13
エアル達と遊んだ翌日、アキは朝早くに起き、使用人の面接に備えている。
というか楽しみ過ぎて寝られなかっただけだが。でもそれは仕方のない事。きっとアイリスは最高のもふもふを用意してくれているはずだからな。
ちなみに昨日、ちゃんとエアル達を送り届けた後、屋敷に戻ったアキに待っていたのは平穏な夜だった。そう、平穏。何もない静かな夜。ルティアが影からこっそり全てを見ていて、エアル達との一部始終をミルナ達に報告していた・・・何てことは無かった。まああったかもしれないが・・・アキの中で無かった事にした。
「それよりも!いよいよだな!」
ガッツポーズをして気合を入れる。
「そ、そうね?でも何でアキ君はそんなにテンションが高いのかしら・・・」
「それはだな・・・!」
「あ、うん、理由はわかってるけど、わかりたくないのよ・・・」
エリザが深い溜息を吐きながら呟く。
「エリザさん、諦めましょう。あれはアキさんの病気です。」
「そうだね・・・あれはもう治らないよ・・・」
セシルとリオナが何かを悟ったような遠い目をしている。
「え、なんで頭おかしいみたいに言われているんだ?」
もふもふは至高だろ。
「「「おかしいからだよ(よ)(です)!!」」」
そんな声を合わせて言わなくてもいいのに。
「いいか、よく聞け。」
この際もう一度もふもふ尻尾や獣耳の重要性を語るべきではないだろうか。
「いえ、聞きません。アキさんは黙っててください。それ以上変な事言うのでしたら今日の使用人の面談、アキさんは参加させませんからね。」
セシルが冷たい目でこちらを睨みつつ、そう言い放つ。
「え・・・雇うの俺・・・」
「うるさいです。」
「だって・・・もふもふ・・・」
なんか怒られたので、とりあえずセシルの耳をむんずと掴む。
やはりいいもふもふだ。この兎は。
「ええええ!?今うるさいって怒ってるとこでしたよねええええ!?何をしてるんですかあああ!!」
「もふもふしてるんだが?」
「そう言う事ではないです!!!も、もう!!!」
大声で文句を言いつつも、アキが撫でやすいようにそっと耳を傾けてくれるセシル。こういうところがセシルの優しいところ、もとい甘いところだ。
「コ、コホン・・・アキ君、それより少し説明してもいいかしら?」
エリザが咳払いをし、姿勢を正しながら真面目な顔で宣言する。
「何?もふもふの事?」
「は!?なんでよ!?違うわよ!今日の使用人の面談の事よ!!!」
「ああ、そっちか。」
「そっちしかないわよ!!!ふしゃー!」
真面目な顔はどうしたのか、尻尾の毛を逆立て、威嚇してくるエリザ。
しかし説明とはどういう事だろう。アイリスが使用人を紹介してくれる。それをアキが雇うかどうか面談して決める。それだけの事だ。
「で、説明ってなに?」
何か特殊な注意事項でもあるのだろうか。
「ふぅふぅ・・・え?あ、そ、そうね、昨日アキ君と別れてから王宮へ行ったのは知ってるわよね?」
確かに昨日エリザはアイリスへ連絡すると言って王宮へ向かった。
「使用人の件、今日で問題ないって女王陛下にお伝えしたんだけど・・・基本的にアキ君が雇うかどうかは決めて良いって言ってたわ。自分の顔を立てるとか考えなくていいから好きにしなさいって言ってたわよ。」
ああ、なるほど。確かに女王であるアイリスに紹介された使用人を雇わないのは不敬にあたると言われても仕方ない事だ。アキはすっかりその考えが抜け落ちていた。
「それは助かる。」
アイリスが気を遣って事前にエリザにそう伝言しておいてくれていたのはありがたい。これで心置きなく使用人を選別できる。まあアイリスの紹介だからそこまで変な人は来ないだろうが、うちに合う合わないはあるだろうしな。
「雇うのは5人よね?」
「そうだな、5人の予定だ。」
「そうよね・・・うん、今日来る予定の人数は5人よ。」
「え?そうなのか?」
5人雇うとアイリスには言ってあったから、てっきり10人くらい寄越してくれるものだと思っていたが、丁度5人しか来ないとはさすがに思わなかった。
もしこれで気に入ら居ない人がいたらまたアイリスにお願いしなければならないのか。それはちょっと面倒だな。
「多分だけど・・・アキ君がその5人を雇うって絶対の自信があるのよ。あの陛下の事だから間違いなくそう言う事よ。」
なるほど、だからわざわざ「女王である自分の顔を立てるとか考えなくていい」とエリザに言ったのか。アキが別の人を紹介してと言うとは一切思っていないんだな。
これはある意味アイリスからの挑戦状だろう。
「へぇ・・・それは楽しみだな。」
そうと決まれば徹底的に吟味してやろうじゃないか。少しでもうちに合わないと思ったら速攻で落としてやる。
「うん、私としては逆に嫌な予感しかしないのだけれど・・・」
引き攣った笑みを浮かべながら呟くエリザ。
「え?」
「まあ・・・すぐにわかるわよ・・・」
諦めた表情で遠い目をしている。一体どういう意味なのだろう?