「エスタート様が勝手に来たのが悪いと思います。この耄碌ジジイ。」


 イリアナだ。毒舌なのは相変わらずのようだ。


「うちのメイドが最近酷いのじゃ!アキ!」


 最近どころかイリアナはずっとこうだった気がする。というより爺さんも使用人に畏まられるよりこっちの方を好んでいるはず。本当に嫌ならイリアナを一喝するなり、解雇するなりしているだろう。それをせず、今でも側仕えとして連れ回しているのだから、お互い楽しくやっている証拠だ。


「アキさん、すいません。急に来てしまい。」


 爺さんの事を無視してイリアナがペコリとアキに頭を下げる。


「イリアナ、久しぶり。元気にしてたか?」

「はい、おかげさまで。」


 イリアナと会うのは数週間ぶりだ。最近用事がある時はアリア経由で連絡するだけだったし、実際に顔を合わせるのは久々だ。


「なんでうちのメイドと話を進めるのじゃ!儂も混ぜろ!」


 イリアナと話していたのが気に入らないのか、子供のように駄々をこね始める爺さん。


 非常に面倒だ。


 だが爺さんと会うのも久々だし、ここは少し爺孝行するべきか。


「爺ちゃん、最近顔出せてなくて悪い。吃驚したけど会えたのは嬉しいよ。」

「うむ!そうじゃろそうじゃろ!儂も嬉しいからの!」


 アキの言葉で爺さんは一転して機嫌がよくなった。ただこんな爺さんのデレなんて見ても嬉しくともなんともない。これがエレンなら可愛いと思えるのに。


「それで爺ちゃん、なんでここにいるんだ?」


 そもそもこれが最大の疑問だ。今回爺さんにはアキ達がレインバースへ行く事は伝えていない。まあミルナの両親を説得するのに爺さんの名は借りたが、後で報告すれば済むと思い、今回の旅については何も言わなかったのだ。


「ほっほっほっ!そこはうちの優秀なメイドのおかげだ!」


 悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべる。


「アキさん、それについては私から説明を・・・」


 そしてイリアナが爺さんに代わり説明してくれた。


 何んでもアリアが趣味の文通で、イリアナに「アキがレインバース領に旅行する」と伝えていたらしい。そしてそれを聞いた爺さんは「なら儂も今すぐ行くしかないの!」と暴走し、強行軍で来たのだとか。


「イリアナ、大変だな。」

「ええ、この耄碌ジジイのせいで毎日大変です。アキさんのところで雇ってください。」


 半分社交辞令で言っただけなのに、ここまで正直な返事が返ってくるとは思わなかった。実際、爺さんの無茶振りに相当苦労しているんだろう。


「おう・・・前向きに検討しておくよ。」


 正直なところ、今ならイリアナをちょっと雇いたい。今まではずっと断ってきたが、アキは最近使用人を幾人か雇う事を決めたばかりだ。実際ミレーでも何人か雇ったし、領地の屋敷でも雇うつもりでいる。


 そう考えると、イリアナは滅茶苦茶優秀なメイドだ。元Sランクの冒険者でもある。「戦える有能メイドさん」という事で、雇えるなら雇いたいと言う気持ちはある。ただここでアキが「はい喜んで」とか言おうものならアリアに殺される。アリアはやたらとイリアナに対抗心があるからな。


 とりあえずイリアナの雇用についてはおいておこう。


「爺ちゃんがレインバース領に来た理由はわかった。でもこの領主館に来たのは・・・俺がここにいるのを知ってたのか?」


 まあ答えはわかりきっているが、一応聞いておく。


「はい。ミルナミアさんのご実家という事ですぐにわかりました。アキさんの到着する日はアリアさんの手紙から予測出来ましたし、アキさんなら到着してすぐこちらへ来るだろうと予想しておりましたので。」


 まあその通りだ。


「で・・・爺ちゃんは俺を驚かせたかったと。」

「ええ、悪趣味だからと止めたんですが・・・」


 困った表情でそう呟くイリアナ。


「孫に会いたかったんだから別にいいじゃろ!それよりアキ!さっきからイリアナとばっかり話しおって!いい加減拗ねちゃうぞ!」


 うん、いい歳した爺さんに「拗ねちゃうぞ」とか言われても困る。先も言ったが、全然可愛くない。


「それより爺ちゃん・・・俺達の話より、レインバース辺境伯とまずは話した方がよくないか・・・?」


 セラストリアは爺さんが応接室に突撃してきた時から唖然とした表情で固まったままだ。そろそろ彼も会話に混ぜた方がいい気がする。第一、彼の屋敷だからな。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ