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「まて、俺はまだ何もしてないぞ。」
なんかアキが滅茶苦茶したみたいに言われたが、イリアにキスもした事なければ、手を繋いだ事すらない。というかイリアにはまだ指一本触れてない。
「い、一緒に寝たよ!あれはもうお嫁に行くしかないかな!」
どうやら添い寝の事を言っているらしい。
確かにミルナ達が決めた添い寝ローテーションとやらにイリアも入っている。そしてまあ男女が同じベッドで寝るとか恋人か夫婦でもなければしない事だ。
「え、それだけで?」
だが冒険者ともなれば、野宿だったりと、冒険先でそんなシチュエーションいくらでもあるはず。だから横で寝たくらいでそこまでの反応する必要はないと思うのだが、違うのだろうか。
「そ、そうだよ!寝所を共にするなんて・・・いけないことなんだよ!」
違うらしい。
まあきっとこれはイリアが純情なだけだろう。
「・・・なら俺が責任をもってイリアを嫁にするとしよう。」
まあイリアがその気になってくれたのであればアキに何も言う事はない。喜んで受け入れるだけだ。
「で、でも!条件!条件があるかな!」
どうやら無条件ではないらしい。一体どんな無理難題を突き付けてくるつもりなのだろう。
「なんかイリア面倒です。素直にお嫁さんになればいいですー!」
アキが返事をする前にソフィーが口を挟んで来た。
「う、うるさいな!誰が面倒な女なのかな!この駄エルフ!」
「イリアは面倒な女ですー!」
「ソフィーほどじゃないよ!?」
「わ、私は違うです!面倒じゃないですー!そうですよね、アキさん!」
そんな話をこっちに振らないで欲しい。
でもソフィーとイリアどっちが面倒かと聞かれれば、それは当然・・・
「ソフィーだな。」
「なんでですー!?」
説明する必要があるだろうか。いや、ない。ただ手のかかる子ほど可愛いというやつだ。ソフィーは別にこのままでもいい。
「それよりイリア、その条件ってなんだ?」
「え、あ、うん。えっとね・・・・ユーフレインの事。ちゃんとユーフレインの事を解決したら・・・ア、アキのお嫁さんになってあげるかな!」
「お、おう?」
ただそれは条件でも何でもない気がする。ユーフレインの事を解決するのは、出来るかどうかは別として、アキの中で決定事項だ。そもそもイリアの望みとしてこれはおかしい。ベル辺りが、ユーフレインの事を解決してベルフィオーレと完全に縁を切って欲しい、とか言うならわかる。だがイリアにはそれを言う理由がない。
さっきもイリア自身が言った通り、彼女の望みは「自分の故郷であるユーフレインを見る事」だ。まあそれが達成され、実際ユーフレインを見た事で「ユーフレインをよくしたい」という追加の願いも出来たみたいだが・・・それはオリハルコンの事を解決していく過程でなんとか出来るはずだ。それに今もユキが治安改善の為、色々と頑張ってくれているし、見通しは明るい。
つまりイリアが提示してきた条件なんてクリアが約束されているようなものだ。
「が、頑張ってね!そしたらお嫁さんになってあげるから!」
「うん・・・頑張るよ?」
多分イリアは面と向かって「お嫁さんにしてください!」って言えないだけだろう。素直に言うのが恥ずかしくて、それを誤魔化す為、条件とか言い始めたのだ・・・という事実に気付いてしまったが、ここは言わないのが優しさだ。
「ふむふむ・・・なるほどですー。イリアは恥ずかしいから条件とか言い始めたです!本当はアキさんが大好きだけど素直になれない!これがさっき言ってたツンデレですねー!そうに違いないですー!」
ソフィーが嬉しそうに叫ぶ。
うん、まあアキが言わずとも、こうなると思ったしな。そしてツンデレの意味もある意味正しい。確かにツンデレだ。
「こ、この駄エルフ!何を言ってるのかな!?」
イリアの反応を見るに、やはり図星のようだ。
しかしソフィー、バレバレなんだからいちいち言ってやるなよ。
「とりあえずイリア・・・ちゃんと解決するから待っていてくれ。」
「あ、う、うん!待ってる!」
イリアが「よかった、やっと言えた」とホッとした表情をしている。
気まぐれで始めた「今日までアキといてどうだった?」という会話だが、ある意味してよかった。アキとしても自分の行動を見つめ直すいい機会だったし、イリア、そしてミルナ達にも、いい刺激になったようだ。
「それで・・・アキさんのお話はもう終わりですの?」
ミルナが尋ねてくる。
「え?うん、そうだな。」
全員の理由も聞いたし、これで終わりだ。あとはのんびり食後のお茶でも飲んでまったりする予定だ。
「そうですの・・・うふふ・・・」
突然ミルナが何やら獲物を狩る鷹のような目でこっち見てくる。
これは・・・もの凄く嫌な予感がする。