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そして翌日から予定通りミレーでの音楽祭が始まった。
実際音楽祭とはなんなのかよく知らなかったのだが、初日と2日目をミルナ達と見て回ったおかげで大体わかった。簡単に言えば、一種のお祭りだ。闘技大会が戦いを題材にした祭りなのであれば、音楽祭は音楽が主役。
ではそもそも何故ミレーではこのような祭りが開催されているのか。
この疑問にはエリザが答えてくれた。サルマリアが職人の国と呼ばれているように、ミレーは魔法と音楽の国と呼ばれている。だがこれは今となってはの話らしい。以前のミレーは特に特色もなく、魔法に関する研究が少し進んでいる程度の国だったのだとか。アイリスがそれでは駄目だと他国との差別化を図る為、音楽に力を入れると決めたのが事の始まり。音楽家の育成や楽器の製作を推進し、色々な政策を打ち出し、音楽の国と呼ばれるまでにミレーを成長させたのだ。
ちなみに何故音楽だったのかというと、それはアイリス自身が音楽が好きだったという単純な理由だ。あと他国が音楽には力を入れてなかったので、これはチャンスだと思ったらしい。
つまりアキが音楽の改革を提案したのはアイリスにとって都合がよかったに違いない。しれっと音楽祭へ参加するように誘導してきたわけだしな。ここでもアキはアイリスの手の平の上だったようだ。さすが一国の女王、強かだ。
さてアイリスの事はともかく、肝心の音楽祭の方だが、ミルナ達とデートをして色々見て回ったおかげで本番当日何をすればいいのか大体理解できた。
レスミアの街をミルナ達と散策したところ、やはり音楽祭と銘打った祭りなだけはある。そこら中から様々な音楽が聞こえてきた。まあ時折聞くに堪えない雑音だったりもしたが・・・いや、ほとんどがそうだった。とにかく、好きな音楽を好きな場所で好きなように披露すればいいというわけだ。
「好きなように音楽を楽しむ祭りか・・・」
そして演奏する音楽が聴き手の心を掴めば自然と人が集まってくる。本当にそれだけの至極単純な祭り。だからアキも好きな音楽を好きな場所で好きなように流せばいい・・・のだが、国が主催する祭りというだけはあり、有力な演奏者には目立つ舞台が用意されているのだ。そしてアイリスから参加を要請されているだけあり、アキの場合も当然そこで演奏するように勝手に予定が組まれていた。
「とことんやってくれるな、あの女王は。」
間違いなく目立つ。だがまあ地球の音楽を広め、ベルフィオーレの酷い音楽文化に変化をもたらそうというのが当初の目的なので、目立つのは決して悪い事ではない。それに今更辞めますというのも癪だ。
もうやるしかない。
「というわけでエレンに歌ってもらおう。」
「なんでよ!?嫌だって言ったでしょ!!それにアキだって自分が嫌な事を私にやらせる訳にはいかないとか言ってたじゃない!あれは何だったのよ!ぶっころすわよ!!!」
やっぱり駄目らしい。まあ当然だな。
「可愛くて華憐な美少女が歌ってたらみんな感動するだろ?」
だがうちの子達は基本チョロいし、こうやってちょっと煽ててやればなんとかならないだろうか。
「か、かわいい・・・!私・・・び、びしょうじょ・・・?」
頬を染め、嬉しそうに呟くエレン。
うん、なんか行けそうな気がする。
「うん、エレンは可愛いよ。」
「そ、そう・・・?まあアキがどうしてもっていうならやっても・・・いいけど・・・?」
やっぱりチョロいな。
「ごめん、エレンにはやらせないから安心してくれ。冗談だ。」
まあエレンがやると言っても、元々やらせる気はない。うちの子達を無駄に目立たせる趣味はないし、必要もないのに表に出ると余計な面倒事に巻き込まれる可能性が増えるだけだ。
「そ、そうなの?まあアキがそうなら・・・」
「エレンは俺が頑張るところでも見ててくれ。」
そう言ってエレンの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「そ、そうね!そうするわ!」
さあいよいよ明日はアキの出番だ。