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「ほら、エリザ、こっち座りなよ。お母さんに怒られるぞ?」
未だに部屋の隅っこで猫のように丸まっているエリザに声をかける。まあ猫のようにじゃなくて猫なんだが。
「うん・・・」
アキが声を掛けると静かに頷き、トボトボとアキの隣の椅子に座るエリザ。
「実家だと気が抜けるから仕方ないって。」
「アキ君には知られたくなかったの!!」
「えー、俺は『にゃ』って好きだぞ?」
「だからよ!!!」
なるほど、アキが過剰に反応するから嫌だったのか。むしろ「ふーん、猫人族ってそんな語尾なんだ」くらいに思っておけば、ここまで嫌がらなかったかもしれないな。
「これからは『にゃ』で頼む。」
「絶対嫌よ!!!」
残念。駄目らしい。
「でもエリザ、なんで口調変えたんだ?俺に出会う前から変えてたよね?」
アキが「猫だ猫だ」と反応するから変えたのであれば、エリザに出会った時にはまだ「にゃーにゃー」言ってたはず。だがエリザはその時から今のお姉さん口調だった。何故直したのだろう。
「だ、だって・・・『にゃ』とか子供っぽいじゃない・・・私おねーさんだもん。だからおねーさんとしての威厳がある喋り方にしないとダメでしょ・・・?」
全くよくわからない理由だった。大体お姉さんの威厳ってなんだ。エリザにそんなものがあるのかと聞かれれば、間違いなく無いと即答できる。大体「おねーさんだもん」とか言っている時点でお姉さんとは程遠いだろうに。
「可愛いと思うし、俺は好きだぞ?」
「そ、それは知ってるわよ!?そう言う事じゃないの!」
「いやでも可愛い方がよくない?魔法学院の生徒達も、その方が親しみを持って接してくれると思うんだけどな・・・」
「そ、そうかもしれないけど・・・!何か嫌なの!」
まあエリザが嫌だと言うなら強制はしないが。アキと出会う前から今の口調にしているわけだし、アキがどうこう言う問題でもないしな。
「そっか、エリザがそうしたいならそうするといいよ。」
「え、ええ・・・そうするわ。」
「でも2人きりの時は『にゃ』が嬉しいかな?」
正直「にゃ」とか可愛すぎるので、優しくお願いしてみる。
「た、たまにならいい・・・にゃ?」
恥かしそうに俯きながらそう呟くエリザ。
うん、可愛い。
「あらあらあら、仲良しねー」
そんな話をしていたら、スーザンがニヤニヤしながらお茶を持って戻って来た。どうやらアキとエリザの会話を聞いていたようだ。
「そ、そんなことないわよ!!!」
テーブルをバンッと叩き、エリザが叫ぶ。
「はい、滅茶苦茶仲良しです。」
「ち、ちょっとアキ君!?」
「嘘は吐いてないぞ?」
エリザとは仲良くやれていると思ってるしな。
「そ、それはそうだけど・・・!」
「落ち着きなさいな、エリザベス。アキ君の方が年上に見えるわよ?」
「み、みえないわよ!私の方がおねーさんなの!」
また始まった。もう放っておくと永遠とこの親子漫才を見せられそうなので、適当に止めて話を進めよう。なにも実家でのエリザの姿を見たいからという理由でここに来たわけではない。
「それよりスーザンさん、今日はお話があってお邪魔させて頂きました。」
「あら、ごめんなさい。それでアキさん、どういったお話でしょう?」
スーザンがにこやかに微笑みながら尋ねてくる。
これは・・・アキが何を言おうとしているのか既に分かっているな。
「はい。お察しかと思いますが・・・エリザさんを嫁にさせて頂きたく。その許可を貰う為、今日はこうしてご挨拶にお伺いしました。」
アキは本題を切り出す。まあスーザンの今までの反応からして、反対されるような事はなさそうだが・・・やはりこういうのはなんか緊張する。
「ええ、どうぞ!こんな娘でよければ好きなだけどうぞ!!」
反対されるどころか、全力でエリザを差し出された。
「あ、はあ・・・あ、ありがとうございます?」
「こちらこそありがとうございます!一生結婚なんて出来ないと思ってたんです。こんな娘を貰って頂き本当にありがとうございます!26歳にもなって仕事ばかり、性格は子供っぽいのにプライドだけは一人前。本当にこの子は口だけは立派で・・・」
なんか急にスイッチが入ったスーザン。エリザのダメなところをつらつらと語り始めた。まあエリザも魔法について語り始めるとこんな感じになるし・・・やはりエリザの母親だな。
「お、お母さん!やめてよ!恥ずかしいじゃない!」
「エリザベスは黙ってなさい!アキさん、うちのエリザベスで本当にいいんですか?だってこの子は・・・」
うん、これは止まらんな。変に邪魔するより、しばらく語らせておいた方がよさそうだ。まあエリザは顔を真っ赤にして羞恥に震えているが。
結局、その後15分くらい渡り、エリザの駄目だしをし続けたスーザン。
「・・・というわけなんです!アキさんもそう思いませんこと?」
「ええ、そうですね?でもエリザさんは立派な方ですよ。お母さんがそこまで心配されなくても大丈夫かと。」
「あらあら、エリザベスがこんないい人に見初められるとは・・・!ああ、今日はなんて素晴らしい日なんでしょう!」
スーザンが両手を広げながら叫ぶ。
大袈裟にも程があるな。スーザンの中でエリザはどれだけダメな子供なんだろう。まあスーザンがそれだけエリザを大事にしている証拠でもあるが。
「とりあえずエリザさんとの結婚は許して頂けると・・・?」
「勿論ですわ!あ、ですがアキさん、1つだけ聞いてもいいでしょうか?」
急に真面目な顔になり、真っ直ぐにアキを見つめてくるスーザン。
「・・・はい、なんでしょう。」
どんな質問が飛んでくるのだろうとちょっと身構えてしまう。
「うちのエリザベスの・・・どこが好きなんですか?」
まさかの質問に驚いた。
「にゃああああ!?お母さん!何聞いてるのにゃ!!!」
エリザが。