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「ミコト、週に1回くらいはもふもふしにくるからよろくね?」
何時でもミレーに来られると言う事は、いつでもこの狐をもふもふ出来ると言う事だ。なんと素晴らしい。ミコト達にもちゃんと顔を出すよう言われたし、これで心置きなくもふもふしに来れる。
「・・・え?は?」
ミコトが首を傾げる。
「いや、ちょくちょく顔を見せろって言ってたでしょ?」
「あ・・・そ、そうですね?」
「だからもふもふしにくるよ!」
力強く「もふもふ」の部分をアピールしておく。
「は、はあ・・・わ、わかりました・・・」
ご主人様はそればかりですねと呆れた表情を浮かべるミコト。
雇って数日で使用人に呆れられてしまった。だがまあそこは諦めて欲しい。アキに雇われた時点でこうなる事はほぼ確定していたのだから。
「ご主人様。メイもいますので忘れないでくださいね?」
くすくすと笑いながらメイが会話に入ってくる。
「当然だ。メイの事もモフモフしに来るぞ。」
「はい、お待ちしております。」
メイはすっかりアキの性格を理解したらしく、余裕のある対応だ。
ちなみに人見知り3人娘達はアキの宣言を聞いて「ひぃぃぃ」と言った感じの表情を浮かべながら後退りしている。
うん、まあわかってたけどその反応はちょっとショックだ。
「それでご主人様、今後のご予定を確認させて頂いてもよろしいですか?メイドとしてはご主人様がどちらで何をしていらっしゃるか把握しておきたいので。」
メイ達の事はミレーの屋敷を管理するメイドのつもり雇ったので、旅に連れて行くつもりは一切ない。だからミレーを去った後の事は何も伝えていなかったのだが・・・確かにメイの言う事はもっともだ。もしアキの留守中にこの屋敷に来客があり、「ご主人様の行方はわかりません」だとメイ達が恥をかく事になる。
「わかった。今日ミレーを発ったらエスぺラルドに戻る。その後はミルナ達の故郷巡りをする予定かな。それが終わったら領地の視察。今のところ決まってる予定はこれくらいか・・・?」
「かしこまりました。エスぺラルドへは転移でお戻りになるのですか?」
「そうだね。ミルナ達の故郷や領地にはまだ行った事ないから馬車旅になるけど。」
「承知しました。それではこのお屋敷の留守はお任せください。」
そう言ってメイは優雅にお辞儀をする。
やっぱりアイリスが手配したメイドだけあり、メイは一流だ。動作や所作に一切無駄がなく、美しい。勿論メイだけじゃなくミコトもだ。ミヤビ達はまだ緊張しているからか動きが少しぎこちないが、アリア曰く仕事はかなり優秀らしい。ミヤビ達も問題ないだろう。雇って正解だ。
「うむ、頼んだぞ。」
「あの、貫禄を出して言ってくださるのは嬉しいんですが・・・ミコトさんの尻尾を愛でながら言われても・・・いまいちですね・・・」
「安心しろ。メイのも後でもふるから。」
「何を安心すればいいのかよくわかりませんが・・・ふふ、では楽しみにしておりますね?」
メイが子供を見るような目でもアキを見てくる。
もしかしてアキの事を弟のように見ているのだろうか。でも確かにメイは母性溢れる女性と言った感じがする。ちょっと甘えたくなるメイドさんだ。アリアやミコトとは少し違ったタイプで非情に新鮮。
「あのご主人様・・・それより私はそろそろお仕事に戻りたいのですが・・・」
ミコトの尻尾をもふりながらそんな事を考えていたら、ミコトに苦言を呈される。
「まだ満足してないから駄目。」
「そんな・・・」
まだ解放されないと知ってしょぼんと狐耳を垂れ下げるミコト。
そんな話をしていた丁度その時・・・リビングの扉が勢いよく開いた。
「こら!!!アキさん!!!」
「朝っぱらから何してるんですの!!!」
ベルとミルナが飛び込んで来た。
五月蠅いのが来てしまった。
さっきからセシル、リオナ、エリザの姿が見えないなと思っていたら、どうやらミルナ達を呼びに行っていたらしい。余計な事をするうちの獣人達だ。これで確実に説教コースじゃないか。人がせっかくミコトの尻尾で優雅な朝を満喫していたのに。
「アキさん!聞いてるんですか!!」
とりあえずミルナとベルの事は無視する。
どうせ怒られるなら今のうちにたっぷりもふもふを堪能するのだ。
「アキさん!無視しないでください!!!」
「そうですわよ!」
「・・・」
うるさいな。今はもふもふで忙しいのだ。
「「アキさあああああん!!!!」」
結局その後3時間くらい怒られた。