表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十一章 故郷巡り
787/1143

12

 まあ次の手札と言っても何か特別な事をする訳ではない。アキはただただ事実を伝えるだけだ。それできっとセラストリアも納得するはず。


「セラストリア辺境伯、ミルナミアさんとの婚約を認めて頂きたいのですが。私は侯爵の爵位を持っていますし、彼女の身分には十分釣り合うかと思います。」

「そ、それはそうかもしれません・・・侯爵ともなれば文句のつけようも・・・ですがうちの娘にはもう婚約者がですね・・・」


 やたらとその婚約者とやらを盾にしてくるセラトリア。ミルナが家出した理由はその婚約が嫌だったというのに、何故セラストリアはそこまでしてその縁談を纏めたいのだろう。


 実はその理由、ミルナから少し聞いてある。


 この縁談には少々裏があり、ミルナの為というよりはセラストリアの為の縁談なのだ。縁談相手の家は名門貴族で、様々な商人に伝手がある事で有名らしい。つまりセラトリアはミルナをそこへ嫁がせ、そう言った商人との繋がりを作りたいのだ。


 まあセラストリアは領主としてレインバース領を繁栄させなければならないので、そう言う意味では正しい行動とも言える。アキとしては完全にミルナの気持ちを無視しているので頂けないが。


 ただベルやミルナが言っていたが、貴族の娘ともなればそういった政略結婚は当然で、貴族としての義務らしい。普通は親の言う通り、結婚して良縁を結ぶことになんの疑問も感じないのだとか。その点で言うとミルナは少々特殊、というか「貴族の娘の義務なんて知りませんわ!私は私の好きなように生きるのですわ!」と言った跳ねっかえり娘だったという訳だ。


 まあアキとしては好きに生きるのが当然な環境で育ってきたので、ミルナの意見に共感はできる。正直貴族の義務とやらはよくわかないしな。ただアキも先日貴族になった事だし、今後はそう言った事も気にしなければならないのだろう。


 とりあえず貴族としての義務はさておき、この縁談にはこういった裏があるのだ。つまりセラストリアは、自身の領地であるレインバースをさらに繁栄させる為、様々な貴族や商人との繋がりを作りたい。今でも辺境伯という地位にいる以上、それなりのパイプは持っていそうだが、まだ足りないのだろう。もっと功績を残し、さらに上へ行きたいと言う訳だ。


「セラストリア辺境伯、その縁談もさぞかし素晴らしいと思いますが、私との婚姻を認めて頂く方が何かと都合がいいと思いますよ?」


 セラストリアがそう言った思惑で動いている以上、アキが今いる立場は非常に優位に働くはずだ。


「ど、どういう事でしょうか・・・」

「そうですね、まず私はこの国の王女であるベルと婚約しています。まあそのベルがいるのでミルナミアさんは体面上は正妻にはなれませんが・・・私は正妻だと思っています。」

「それはありがたい事ですが・・・」


 セラストリアはだからどうしたと言いたげだ。


 勿論アキが言いたいのはそんな事ではない。ここからだ。


「いえいえ、私はベルと婚約しているんです。つまりこの国の国王であるエルミラ陛下とも懇意していると言う事です。そしてさらにはミレー、サルマリア、リオレンドとの国王陛下や王妃殿下とも面識があります。」


 運がいい事に、アキはベルフィオーレにある四国全てに繋がりを持っている。これも全部うちの子達のおかげだろう。


「ほ、ほう・・・」


 セラストリアが少し目を見開く。


 彼の興味を引く事に成功したようだ。


「はい、そしてミレンド商会・・・はご存知ですか?」

「当然ですな。最近もの凄い勢いで力を付けている商会です。今まではトリニア商会、ゼクス商会、ミレンド商会が3大商会と言われていましたが・・・すっかりミレンド商会1強になりつつあります。」


 そのくらいは知っていて当然といった顔で得意気に語るセラストリア。


 だがそれは好都合だ。そこまで詳しいのであれば、アキがエスタートの爺さんと懇意にしている事がかなり優位に働く。


「ええ、実は私、そのミレンド商会に商品を提供しておりまして・・・あとそこの会長のエスタートさんとは家族のような間柄なんですよ。」


 爺さんとの関係を他人に言いふらしていいか本人に確認はしてないが、あの爺さんの事だ、「いくらでもいうがよい!」と二つ返事でOKしてくれるだろう。それに爺さんはアキのこの世界での後見人でもある。何かあったらいつでも頼れと言われているし、名前を借りるくらいは許してくれるはずだ。


「つ、つまりシノミヤ侯爵は各国・・・そしてミレンド商会に顔が利くと・・・?」

「端的に言えばそう言う事です。まあその分トリニア商会やゼクス商会とは一切関係ないですが。」


 正直セラストリアを説得するにはこれで十分だろう。今でもかなり心が揺れ動いているようだし、ミルナをアキに嫁がせるメリットは十分伝わったはずだ。


 後はここで最後の一押しをしてやれば・・・


「ミルナさんとの婚姻を許していただけませんでしょうか。彼女を無下に扱う事は致しません。それに結婚式にはミレンド商会の会長、各国の国王陛下や王妃殿下も参加して下さると思います。是非そこでセラストリア辺境伯の事を紹介させて頂きたい。」


 あからさまな人参だが、上昇志向の強いセラストリアなら間違いなく食いつくはずだ。

 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ