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「・・・うん、そうね、そうよ・・・!アキ君!思いついたわ!今から話すからありがたく聞きなさい!!」
やっとか。待たせすぎだ。しかし本当に愉快な猫だな。ちょっと微笑ましい。
「じゃあその理由とやらを教えてくれ。」
「仕方ないわね!特別におねーさんが教えてあげるわ!」
人を散々待たせておいてそれか。そして何でそんなに偉そうなんだよ。
まあそれでこそエリザという感じだが。
「えっとね、私はアキ君についてきたことで・・・恋、そして女に目覚めたのよ!!!」
「そ、そうか。」
想像していたのと遥かに違う斜め上の理由が飛んできた。
「わかった、じゃあ次はルティア・・・」
「待ちなさいよ!理由!理由を話してないわ!」
正直なんかあまり聞きたくないんだが・・・これは聞かないと駄目なんだろうか。まあエリザが満面の笑みでご自慢の尻尾をゆらゆらさせているし・・・言いたいんだろう。
「じゃあ理由を教えてくれ。」
「うん、ちゃんと考えてみたのよ。そしたらこれしかないって思ったの。だって私はほら、ずっと魔法一筋で仕事人間だったでしょ?まあ小さい頃、お母さんがお金に苦労していたのを見ているからね。仕事してお金を稼いで・・・余裕が出来たら大好きな魔法の研究をして・・・それにしか興味がなかったわ。」
エリザがしみじみと語る。だがエリザが仕事人間になるのは、彼女の過去を知っていれば仕方ない事だろう。小さい頃お金で苦労したら誰でもそうなる気がする。だからエリザが仕事や趣味の魔法にしか興味がなく、恋愛に見向きもしなかったのは仕方ない事とも言える。
「でもアキ君に出会って、その・・・可愛いとか言って貰えて、嬉しかった。もっと可愛くなりたいって思ったの。だから・・・その最近はお洒落とか・・・頑張っているのよ。」
なるほど。最近お洒落し始めたのは可愛くなりたいからだというのはわかっていたが、その可愛くなりたい理由がそれだったのか。
「エリザは最近可愛くなったよ。」
まあ元々この猫は可愛いんだがな。
「そ、そうでしょ!恋する乙女は最強なの!・・・って本に書いてあったわ!」
それは一体何の本なんだろう。エリザの恋云々よりそっちが気になる。
「あーそういえばエリザんさん最近恋愛系の本よく買ってますもんねー」
セシルがさらっと暴露する。どうやらエリザは若い子が読む俗な本を最近は買い漁っているらしい。
「へー・・・」
「な、なによ!駄目なの!?文句あるのかしら!アキ君!」
「いや、ないけど。」
とりあえずエリザはアキといる事で、新たなる自分に目覚めた・・・という事にしておこう。多分そう言う事で間違いないだろう。
「これからもっと可愛くなるからね!!」
「うん、期待してる。もっと綺麗になったお姉さんを見せてくれ。」
「ええ、任せなさい!」
満足気に頷くエリザ。
これで残りはあと2人。
まずはうちの小動物からいくか。
「ルティア。」
みんながそれぞれ耳を傾けていた中、まるで他の子達の理由なんて全く興味ないと言わんばかりに、1人だけもくもくと夕飯を食べ続けていたルティア。まあ本当に興味がないわけじゃなく、「ご飯」というもっと興味あるものが目の前にあったせいだろう。
「ん。」
アキが呼ぶと食べるのをピタっと止め、ジーっとアキを見つめてくる。
「もう十分に食べただろ。こっちおいで。」
「ん、いく。」
ルティアを呼んでやると、トトトっと駆け寄って来て膝の上によじ登ってくる。
「よしよし、今日は寂しかっただろ。」
くしゃくしゃとルティアの頭を撫でてやる。
今日はまったく構ってやれなかったしな。
「ん、いつも。」
「そっか。話は聞いてた?」
「聞いてた。アキといる理由。」
一応ご飯を食べながらもちゃんと聞いていたらしい。
「そうだね。ルティアはどうなの?」
「アキが好き。アキといれて嬉しい。」
むふっと頬を膨らませながら誇らしげに語るルティア。
「それだけ?」
まあルティアの場合、これ以上の理由はないかもしれない。
人見知りで恥ずかしがり屋だが、人一倍の寂しがり屋さん。それがルティアだ。そんな彼女は両親を亡くしてからずっと1人で色々と頑張ってきた。だから自分といるだけで満足してるのだと言われてもなんの不思議もない。
「んー・・・前より・・・になった。」
ボソボソっと小声で何かを呟くルティア。
「なんて?」
「さ、寂しがりになった。前は1人でも平気だった。でもアキと会って・・・寂しいって思うようになった。不思議・・・でもそれが心地いい。そしてアキにこうやって甘えると安心する。」
ルティアが恥かしそうにそう言いながらギュッと抱き着いてくる。
「そっか。」
アキと出会ったことで、人との触れあう事の心地よさを思い出したのだろう。今までは1人でも平気だったが、今はもう1人でいるのが寂しいのだ。
そして・・・この通りすっかり甘えん坊になってしまったルティア。まあ今まで彼女は1人で魔獣の事をなんとかしようとしてきたのだ。そう、1人で、誰にも頼らず。そんなの寂しくて当然だろう。
「もう1人でいるのはイヤ。ずっとアキといる。ここが私の居場所。」
「そうだな、ずっと一緒だ。」
「ん!」
拾ったからには最後までちゃんと面倒は見てあげないとな。むしろアキの方こそルティアがいないとダメだ。
「じゃあ最後、イリアだな。まあイリアは少しみんなと立ち位置違うけど。」
「そ、そうだね。でもちゃんと理由はあるかな・・・」
「なら聞かせてくれ。」
「う、うん。」