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「アキさん!!!またですかああああ!」
リビングの扉を開け、怒鳴り込んでくるセシル。
朝っぱらから騒がしい兎だ。
「うるさいな、優雅な朝の邪魔をしないでほしいんだが?」
無事音楽祭も終わり、今日はミレーで迎える最後の朝。
結局ミレーには1週間ほど滞在した事になる。ただ特に大きな問題なんて起こる事はなく、ちょっとした小旅行を楽しんだといった感じで終わりそうだ。
でも現実なんてそんなものだろう。もしこれがフィクションなら、会議で一波乱あり、音楽祭でもトラブルに巻き込まれ・・・と大変な思いをするのかもしれない。だがアキは小説の主人でもなんでもない。会議は予定通り進んだし、音楽祭も平穏無事に終了した。まあルベルシアの義息子熱の暴走や、シルヴィのウザ絡みなどはあったが・・・その程度だ。
一応音楽祭については昨日の事だし、終わってからの事も少し振り返っておこう。
アキのステージは言うまでもなく大盛況だった。アイリスにも感謝されたし、ミレーの音楽文化発展に貢献する事が出来たと言える。さらには想定外のエルミラ達の登場もある意味よかった。これでベフィオーレ全体への影響も期待できるだろう。
ちなみに音楽祭が終わってからはアリアと速攻で屋敷に帰った。勿論ルベルシアやステラ達に絡まれるのが嫌だったからだ。あの場でだらだらとしていたらあいつらは絶対に突撃して来ただろうしな。その証拠に昨夜遅く、ルベルシア、ステラ、シルヴィから連名で「感謝」の手紙が届いた。まあ当然中身はただの苦情だったわけだが・・・
ルベルシア曰く、
「義母に会わずに帰るなんて義母孝行が足りてないのではありませんか?」
シルヴィ曰く、
「なんでいないのよ!いなさいよ!」
そしてステラは、
「ベルさんに会いたかったのに!!!」
とそれぞれ長々と文句が書いてあった。
まあステラに関しては文句というよりはただの願望だな。
というか昨日はアリアしか連れて来てないのだからベルに会えるわけもない・・・と思ったのだが、ステラの手紙に「ベルさんの匂いがしましたのに」と意味が分からない文が書いてあった。これはどういう事だと不思議に思い、ミルナやベル達を問いただしたところ、「当然見に行きました!」との事。どうやらアキの晴れ舞台を全員で見に来たらしい。まあそれは別にいい。アキとてミルナ達が舞台に立つとなったら見に行くだろうしな。それより怖いのがステラの嗅覚だ。意味が分からない。
とりあえずまあ音楽祭の後はそんな感じだった。
そして今朝、優雅な朝を迎えて・・・いたのだが・・・
「アキさん聞いてるんですかあああああああ!」
そう、何故かリビングに突撃してきたうちの兎に朝っぱらから怒鳴られている。
「アキ、朝から私は悲しいよ・・・?」
「そうよ!アキ君!節操がないんじゃないかしら!!」
何かおまけでリオナとエリザもいる。
「おはよう、どうした?」
「おはようございます!どうしたではありませんよおおお!!!」
「朝から元気だな、セシル。」
「アキさんのせいでしょ!なんで朝からミコトさんをもふもふしてるんですか!!」
まあセシルが不機嫌な理由なんてわかっている。
だが仕方ないだろう。朝起きてリビングにきたらミコトが部屋の掃除をしていたのだから。目の前でせかせか動く可愛い狐がいたら当然モフる。それが自然の摂理ではないだろうか。
「そこに狐がいたからだ。」
「理由になってません!あとミコトさんもミコトさんです!なんでモフモフさせるんですか!断っていいんですからね!」
アキに言っても無駄だと悟ったのか、セシルはミコトに文句を言い始めた。
「え、いや、その・・・ご主人様がされたいとおっしゃったので・・・」
「だからそれを断ってもいいんですってば!」
「いや別にお断りする理由もなかったですし・・・」
良い事を言う狐だ。
アキはミコトの狐耳をそっと撫でてやる。
「ふぇ・・・」
すると気持ちよさそうに目を細めるミコト。可愛い。
「むむむ!!!アキさん!その狐、クビにしましょう!!!」
「は!?するわけないだろ!!!」
何を言ってるんだ、この兎。こんな毛並みの良い狐を放り出すなんてありえない。そもそも嫌な顔一つせず撫でさせてくれるんだから当然永久雇用する。
「駄目です!その狐は危険です!やっぱり雇うの却下です!私の兎耳センサーがビンビンに反応しました!」
なんかセシルが壊れた。急にソフィーみたいな事を言い始めた。
「ちなみに他の子達はいいのか?」
「ミコトさん以外はまだセーフです!!」
何がどういう基準でセーフなのかよくわからん。
「いやミコトをクビにはしないけど。絶対に。」
「何故ですかあああ!」
断末魔のような叫び声をあげるセシル。
本当に朝っぱらから元気な兎だな。