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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十一章 故郷巡り
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「まずは自己紹介から始めませんか?」


 到着してすぐにこの言い争いが始まったので、アキはまだミルナの両親の名前も知らない。まあレインバース辺境伯とその夫人なのはわかるが・・・それだけだ。それにアキの自己紹介すらまだしていない。ミルナの両親にしてみたら、どこの馬の骨ともわからない男だと思うのも当然だろう。


 つまり今お互いにすべきなのは自己紹介だ。


「初めまして、レインバース辺境伯。私はアキ・シノミヤ、先日エスぺラルド王国より侯爵の爵位を下賜されました。そしてミルナさんも言っていましたが、一応彼女の婚約者です。本日はそのご挨拶をさせていただきたく、こうしてお邪魔させて頂きました。」


 先ずはアキが先陣を切って挨拶をする。本来であれば爵位が低い辺境伯からするのが通例だとは思うが、アキはミルナを下さいとお願いしに来ている立場だ。下手に出て、お伺いを立てるくらいが丁度いいだろう。


「こ、これはご丁寧にどうも。私はミルナミアの父であり、この地の領主であるセレストリア・レインバース辺境伯です。そしてこちらにいるのが私の妻であるミルリースです。」


 アキに続いてミルナの父親であるセレストリアが挨拶をしてくれた。


 セレストリアは白髪交じりの亜麻色の髪をした初老の男性。見た感じ年齢は50代くらいだろうか。顔立ちは整っており、紳士的な雰囲気を纏っている。そしてどこかミルナの面影を感じる。ただいかにも貴族と言った感じの派手な服を着ており、正直ちょっと趣味が悪い。まあこの領主館を主と考えれば妥当なところかもしれない。


 そしてミルナの母親であるミルリース。こちらはミルナと同じアクアブルーの髪をした年配の女性だ。顔つきは少々きつめだが、気品ある貴婦人といった感じ。服装もセレストリアとは違い、上品で落ち着きがあり、ミルナの趣味に少し似ている。


「そ、それでその・・・シノミヤ侯爵殿は王女殿下の婚約者なのですか・・・?」


 セレストリアがおずおずと確認してくる。


 やはりそこが気になるらしい。ただベルが既にそうだと言っているのだから、改めてアキに確認するのは不敬とも言える。だが確認せずにはいられなかった、きっとそれくらいの衝撃だったのだろう。


「ええ、こちらのアイリーンベル王女殿下とも婚約しております。」


 一応公の場なので、ベルの事をフルネームで呼んだ。だがベルはそれが気に入らなかったのか、アキの脇腹を抓ってくる。


「アーキーさーん?」

「しょうがないだろ。」

「アキさんだけの特権なんですからちゃんと愛称で呼んでくれないと嫌です。」

「わかったよ・・・ベル。」


 仕方ないのでいつも通り「ベル」と呼んでやる。


「ふふ、それでいいんです。」


 するとベルは満足したのか、すっかり上機嫌になった。


 本当に単純な王女様だ。


「た、確かに仲も睦まじいようで・・・コホン、王女殿下、改めましてご婚約おめでとうございます。レインバース家領主として正式に歓待とお祝いをさせて頂ければ・・・」

「あ、そう言うのは結構です。」


 セレストリアの言葉を遮り、申し出をばっさりと切り捨てる。


 まあアキとしても当然断るつもりだったので、ベルが代わりに言ってくれたのはありがたい。


「そうですか・・・」

「はい。それよりアキさんの話を聞いてくださいませんか。」


 早く話を進めてくださいとベルが急かす。どうやらさっさと話を終わらせて帰りたいらしい。まあこの後は皆でレインバースの街を観光する予定だし、ベルにしてみたらそっちの方が重要で、ミルナの両親なんてどうでもいいのだろう。


「それでは改めて・・・本日は急にお邪魔してしまい申し訳ございません。」


 アキとしてもさっさと挨拶を済ませてしまいたいので、ベルの口添えは助かった。


「い、いえ、こちらこそ何の歓待の準備も出来ず申し訳ありません。」

「ベルも言っていましたが、それは気にしないでください。今日はご挨拶に来ただけですので。」

「はい・・・そ、それでシノミヤ侯爵はうちの娘とも婚約されているとか・・・」


 セラストリアの方から本題を切り出してくれた。


「はい。少し前にミルナミアさんと出会い、その時はお互い冒険者として活動しておりました。色々と話しているうちに意気投合し・・・思いを寄せ合う仲になり、婚約しようという話になりました。そしてこの度、ご両親にご挨拶させて頂ければと思い、こうしてお邪魔させて頂いたと言う訳です。」


 全てが全て本当というわけではないが、嘘は言っていない。まあさすがに別世界からきてミルナに色々と世話になった、と言ったところで信じては貰えないしな。それにそれを話すならミルナが冒険者としてやらかした件も話さなければいけないし、その辺は伏せておいた方がいい気がした。


「なるほど・・・しかしシノミヤ侯爵のような方とうちの娘が釣り合うとは思えません。そもそもうちの娘には既に婚約のお話がありましてですね・・・」


 これは遠回しに「冒険者なんぞにうちの娘はやれん」と言っているのだろう。いくらアキが侯爵とは言え、本職は冒険者だ。それにベルと婚約している以上、ミルナは正妻にはなれない。領主としてはミルナを良家の正妻として嫁がせたいに違いない。


「しかし彼女はそれが嫌で家を出たのでは?」

「それはこの子が子供だからです!この子は領主の娘としての自覚が足りないのです!ミルナミアにはちゃんとした貴族に嫁いでもらわないと困るのです!」


 まあアキがちゃんとした貴族でないのは間違いないので、そう言われるのは仕方ない。ただ困るのはミルナではなく自分だろうと言ってやりたいところではある。


 ただこういう展開になるとは思っていたので、次の手札を切るとしよう。

挿絵(By みてみん)

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