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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十章 音楽祭
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1

「エリザ、こっちなのか?」

「え、ええ・・・そこの角を曲がったところが・・・実家よ。」


 四大国会議の翌日、アキはエリザの案内の元、彼女の実家へと向かっている。


 勿論エリザの母親へ結婚の挨拶をする為だ。ただこの猫はあまり母親をアキに紹介したくないらしい。というか今朝もごねていた。「ち、ちょっと体調が悪いのよ!だから今日は無しでいいかしら!?」とあからさまな仮病を使って部屋から出てこなかった。


 まあ無理矢理引き摺り出したけどな。


 往生際の悪い猫だ。


「諦めろ。それに別に変な事言ったりしないから安心しろ。」

「そ、そういう事じゃないのよ!」


 じゃあ一体どういう事なんだ。エリザに理由を聞いても「な、なんとなくよ!」とか言ってはぐらかすからわからない。ただどうせ大した理由じゃないのはわかっている。だがここまで頑なに理由を話してくれないのは何故なんだろう。


 ミレーの王都であるレスミアの街を歩きながらそんなやり取りをエリザとしていたら・・・とある家のまで急にエリザが立ち止まった。


「どうした?」

「・・・よ。」

「え?」

「こ、ここなの!うちの家!」


 どうやら到着したらしい。


「なるほど・・・」


 エリザがここだという彼女の実家を見る。お世辞にも立派とは言えない、少し寂れた感じの木造建築の一軒家だ。家が建っている街の地区もレスミアのメインストリートからはかなり離れている。スラムとまではいかないが、低所得者向けの住宅地区。まあエリザの生い立ちを聞く限り、彼女の生家がこの場所にあるというのも頷ける。


 ただ不思議なのが、エリザは今はそこそこ、いやかなり稼いでいるはずだ。魔法学院の学院長、そして魔法組合の組合長としての給与を合わせれば、間違いなく高所得者の部類に入る。以前チラッと稼ぎを教えてくれたが、月に平均10金くらいは稼いでいるらしい。ベルフィオーレの一般的な稼ぎが月1金なのだから、エリザは文句なしの高給取りだ。


 そんな彼女の稼ぎがあれば、母親にもっといい暮らしをさせてあげられるはずだ。新しい家だってプレゼントしてあげられるだろう。


「エリザ。」

「な、なにかしら?」

「エリザの稼ぎがあれば家を建て替えたり、引っ越したり出来るよね?」

「当然よ。私も何回もそうしよって言ったのよ?でもお母さんが絶対嫌だって言うんだもん。ここはお父さんと暮らした想い出の場所だから死ぬまでここで暮らすんだって聞かないのよ。」


 だからもう説得は諦めたわとエリザが肩をすくめる。


 そう言う理由があったのか。それなら納得だ。


「でもエリザは俺のところへ来る前、もうここには住んでなかったんだよな?」


 確かエリザは、学院の近くにある1人暮らし用のアパートに住んでいたはずだ。


「ええ。」

「なんで家を出たんだ?お母さん1人を残して。」

「それね・・・ここだと学院へ通うのに不便なのよ。この地区、滅茶苦茶遠かったでしょ?だから私も引っ越しを提案したんだけど、お母さんはヤダって言うから・・・お母さんを1人にするのは嫌だったけど、さすがにここから毎日学院や魔法組合に通うのはね・・・」

「だからエリザは1人でアパート暮らしか。」

「そうよ。でも休みの日にはなるべく帰ってくるようにしてるわよ。」

「今もか?」


 アキのところへ移り住んでからもその習慣は続けているのだろうか。学院が休みの日、エリザはずっとアキの側にいる気がするのんだが・・・


「さ、最近はあまり顔を出せてないわ・・・」

「駄目だろそれは。」


 エリザがアキの為、時間を割いてくれるのは嬉しい。だがそのせいで親のところへ顔を出せてないのは駄目だ。それは流石に申し訳ない。エリザをうちに住まわせたのは失敗だっただろうか。


「あ、それは大丈夫よ。むしろ帰ってくるなってお母さんに言われたわ。」

「え?なんで?」

「アキ君の事は一応話したの。そしたら『やっとうちの娘にも幸せが・・・!』とか泣き始めて・・・しまいには『家に帰ってこなくていいから旦那様の側にいなさい!』って追い出されたわよ・・・」


 どうやらエリザの母親は娘が行き遅れている事を心配していたようだ。まあこの世界では10台後半には結婚するのが一般的らしいから、26歳で独身なのは珍しい事だし、母親が心配するのも仕方ないのかもしれない。


「さらに仕事なんてやめてアキ君に尽くしなさい・・・とまで言われたわよ。」


 エリザが疲れた表情で語る。


「そ、そうなんだな。」


 アキとしては別にエリザに仕事をやめて家庭に入って欲しいとは思わない。彼女がやりたい事をやっていて欲しい。もし専業主婦になりたいというのであればそれでもいい。ただエリザは学院長という仕事にやりがいを感じているようだし、取り上げるような事はしたくない。ミルナ達だって冒険者を続けるつもりらしいからな。うちで専業というならアリアくらいか。まあ彼女はメイドだが。


「好きにしていいぞ。やめたいならやめてもいいし、続けたいなら続けろ。エリザには好きな事をしていて欲しい。」

「う、うん。ありがとね。アキ君ならそう言うと思ってたわ。」


 エリザが照れ臭そうにはにかみながら呟く。


「あー・・・もしかして俺を紹介したらそう言う事を言われるから会わせたくなかったとか?女は家を守る、稼ぐのは男の仕事だ、みたいな?」


 話しを聞く限り、どうやらエリザの母親は「女の幸せは結婚!」的な考えのような人らしい。ただこの世界で、稼ぐのは男の仕事だという価値観は当てはまらない気がするので、少々違和感が残る。


「それはないわ。お母さんは『女も働いて少しでも暮らしを楽にすべきだ』っていつも言ってるもの。仕事をやめてアキ君の側に・・・っていうのは単純にアキ君がちゃんと稼いでいるから言ってるだけね。私が中々結婚しないから『仕事ばかりしてたら愛想つかされるわよ!』って口煩いの。」

「じゃあなんで会わせたくないんだよ。」


 てっきりこれが会わせたくない理由かと思ったが、違うらしい。


「な、なんでもよ・・・!ね、ねえ、やっぱり帰らない?そ、そうよ!せっかく2人きりなんだし、デートしましょ!うん、それがいいわ!」


 何言ってんだこの猫は。そしてさりげなく魅力的な提案をするのはやめろ。エリザとデートしたいとかちょっと思ってしまっただろうが。


 ちなみに今更だが、ミルナ達はエリザの実家訪問についてきていない。流石に今日は全員留守番だ。


「いや、ここまで来て帰るとかないから。」

「う、うぅ・・・わ、わかったわよ・・・」

「じゃあ早速お母さんに合わせてくれ。」

「うん・・・こっちよ。」


 エリザがそう言いながら家の中へと案内してくれた。ただ尻尾も耳も垂れ下がっていて、見るからに嫌そうだ。

挿絵(By みてみん)

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