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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十一章 故郷巡り
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13

「む・・・」


 唸り声をあげながら難しい顔をして考え込んでいるセラストリア。


 だがこれはただの演技だ。二つ返事でアキの提案に乗っては貴族の威信に関わる。既に結論は出ているが、考え込むふりをしているだけに違いない。隣に座っているベルが「貴族って面倒ですね」といった顔をしているから多分間違いないだろう。


「いかがでしょうか。」

「そ、そうですな・・・うん、確かにシノミヤ侯爵の言う通り、悪くないお話です。おい、ミルナミア、お前はシノミヤ侯爵との婚姻を望んでいるのか?」


 セラストリアがミルナに確認する。だがアキからしてみれば、「ちゃんと娘の意思を尊重していますよ」というパフォーマンスにしか見えない。まあセラストリアは出会ってからずっと怒鳴っていたわけだし、印象は良くない。そう言うバイアスで見てしまうのは仕方ないだろう。


「は、はいですわ・・・!アキさんがいいんですの!」


 上手く話がまとまりそうで安心したのか、心なしかミルナの表情は明るい。


「ふむ、ならなんの問題もないな。お前はシノミヤ侯爵に嫁ぎなさい。」

「はいですわ!!!」


 ミルナは満面の笑みで返事をする。


「ミルリース、お前も問題ないか?」

「はい、あなたが決めた事に文句などありません。それに私としても良いお話かと思います。よかったですね、ミルナミア。」


 ミルナの母親であるミルリースもこの決定で特に問題はないらしい。


 とりあえず何とかなった。やはりベルや爺さんを利用させてもらえたのがでかかったようだ。そしてミルナからきいていた通り、セラトリスは上昇志向が強く、貴族の体面を大事にする人間だったのも上手く話がまとまった要因だろう。


「シノミヤ侯爵、うちの娘をよろしくお願いします。」

「不束な娘ですが・・・よろしくお願いします。」


 改めて丁寧に頭を下げるセラストリアとミルリース。


「ありがとうございます。ちゃんとお話し出来てよかったです。」

「いえいえ、こちらこそ色々申し訳ありませんでした・・・」


 しかし改めてセラストリア達を見ると、悪い人間には全く見えない。服や領主館の趣味は悪いし、出会ってすぐ怒鳴り合いが始まったので、第一印象はよくなかったが、根はミルナの事をちゃんと考えている人達のだろう。それにセラストリアは領主としての立場がある。領地を繁栄させなければいけない重圧もあるだろうし、家族を最優先に出来ない事も多いはずだ。ミルナの婚姻についてはその辺で板挟みになっていたかもしれない。


「とりあえずミレンド商会の会長には一筆書いておきますね。」


 爺さんには「後はよろしく」と丸投げしておけば上手くやってくれるはずだ。大商会だし、優秀な人間を回してくれるだろう。


「あ、ありがとうございます・・・!」

「レインバース領はミルナミアさんの故郷ですし、さらに発展する事を心から願っております。」


 これは本心だ。綺麗な街だし、是非とも発展してもらいたい。


 しかし爺さんが介入することでこの地がどの程度発展するのかは正直わからない。既にミレンド商会の店はこの街にいくつもあるみたいだし、果たしてアキが爺さんを紹介したところで意味はあるのだろうか。


 ただあれだけの商会を1代で作った爺さんだ。間違いなくやり手だろう。商売に素人のアキが心配しなくとも、色々とやれることはあるに違いない。


 そんな事を考えていたら・・・応接室の扉が開き、メイドが1人入って来た。


「おい!この部屋には誰も通すなと言っただろう!」


 すぐさまセラストリアが扉を開けたメイドを一括する。


 アキ達はこの屋敷に到着し、とりあえずこの応接室に通された。ミルナの知り合いという事で、一応は客人扱いをされたのだろう。まあアキは侯爵の爵位を持っているからというのもあったに違いない。そしてこの応接室で待つ事数分、ミルナの両親が怒鳴り込んできて・・・が先程までのいきさつだ。


 しかしそんな場所にメイドが誰かを案内してくるというのは少々おかしな話だ。久々に娘が帰って来た、しかも男を連れて。間違いなく話が泥沼化するのは誰でもわかる。当然セラストリアもこの応接室には誰も通すなと言明してあったはず。その命令を使用人がおいそれと破るとは思えない。


「も、申し訳ありません!旦那様!しかしお客様が・・・!」

「そんなものは待たせておけ!いちいち邪魔しに来るとはどういう事だ!シノミヤ侯爵殿がおられるのだからこちらが優先に決まっておるだろう!」


 セラストリアがもの凄い剣幕でメイドを怒鳴る。先程までは碌に客人扱いされなかったのに、今ではすっかり「侯爵様」らしい。まあミルナとの婚姻の話がまとまった以上、ちゃんと侯爵扱いしてくれるのだろう。


 ただそんな事はこのメイドもわかっているはず。それを承知の上で客人が来たと言いに来た。つまり来客は侯爵であるアキと同等か、それ以上の・・・


「ほっほっほっ・・・可愛いメイドさんをそう怒鳴るものじゃないぞ。」


 豪快に笑いながら応接室に誰か入ってきた。


 白髪で、顎には立派な髭がある年配の男性。


 もう誰だかは言うまでもないだろう。エスタートの爺さんだ。

挿絵(By みてみん)

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