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「じゃあ最後、イリアだな。まあイリアは少しみんなと立ち位置違うけど。」
「そ、そうだね。でもちゃんと理由はあるかな・・・」
イリアがアキといる理由は少し気になる。そもそも彼女はアキの婚約者でもなんでもない。ただの冒険者仲間、メルシアの一員。イリアはそういう立ち位置だ。まあアキとしては既に恋人の気持ちで接しているが、イリアが明確に返事をくれない以上、正式にお付き合いしているとは言えない。
だからこそ、イリアが何を思ってアキと行動を共にしているのか知りたい。単にユーフレインの事があるから一緒にいるだけなのだろうか?それともミルナ達がいるから一緒にいるのだろうか?まあ一番一番嬉しい理由はアキといたいからという答えなのだが・・・
「俺の嫁になりたいからだな?」
「ち、ちがうかな!?それはまだ!まだだよ!」
ただイリアのこういう反応を見る限り、アキの事を慕ってくれているように見える。アキといたいからという理由はあながち間違っていないかもしれない。というかアキは彼女の事が好きなので、是非そうであってほしいところだ。
「じゃあどんな理由?」
「う、うん・・・えっとね、最初アキと会った時・・・」
「ああ、俺を殺そうとしてきたな。」
「そ、それは言わないでよね!」
イリアと初めて邂逅した時、彼女は問答無用でアキに襲い掛かって来た。本気で殺す気はなかったようだが、軽く怪我をさせ、魔獣関連の調査から手を引かせようとしてきた。
その理由は、アキが魔獣召喚を廃止し、魔法陣を破壊してしまうと、イリアはユーフレインに帰れなくなってしまうからだ。まあイリアはユーフレインで生まれたわけではないので、「帰れなくなる」ではなく「行けなくなる」が正しいが。
「ま、まあアキを襲った事はおいておいて・・・私がこの世界の観察者だったことはもう知ってるよね?そしてある時ミルナ達に出会って、私は変わった。彼女達の自由な生き様を見て、羨ましくなった。お役目の為だけに生きている自分が馬鹿らしくなっちゃったんだよね。」
イリアとアキが和解出来たのも、そのおかげだ。ミルナ達がイリアを変えてくれたからアキは殺されずに済んだのだ。もし本来のお役目を背負ったままだったら、何をもってしてもアキを殺そうとしただろう。
だが違った。イリアはお役目をまっとうするのではなく、魔獣召喚を使い、ユーフレインへ渡るのがイリアの目的だった。だから魔獣問題を解決する上でユーフレインに行くと言うアキの誘いに乗って来たし、今こうして一緒にいるというわけだ。
「それでアキについてきた理由なんだけど・・・ユーフレインに行けるからだけじゃないんだよね。」
「ミルナ達がいるからだろ?」
「それもあるけど・・・あともう1つ。ミルナ達が羨ましくなっちゃったんだ。」
「羨ましい?」
「うん・・・アキといるあの子達が凄く幸せそうだったから・・・それが羨ましかったんだよね。だから私もアキと一緒にいればそういう気持ちになれるのかなって。」
どうやらイリアはミルナ達が以前よりも楽しそうにしていたのが気になったらしい。まあお役目の為だけに生きて来たイリアからしてみれば、人生を謳歌しているミルナ達が羨ましくなるのも当然かもしれない。
「私といた時もミルナ達は楽しそうだった。でもアキが加わってもっと楽しそうにしてた。毎日が楽しくて仕方ないって顔してるんだもん。そんなの気になるよ・・・」
「なるほどな。」
「そ、それで・・・アキと一緒にいてわかったのが、アキに愛されているからみんな幸せなんだなって。だからその・・・わ、私も!そうなりたいかな!って!」
「お、おう?」
「そ、そうなりたいかなって!」
「いや、うん、2回言わなくてもわかるぞ。」
まさか告白の返事がこのタイミングで返ってくるとは想像もしてなかったのでちょっと驚いただけだ。むしろこのタイミングで言うと言う事は、以前からイリアの心は決まっていたはずだ。今急に決めた何てことはないだろう。
「というか何で今?」
「だ、だって中々言い出せなかったの!アキがすぐ『じゃあ嫁になる?』とか聞くから言いだし辛いじゃん!!」
「それに『うん』って言えばよかったんじゃ?」
「そ、そういうのには心の準備が必要だから・・・!」
アキとしてはイリアを弄って遊んでいただけだったのだが、それが裏目に出ていたらしい。イリアを余計に恥ずかしがらせていただけだったとは。
「そ、それにあんな事やこんな事されたんだから・・・もうアキのお嫁さんになるしかないよ!責任とって欲しいかな・・・!!!」
なんだそれ。というか人聞きの悪い事を言わないで欲しい。
「まて、俺はまだ何もしてないぞ。」