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「でも『惚れてた』って事は・・・今は違うんだよな?」
思いがけないカミングアウトに少々驚いたが、ミリーの言葉を聞く限り、全て過去の話のようだ。それなら・・・まあ丈夫だろう。現在進行形の話でないなら、ミルナ達も目くじらを立てて怒ったりはしないはずだ。
多分だけど。
「うん、今は違うかな?」
「なんで?」
それより理由が気になる。何故「前は」なのだろうか。アキはエアル達に対する接し方を変えた覚えは一切ない。まあ惚れられた事自体、不思議な事ではあるが、それはさておき、仮に惚れられていたとして、何が切欠で過去形になったのか。
さすがに気になる。
「ああ、アキさんが何かしたわけじゃないよ。ね、エアル?」
「はい、私達がその・・・諦めただけというか・・・なんというか・・・」
そう言って口籠るエアル。
だが彼女が何を言いたいのかよくわからない。
「どういう事?」
「いえ・・・そんな難しい事じゃないんですよ。アキさんにはミルナさん達がいるじゃないですか?」
「うん。」
「それに加えてエリザ学院長もアキさんの婚約者さんになりました。みんな美人で凄い人達ばかりです。そんなところに私達が入る隙間なんてないと思ったんです。」
なるほど、そう言う事か。
「確かにミルナ達が睨みを利かせていたら恐ろしいからな。」
「あ、いえ・・・そういう直接的な事ではなく・・・」
「え、恐ろしくないの?」
アキは恐ろしいと思う。というか怖い。ミルナ達が本気で怒った時のアレはとても怖い。毎日一緒にいる婚約者のアキですらそう思うのだから、エアル達は余計そう感じるはずだ。
「そ、それは恐ろしいですけど・・・」
「だよねー、そうあとで言っておくよ。」
「・・・はい!?な、なんでですか!?それ言わなくていいやつですよね!!!」
やめてくださいとエアルが叫ぶ。
「だが断る。」
「なんで!?」
「あいつらにエアル達とこういう話をしたとか言ったら俺が怒られそうじゃん?でもエアル達が『ミルナ達怖いって言ってた』とか言えば怒られなくて済むかなと。」
「まさかの自己保身!?可愛い教え子とか言ってたのは何だったんですか!!!」
「だってうちの子達怖いんだもん。」
当然エアル達は可愛い教え子だ。ただうちの子達はアキの可愛い可愛い婚約者。あととても恐ろしい。そう、本当に恐ろしい。
「知りませんよ!アキさんの婚約者さんなんですからアキさんが何とかしてください!っていうかアキさんが怒られればいいんです!ばかっ!」
そう言ってエアルが頬を膨らませて拗ねる。
「冗談だ。」
少々茶化してしまったが、エアルの言いたい事は当然理解している。ミルナ達という婚約者がいるからエアルやミリーは身を引いてくれた。つまりはそう言う事だ。
「ありがとう、そしてごめんね。」
正直エアル達がそうしてくれたのは助かる。言い寄られても、アキはきっとその気持ちに応える事は出来なかった。ミルナ達だけで精一杯・・・というか現在進行形で、あの子達に対して至らない部分があるのだから、そんな状況下で新たにエアル達とそういう関係なるとかはさすがに考えられない。
それにエアル達は元教え子だ。魔法学院の臨時教師を引き受け、この子達の先生に一度なった以上、彼女達に手を出す気はない。最初からそう決めていた。だからミルナ達がいなかったとしても、きっと断っていただろう。
「あ、だ、大丈夫です!アキさんが謝らなくてもいいんです。」
真面目なトーンでお礼と謝罪をしたからか、拗ねていたはずのエアルは急に姿勢を正し、真剣な顔でそう告げてくる。
「いや、でもなぁ・・・」
エアル達の気持ちに気付かず、知らないうちに身を引かれていた。これは乙女の恋心を弄んだと言われても仕方ないだろう。さすがに少々責任を感じてしまう。
「いえ、いいんです。だって私さっき言いましたよね?本気で好きなら・・・何を言われても、どんな障害があろうとも、諦めないで努力するはずだって。ミルナさん達はきっとそうなんです。そして私達は違ったんです。それだけの事です。」
そう言って憂い気な微笑みを浮かべるエアル。
「そうだよ。馬鹿な女の子が勝手に片思いして失恋したとでも思っておけばいいよ。だから気にしないでね?」
エアルに同意するように、ミリーも力なく笑う。
そんな言い方されたら逆に滅茶苦茶気にしてしまうだろう。2人が言っている事もわかるし、アキが気にするのは筋違いなのかもしれないが、やはり申し訳なく思ってしまう。
だがこれ以上アキが何かをフォローするのも無粋な気がする。
「じゃあお相子って事で。」
「「・・・おあいこ?」」
エアルとミリーが首を傾げる。