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ミルナに連れられ、応接室に戻ったアキ。
「ご主人様おかえりなさいませ。」
まずミコトが丁寧に頭を下げ、出迎えてくれた。
うん、なんかいいな、こういうの。
「おかえりさないさませ。」
そしてメイ。
「「「おかえりなさいませ!」」」
さらにはミヤビ、スズ、アカリ。
うん、一体アキがいない間に何があったんだろう。ミコトやメイはともかく、人見知りしていたミヤビ達まですっかり打ち解けているように見えるんだが。
「ただいま、うちの子達に変んな事言われなかった?」
まあ間違いなくあること無い事吹き込まれてる気がするが、一応聞いてみる。
「はい、何も変な事は聞いていません。皆様の自己紹介やお屋敷でのお仕事を教えて頂いただけです。」
だから大丈夫ですとミコトが教えてくれた。
「そうなのか・・・?」
案外ミルナ達は真面目に説明してくれたようだ。疑って悪かったな。
「あ、でも・・・」
「・・・ん?」
「ご主人様は獣人が大好きな変態さんで、隙あらば耳や尻尾をもふもふしようとする頭の悪い人だと聞きました。あと、すぐ女の人を落して来るろくでなし?なんだとか・・・それくらいですかね?」
「・・・そ、そうか。」
前言撤回。もの凄く酷い事を言われていた。やっぱりミルナ達に任せたのは間違いだったかもしれない。
しかしそんな事を聞いておきながら、ミコトやメイは何故嬉しそうなのだろう。ミヤビ達だってさっきより表情が柔らかい。どういう事だ?
「で・・・それを聞いてどう思ったんだ?」
「とてもお馬鹿なご主人様だなと思いました。」
ミコトがサラっと言う。
「えー・・・?」
可愛い狐さんにまさかの暴言を吐かれた。というか何故雇ったばかりの使用人に罵られなければならないのか。これも全部ミルナ達のせいだ。
「じゃあ雇われるのやめとく?」
雇い主が獣人が大好きな変態と聞かされて、喜んで雇われる獣人なんていないだろう。「やっぱり働くのやめます」と言われても全く不思議じゃない。
「大丈夫です!むしろさらに働きたくなりました!それにほら、ミヤビさん達も緊張が解れて少しは心を開いてくれたみたいですよ。」
満面の笑顔でそう言うミコト。
うん、その笑顔が逆に怖い。何故アキのそんな話を聞いておきながらテンションがあがっているのか。そして何故人見知り3人娘は心を開きかけているのか。本当に意味が分からない。
アキが首を傾げていると、近くにいたメイが教えてくれた。
「確かにアキ様が『獣人好きな変態さん』って聞いた時は吃驚しましたけど、それだけ私達を大切に扱ってくださると言う事ですから。それにアキ様の事を話す奥様方がとても幸せそうでした。ですからミヤビ達もここで働く事に安心したんだと思います。」
「なるほど?つまりミルナ達の暴言が功を奏したと。そう言う事か?」
「アキさん!暴言ってなんですか暴言って!引っ叩きますよ!」
ベルが頭をパーンっと引っ叩きながら文句を言ってくる。
引っ叩きますとか言っておきながらもう叩いてるこの理不尽さ。そしてどう考えても暴言なのに、何故アキが怒られなければならないのか。
「この可愛いもふもふ達にあること無い事言ったからだろ!」
「は!?事実しか言ってませんが!?」
「いーや、俺は変態じゃない。」
「ふーん、なるほど。じゃあアキさんはミコトさん達をもふもふしなくていいと言う事で。よかったですね、ミコトさん。」
この王女、何馬鹿な事を言ってるんだ。
「なぜそうなる!もふもふはする!絶対にだ!」
もふもふは仕事のようなものだ。いや義務と言ってもいい。
「やっぱり変態じゃないですか!」
「そんなわけないだろ。ミコトもそう思うよな?俺は別に変態じゃないだろ?」
「あー・・・いえ、アキ様は少々変態かと・・・」
そう言いながらミコトが苦笑いを浮かべている。
「ほら、見なさい。アキさん、自分を変態と認めてもふもふさせてもらうか、変態にならないようもふもふするのを諦めるか。どちらかにしてください。」
ベルがビシッと指を差しながら言ってくる。
「では変態でかまわん!」
考えるまでもない。それなら変態で結構。
「はぁ・・・まあそうですよね、アキさんなら絶対そう言いますよね。もういいです。そろそろ話しを進めてくれません?」
深い溜息を吐きながらベルが呟く。他の子達もやれやれと言った感じで肩を竦めている。
本当にさっきからアキの扱いが酷い。文句の一つや二ついってやりたいところだ。ただここで言い争っても仕方ない。癪ではあるが、ベルの言う通りに話しを進めるとしよう。決して口で勝てないわけではないとだけは言っておく。
「わかった。とりあえずミコト、メイ、ミヤビ、スズ、アカリはうちで働いてくれると言う事でいいんだね?」
アキが念の為に確認すると、全員が力強く頷いてくれた。