12
「じゃあお相子って事で。」
「「・・・おあいこ?」」
エアルとミリーが首を傾げる。
「そうお相子。エアル達は俺を比較対象に使ったからそれでお相子。」
ちょっと無理矢理過ぎるこじつけだが、まあいいだろう。
「そうですね・・・!」
「うん、なるほど、おあいこね!」
アキの意図を察してくれたのか、エアルとミリーはうんうんと同意してくれた。まあアキがエアル達の気持ちに気付かなかったせいで彼女達は身を引き、結果的に言い寄ってくる連中を追い払う為にアキを比較対象に使った・・・と言えなくもないが、この話の落としどころはこんなところだろう。
「そういうわけで私達には今、恋人はいないんです。」
エアルがもうこの話は終わりにしましょうと話を纏めにかかる。
「そうだな、良い人が見つかるといいな。」
この2人はしっかりしているし、あまり心配はしなくてもいいだろう。変な男に引っ掛かったりしない気がする。
「見つからなくて一生独身だったりして。」
ミリーがくすくすと笑う。
「それはそれでいいかなー」
無理に結婚しようとは思わないもんとエアル。
「確かに。独身でもいいよねー」
「うんうん。」
2人がいつものように意気投合している。ただそれはエリザのようになる気がするからやめておいた方が良いのではないだろうか。いくらエリザに憧れてるとはいえ、そんなとこまで真似しなくてもいいと思うぞ。とはいえ変な人と一緒になるくらいなら独身でいいと言う意見には同意する。アキも別に独り身でいいと思っていたくらいだしな。
「いい男、見つけろよ。」
「ふふ、きっとアキさんより凄い人見つけてみせますよ!」
見ててくださいねとエアルが不敵な笑みを浮かべる。
まあアキより凄い人なんかいくらでもいるだろう。それにエアルのようないい子達ならすぐに良い人が見つかりそうな気がする。
「私達の事はもういいじゃん。他の話しようよ。もっとご飯が美味しくなる話がいいな。それにもうすぐご飯が・・・ってほら、きたよー!」
ミリーがそう言いかけたところで、店主らしき年配の女性が注文したご飯を持ってきた。どうやらこの話はここまでのようだ。残念。ただこれ以上女性の恋愛事情に首を突っ込んでもいい事ないだろうし、丁度いいかもしれない。
そして食事が運ばれて来てからはエアル達とたわいもない話をした。最近の冒険活動はどうだの、学院生活はどうだの、色々と彼女達の近況報告を受けた。
というか受けるだけだった。
年頃女の子はやはり話するのが大好きなのか、一度話し始めると延々と話し続けられるらしく、アキが口を挟む暇なんてなかった。
「なんかアキさんは話しやすいです、なんでだろう?」
「んー?ちゃんと聞いてくれるからじゃないかな?」
「聞き上手なんですね!」
エアルが感心したように頷いている。
聞き上手とエアルは言ってくれたが、別にそう言うわけではない。こういう時は聞き役に徹するのがいいとうちの子達で学んだだけだ。あの子達も偶にこういうスイッチが入るし、入ると止められなくなる。あと下手に止めると説教されるので、逆効果だと知った。そういう時は「へー、そうなんだ。凄いな。」と相槌をうっておくのがベストだ。尚、適当に相槌を打つだけだと、「アキさんちゃんと聞いてるんですの!」と怒られるので、ちょっとだけ注意が必要だ。
「ねえねえ、アキさん、聞いていい?」
「うん、何?」
そして何か聞かれた時だけ答える。
これが毎日ミルナ達と過ごしてきて会得した女子との会話技術だ。
「それにしても・・・うん、ご飯は美味しいな。」
さすがエアルがおススメしてくれただけはある。最初はちょっと心配したが、ここのご飯は滅茶苦茶美味い。
「よかったです!」
「でしょ!私の舌は確かなんだから!」
ミリーもどこか得意気だ。
それからしばらくは3人で歓談しながら夕食を取った。そして食後のお茶をし終わったあたりで、アキはエアルとミリーに言う。
「よし・・・そろそろ送っていくよ。」
「あ、もうそんな時間ですかー・・・」
残念ですとエアルがシュンとした顔をする。
「俺もまだまだ買い物したかったよ。」
「ですよね・・・」
アキとしてもまだ遊んでいたかったが、もうすっかり日も暮れた。さすがにそろそろ送り届けないとダメだろう。
「わ、私は十分楽しんだかなぁ・・・って?」
ミリーは苦笑いを浮かべている。
まあ買い物好きのアキ達に付き合うのは大変だったんだろう。ミルナ達もよく似たような事をよく言っているしな。アキにはよくわからないが。
「そ、それよりアキさん!」
気まずい話題を誤魔化すかのようにミリーが質問をしてくる。
「ん、なに?」
「なんで急に使用人を雇おうと思ったの?今まであのお屋敷は学院長が管理していたんだよね?」
「ああ、それね。俺が侯爵になったのは知っているよな?それで領地を貰う事になってまた屋敷が増えるんだよ。さすがにうちのアリアだけでは全部管理しきれなくなってきたから使用人を雇おうと思ったんだ。で、ついでにミレーの屋敷もそうしようかと思って。ほら、エリザはメイドではないし、仕事もあって忙しいだろうからね。」
これに関しては別に変な理由はない。エアル達に隠すような事でもないので正直に訳を話す。
「なるほどね。やっぱり女のメイドさん?」
「ん?そうだよ。ミルナ達がいるし、その方がいいだろうって。」
余計なトラブルを避ける為、その方がいいとミルナ達から言ってくれた。
「ふーん?アキさんは別にどっちでもよかったんだ?」
「いや、俺はもふもふじゃないとダメだ!!」
これに関しても別にやましい理由はない。だから正直に話す。
「・・・え?」
「だからもふもふだよ!もふもふ!わかるか?メイドさんはもふもふじゃないとダメなんだ!そうセシルやリオナのようにな!」
もふもふの大切さを2人に力説してやる。これできっとエアル達ももふもふの重要さがわかるはず・・・と思いきや、二人はハイライトが消えた目でアキをジッと見つめている。
「・・・はぁ・・・エアル、そろそろ帰ろっか?」
溜息を吐き、呆れた様子でレストランを先に出て行くミリー。
「そうですね・・・アキさん、早くお見送りしてください。」
エアルは一応アキを待ってくれてはいるものの、何故か視線が冷たい。
「あれ?もふもふの重要さが伝わらなかった・・・?」
「伝わりません!早く帰りますよ!!!」
そしてエアルに無理矢理引き摺られ、アキも店から出る事になった。その時の店主のアキに向けられた軽蔑するような視線は忘れられそうにない。