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馬車に揺られる事1日とちょっと、アキ達は無事ミルナの故郷であるレインバース領に到着した。
ちなみに昨晩は夜営だった。ただ夜営と言っても全員馬車の中で寝たので、野宿とはちょっと違う。というかベルが用意してくれた馬車は王族御用達の馬車だ。むしろ快適この上なかった。
ただ寝ずの番にはちょっと懐かしさを感じた。転移魔法が使えるようになってからはすっかりご無沙汰だった寝ずの番。まあ平和なベルフィオーレでそれが本当にいるのかと言われれば、正直疑問が残るが、魔獣に襲われたり、野盗に出くわしたりする可能性が0ではない以上、無駄な事ではないだろう。
それに魔獣制度を廃止したと言っても魔獣はまだまだいるし、犯罪者だって数は少ないが一定数はいる。むしろ魔獣制度を廃止した事で今後増加する可能性の方が高いだろう。つまりこういう見張り番は今後もなんだかんだで必要だ。
ちなみにミルナ達には「アキさんはお屋敷へ転移して寝てくださいませ!」と言われたので当然断った。まあミルナ達は完全に善意で言ってくれているので、気持ちは嬉しい。だがせっかく旅に出ているのに、そんな情緒もない事をしたくはない。それにミルナ達だけ残してアキだけ屋敷のベッドで快眠するのもさすがに気が引けた。
とりあえずそんな一夜が明け、アキ達は昼過ぎにレインバース領に到着した。
――ミルナの故郷であるレインバース領
ミルナからは港町だと聞いており、御伽噺に出てくるような海沿いにある欧風の街を想像していたのだが・・・これは凄い。いや、確かに想像通りではあったのだが、想像を超える美しい街並みだった。
レインバースの街に繋がる門をくぐると、海、そして街が一望できる。この街は崖を切り開いて作られているのか、海に向かって急坂になっており、その急な斜面に西洋風の建物が整然と並んでいる。さらには海の上にもだ。どういう建築原理で作られているのかはよくわからないが、海の上にもいくつもの建物がある。そして一つ一つの建物が美しいアーチ形の橋で繋がれている。まさに絶景。御伽噺に出てくる街のようなではなく、まさに御伽噺の世界に迷い込んでしまったと勘違いしてしまう、そんな街だ。
「綺麗な街だな・・・」
「うふふ、アキさんにお気に召して頂いたなら嬉しいですわ。」
ミルナが嬉しそうに笑う。
「いつかここに別荘を買うのもいいな。」
気に入るどころか最高の街だ。隠居する日が来たらこの街に移住するのもありかもしれない。森の中にある温泉街、マリミアも美しかったが、こちらも素晴らしい。あちらが森と共存している街ならレインバースは海と共に発展した街と言えるだろう。
「またお屋敷を買うんですの・・・?」
もう管理しきれないくらいありますわよとミルナはどこか反対気味だ。
「いまさら1個や2個増えたところで問題ないだろ。な、アリア?」
「はい。アキさんが欲しいならいくつでも。私がすべて管理してみせます。」
さすがアリア。うちのメイドはかっこいい。
「で、でも私の街はやめたほうがよろしいかと思いますわ・・・!!!」
「それミルナが親に顔合わせたくないだけだろ。」
「はい!そうともいいますわ!」
今更取り繕っても意味がないと思ったのか、とうとう開き直り始めたミルナ。まあ潔いと言えば潔い。
「安心しろ。いつか買うかもってだけだ。隠居する日が来たらの話だよ。」
今は忙しいし、やりたい事も沢山ある。別荘として1つ買っておいてもいいが、急ぐ必要は別にないだろう。
「あ、そうですのね!それなら大丈夫ですわ!そのころにはもう私の両親はいませんもの!むしろお父様のお屋敷を差し上げますわ!」
ミルナ、それはさすがに開き直り過ぎだ。両親が聞いたら泣くぞ。
あと「お父様のお屋敷」って領主館だろ。絶対いらん。
「遠慮する。だってミルナの実家ってあれだろ?」
アキは海の上に立っているひと際豪華な屋敷を指差す。
あれは街に入った瞬間、目についた。というか目立ちまくっている。言い方は悪いが、成金趣味の豪華絢爛な屋敷。街の景観に全くそぐわない、もの凄い屋敷だ。まさかとは思ったが、多分あれが領主館、つまりミルナの実家だ。
「え、ええ・・ま、まあ・・・」
ミルナがスッと目を逸らしながら呟く。
「敢えて見ないようにしていたけど・・・やっぱりそうなのか?俺達はこれからあそこへ行くのか?」
「はい・・・ですのでやはり帰りません?今ならまだ引き返せますわよ・・・?」
溜息交じりにミルナが提案してくる。
「そうしたいとこだが・・・」
今回ばかりはさすがにミルナの案に乗りたくなる。
「とりあえず宿へ案内してくれ。」
とはいえ流石に「じゃあ帰ろう」という訳にもいかない。ミルナの実家訪問が旅の目的なのだから、行くしかないだろう。
「わかりましたわ・・・ではこのまま道なりに進んでくださいませ。」