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アキが風呂に行った事で、リビングにはミルナ達の4人、それにセシルとアリアが残される。2日ぶりの屋敷での団欒が落ち着くのか、みんな寛いでリラックスしている。ただどこか浮かない顔をしているレオ。
「レオ、どうしたんですの?少し元気がない様に思いますわ。」
ミルナがレオの尻尾の様子に気付いたのか声をかける。やはりアキだけでなく、ミルナのレオの感情判断要素も尻尾らしい。
「え……う、うーん。」
言おうかどうか迷っているようなので、ミルナは遠慮するなと促す。
「あのね、ここ数日アキが全然撫でてくれないから……。」
尻尾をシュンとさせて寂しそうな表情をする。
「確かにそうです。うー、アキさん不足です。」
ソフィーもレオの意見を聞いて撫でられていない事を思い出したようだ。
「私の予想ですけど、アリステールではアキさんは意識してそういう行動を過剰にしていたのですわ。私たちに懐かれ、そして自分に憎しみを集め、アレを実行する為に。それが終わったから過剰に私達と触れ合う必要性がなくなった……という事ではないでしょうか。」
ミルナが自分なりに考えて辿り着いた結論を言う。
「アキの事だから間違いなくそうよね。」
エレンが呟く、やはり彼女も少し寂しそうだ。
「口を挟んで申し訳ありません。」
リビングで話しているのでアリアとセシルもミルナ達の話は聞いていた。そのアリアがミルナ達の会話に割って入る。アキがいないのに会話に入ってくること自体が珍しいアリア。さらに自分から進んで口を開いたのでミルナ達は驚いた。
「ミルナさんのおっしゃる通りかと思います。アキさんは不用意に女性に触れたりして不快感を与えるような方ではありません。紳士的に接してくださる方です。やはり計画が終わった以上、今後そう言った事をするつもりはないのでしょう。私達が不快感を覚えないように。」
「えー、そんなのやだよ。不快なんて思わないよ。」
「レオさんはまだいいです。私は撫でて頂いた事なんて一度もありません。皆さんは計画の為とはいえあるのでしょう?それが少し羨ましいです。」
アリアはそういうと少しだけ仏頂面を崩す。アキ以外に対しては常に仮面を被っている彼女がその仮面を外したのだからミルナ達が本当に羨ましいのだろう。
「それじゃあもう撫でてくれないんですかね……?」
ソフィーが誰に言うでもなく呟く。
「おそらく頼めばしてくださるでしょう。ただアキさんから進んでという事はなくなるのではないでしょうか?」
多分アリアの言う通り、自分から頼めばしてくれるだろう。ただ彼女達はアキが自らから進んでやってくれるのが嬉しいのだ。それにミルナ達から頼むのは凄く恥ずかしい。
「ただ1人を除いて。」
アリアが最後にボソッと付け足してセシルの方を見る。ミルナ達もそれに釣られてセシルに視線を送る。
「え?え?なんでしょうか?」
急に視線を向けられたセシルが戸惑う。
「うふふ、言われてみればそうですわね。」
ミルナがお得意の黒い笑みを浮かべる。
「ええ、1人だけにはこれからも進んでやるでしょう。」
アリアはいつもの仏頂面だが、鋭い目つきでセシルを見る。
「獣人は僕の特権だったのに。」
「ずるいわね。」
「ずるいです、お仕置きが必要です!」
レオ、エレン、ソフィーも怖い笑みを浮かべてセシルを見る。
「え?何を言ってるんですか?なんで私を見るんですか?」
セシルはわけがわからないらしく、ちょっと怯えた表情だ。
「どうでしょう、捥ぎませんか?」
アリアがさらっと提案する。
「それはいいですわ、捥ぎましょう。」
「捥ぐのはいい案だわ。」
「僕も賛成。」
「もぎもぎしましょうー。」
ミルナ、エレン、レオ、ソフィーが同調する。
「え!なんで!待って!もげない、もげないから!」
セシルは涙目になりつつ必死に自分の長い耳を両手で握って守ろうとしている。ちょうどその時、扉が開いてアキが戻ってくる。
「あれ、みんなどうしたの?」
「ど、どうしたんですか?お風呂にしては早くありませんか?」
急に入ってきたアキにさすがのアリアも少し戸惑ってしまう。
「いや、風呂入る前にやっぱり訓練しておこうと思って。その前に忘れてた事があったから戻ってきた。」
「忘れてたことってなんですの?」
ミルナが不思議そうに訪ねる。
「うん?これこれ。」
「ひゃ……なんで耳を……触るの……!」
アキはセシルに近づき耳を優しく撫でる。
「やっぱりセシルの耳は癒されるな。今日の癒しを忘れていた事を思い出してね。ダメ?」
「ダメじゃない……けど急にはびっくりする……から。」
アキはごめんごめんと言いつつ、セシルの耳を堪能するまで撫でる。
「満足。」
アキはそれだけ言い、訓練してくると部屋から出て行った。
「もお……アキさんはいつも急に撫でるんですから……。」
今の一連の出来事に何が起こったのか頭が追いつかず唖然と見ていた面々だったが、セシルが嬉しそうに呟いた一言で我に返る。
「兎狩りをしないといけませんわ。」
「ええ、毛も残さず狩りつくしましょう。」
ミルナとアリアが仲良く同意する。
「え?……なんで?ちょっと待ってください!」
さっきよりも殺気が増したのを感じたセシルは後退る。
「言い訳は許さないわ!覚悟しなさい!」
「えへへ、セシルさんを捥ぎますー!」
エレンが怒りながら、ソフィーが妖しく笑いながら、セシルに近づく。
「なんで、ダメ……!捥がないで、狩らないで!」
セシルが必死に2人から逃れる為、扉の方へ走っていくのをレオは見て呟く。
「全く……アキ絶対途中から聞いてたよね。最初の方は聞いてなかったっぽいからいいけど……。まあ、でもあれってうちらの距離が少しでも縮まるようにって事なのかな。」
ふと気配がしたのでレオが隣を見ると、ミルナとアリアが立っていた。
「多分そうですわ、まったくアキさんは……。」
「でもそういう人だからこそ皆、慕っているんでしょう。」




