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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第五章 王都ミスミルド
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「不味いですわ……。」


 ミルナは焦っていた。ミルナだけでなくソフィー、レオ、エレンも同様に焦りを感じている。





 アリステールを出立したアキ達は馬車を使い順調に王都に向け進んでいる。アリアやセシルに加えてエスタートやガランも同行しているので複数台の馬車での移動だ。エスタートは商会長なので護衛も多いのかと思ったが、Aランクのメルシアが同行するということで数名の従者のみ連れている。エスタートが自分専用の馬車を使い、彼の従者やガランがもう1台。アキ達は7人なので馬車を別に2つ用意してもらっていた。


 アキが乗る馬車にはアリアとセシル。もう1つの馬車にミルナ達。当然この振り分けにミルナ達が黙っているわけもなく出発前に猛抗議していたのだが……。


「俺の馬車にアリアとセシルでいい?ミルナ達はもう1つの方で。」

「勿論です、問題ございません。」

「はい、大丈夫です。」


 アリアとセシルは反論することも無く、大丈夫ですと頷く。


「なんでですかー!」


 ソフィーが不満そうにしている。


「王都でアリアに任せる屋敷の話やセシルの仕事の話を今のうちにしておきたい。」


 アリアはアキの従者になると言っているが、雇用契約も未だだし、無賃金と言うわけにもいかない。セシルもニートするつもりは無いだろうから今後の方向性について相談しなければならない。だがそれでソフィーが納得するわけもなく……。


「イヤです!私もアキさんと同じ馬車じゃないとヤです!」


 子供ように駄々をこねるが、ソフィーの可愛らしさにアキはついつい我儘を聞いてあげたくなる。


「じゃあソフィーはこっちくる?」

「やった、いきますー!」


 嬉しそうにはしゃぎながら飛び跳ねるソフィー。


「あら、ソフィーだけずるいですわよ?」

「そうだよ、僕もそっちがいいなー。」


 ソフィーの言葉を受けてミルナもレオも一緒がいいと言う。


「私は……べ、別にどっちでもいいわよ。」


 エレンはそっぽを向いて呟く。


「じゃあエレンはあっちの馬車で決定ですわね?」

「え……や、やだ!やっぱそっちがいいわ!」

「なら初めから素直になりなさい。」


 すぐに意見を変えるエレンにミルナがやれやれという表情を浮かべる。


「さすがに全員は乗れないって……。」


 アキがどうしたものかと頭を悩ます。


「正直俺もミルナ達が一緒なら嬉しいけど……じゃあ休憩毎に1人ずつ交代でこっちにくるって事じゃダメかな?」


 それでもまだ少し不満そうなミルナ達だが、アキからお願いされては何も言えないようで素直に了承する。それに「一緒がいい」の一言が嬉しいらしく、拗ねながらも喜ぶと言う器用な事をしている。


「チョロいですね。」


 アリアがさり気なく呟く。相変わらずの毒舌ぶりだ。


「知ってる。でもそんなアリアも意外にチョロいよ?」

「え……そ、そんなことは……。」


 しかし自分に思い当たる節があるのかアリアは黙る。ミルナ達ほどチョロくはないが、それでも前の世界の一般女性に比べれば遥かにチョロく感じてしまう。しかしこちらの女性はなぜこれほどチョロいのかと真面目に考えた。おそらく恋愛が文化として根付いていない可能性が高いのではないかとアキは思う。地球では映画やドラマで甘いラブストーリーが展開されたり、小説で切ない恋物語が語られたりして一般的に恋愛が浸透しているが、こちらの人達はそういう物に触れる機会がない。その日を生きるのに精一杯だったり、冒険者として命を懸けたりする毎日なので恋愛や娯楽があまり大衆に浸透していないのもしょうがない。だがこちらの世界の女性も1人の女であることに変わりはないので、地球基準で女性に接しているアキを新鮮に感じられるのではないかとアキは推測する。


 だからこそ、接し方には気を付けた方がいいだろう。美人に好かれて悪い気はしないが、ハーレムを作るのが目的でこっちの世界に来たわけではないのだから。こちらの男性のように女性に接すればいいのだろうが、それはアキには難しい事だ。郷に入っては郷に従えと言う。ただこればっかりは従う気になれない。あそこまで直情的でガサツになる事は生理的に受け付けない。


「まあ、あまり気にしないでいいか。なるようになるだろう。」


 アキは考える事を諦めた。せっかく異世界を楽しんでいるのだし、つまらない事で悩むのは辞めようと。それにアリステールでの過度なスキンシップは計画上やっただけだからこれ以上やる必要もない。今後は控える予定だ。それで少しはましになるといいが。


「アキさん、大丈夫ですか?」


 一人でボソボソと考え事をしていたアキが気になったのかアリアが声を掛ける。


「うん、平気。それより俺のほうには誰が最初にくる?」


 ミルナ達に話を振り確認をする。


「私になりましたー!」


 アキが考えに浸っている間に何かしらの話し合いが行われたようで、とりあえず1番目はソフィーになったらしい。


「じゃあとりあえず出発したらアリアとセシル、今後の話をしようか。」





 それから1日が経ち、ミルナ達が焦っているのが現状だ。


 最初はアキと馬車に乗れるのを楽しみにしつつ自分の番を待っていたミルナ達。ただソフィーが屍のようになって戻り、ミルナ、レオ、エレンと同じ状態で戻ってくる。そして向こうの馬車に行け無くなってしまい、ミルナ達は最終的に1つの馬車にお通夜のように4人で乗っている。アキが来るなと言ったのではなく、単純に彼女達の心が折れた。


「私達……女として終わっているのでは……。」


 ミルナが絶望した表情で呟く。


「私……自分に絶望しました……。」


 目のハイライトが完全になくなっているソフィー。


「男の振りなんかしてる場合じゃないよ。」

「女を、女を磨かないと不味いわ!」


 なんとか平常心を保とうとしているエレンとレオ。


 彼女達はアキの馬車でアリアとセシルの2人に精神的に殺された。出発前もアリアに掃除や料理の事で弄られていた4人だったのだが、改めて2人の女子力を目の当たりにして現実を突きつけられたのだった。


 アキの馬車に乗って楽しくお話したり、アキとくっついたりできると彼女達は軽く考えていたのが間違いだった。まずソフィーが最初同席した時、アキが異世界から来た事など、アリアとセシルには隠しておく必要はないと判断した事柄をアキが話すとこから始まった。2人は少し驚いた程度で、何の証拠も要求することなくアキの言葉を信じた。


「証拠とか見せようか?」

「いえ、アキさんの事は信じてますので。」

「はい、アリアさんの言う通りです。」


 アキは「いいの?」って顔をし、「でも一応見せるね」と言ってタブレットなどを見せていた。あとはアキの考えた魔法についてアリアやセシルの前で説明して実演。ミルナですらよくわからない魔素原理をソフィーが当然わかるわけもない。だがセシルは理解を示して2人は魔素について盛り上がっていた。会話に入れるはずもないソフィーは黙っているしかなかった。


 ミルナの番になっても魔素の話でセシルとアキは盛り上がり、王都の話になってもミルナが話に入れることは無く、終始黙っていたようだ。当然エレンとレオの時も似たようなもので、彼女達が話についていく事は出来なかった。


 アリアは魔素についてはさすがにわかっていないようで、ミルナ達同様無言だったのだが、ただ無言でいるだけではなかった。彼女に関してはそれはもう完璧なメイドで、アキがお願いする前に彼の要望を察知し動いていた。水が欲しいタイミングで水を渡し、紙が欲しいというタイミングで紙を出す。そして決して出しゃばらず、アキの邪魔にならないように完璧に動いていた。


「アキさんが優秀なメイドと言っていた意味がわかりましたわ。」


 ミルナの言葉に3人が静かに頷く。


 苦痛といっても過言ではなかった移動が休憩を迎えてもそれは変わることはなかった。休憩の時に食事の準備をエスタートがメイドに行わせようとしたところ、アキが自分でやると言い出した。「ふはは、孫の料理が食べれるとは幸せじゃ!」とエスタートは上機嫌。料理も出来ない4人がここで当然役に立つはずもなく、見ているだけ。アリアやエスタートのメイドは勿論料理が出来る。意外だったのはセシルで、料理が得意らしく、アキの横について手伝っていた。


「これは美味いの……うちのメイドにも教えてやってくれんかの。」


 アキの料理はエスタートにも好評で、今度メイド達に料理教室を開く約束までしていた。実際にアキの料理の手法は珍しいものだったらしく、アリア、セシルに加えてエスタートのメイドも興味津々で食事中も料理の話で盛り上がっていた。


「私がここ数日している事って……寝て、起きて、食べて、寝て……なんですよ。」


 ソフィーがこれでは完全なダメ人間ですと落ち込む。実際には魔獣討伐という仕事をミルナ達はしていたので本当になんもしていなかったわけではない。魔獣の襲撃はしばしばあり、その都度ミルナ達が対応していた。アキは魔獣戦闘では当然ミルナ達に劣るので、エスタート達を守る役割を担当。ミルナ達も自分達が出来る事はちゃんとしていたのだが、その時のエスタートの言葉が彼女達に大打撃を与えていた。


「ふはは、アキとこの嬢ちゃん達は頼りになるの。その辺の男達よりずっと強い。」


 エスタートは純粋に褒めただけなのだが、男勝りで女の子らしくないと勝手に解釈した彼女達はさらに落ち込んだ。アリアやセシルはアキの後ろで女の子らしく守られていたのだから尚更そう感じるのも無理はないのかもしれない。


「アキが迷い人の話した時、すぐに信じてたよね、あの2人。僕達と違って。」


 レオが呟く。勿論出会った状況がミルナ達とは違うのだからしょうがない事ではある。だがあっさり信用している2人を見るとつい自分達と比べてしまう。


「私達は料理もできませんし、アキさんに有意義な情報も提供できてませんわ……何の為にいるのかわからない……。」


 特にセシルは協会の受付嬢だったこともあり、ミルナより遥かに様々な情報に正確に精通していて、自分の出る幕は正直なかった。


「だからと言ってアリアさんみたいにアキさんのサポートなんて的確にできません……。」

「で、でも戦闘ならできるわ!……って全く女の子らしくないわ……。」


 ミルナに続きソフィーとエレンも自分たちの不甲斐なさに落ち込む。


「でもアキなら気にするなっていってくれるよね?」


 レオが少しは前向きになろうと発言する。


「間違いなくそう言いますわね、でもだからこそ余計落ち込むんですわ。」

「ですです、もう少し何かしてあげたい。いつもしてもらってばっかです。」


 レオもわかっている。ミルナとソフィーの言う通りアキの優しさが心に突き刺さるだろうと言うことを。


「どうすればいいのよ……。」


 エレンが呟き溜息を吐く。他の3人も溜息を吐き、益々こちらの馬車はお葬式のような空気になっていく。

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