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「それで・・・アリアは?」
「私ですか・・・そうですね。私はみなさんとは少し違います。」
アリアはそう前置きをし、ぽつぽつと話し始める。
「あの・・・正直に言ってもいいですか?」
「うん、お願い。」
「私はアキさんが知っている別の世界の知識や、色々な場所へ連れて行ってくださるというのは・・・正直どうでもいいんです。もちろん面白いとは思います。でも私にとってそれはさほど大事な事ではありません。」
どうやらアリアはミルナ達とは少し見解が違うようだ。アキについて来たことを後悔してはいないが、毎日が面白いとか楽しいとか、そう言う事ではないらしい。
「私にとってアキさんは・・・あの場所から私と妹を連れ出してくださった最高のご主人様。それだけなのです。」
「んー・・・あの場所ってのは前の主人の所の事か?」
「はい。あ、いえ・・・それもありますが、私達を小さな世界から連れ出してくれたという意味です。私はずっと妹と2人で生きてきました。親からの理不尽な暴力や要求に耐え、なんとか暮らしていたのです。当然毎日が楽しいなんて思った事はありません。そんな両親に売られた時は正直少しホッとしたくらいです。これであの親が浪費する為のお金を稼がないで済む、理不尽な事を言われないで済むと・・・」
両親の話をする時のアリアの顔は怖い。やはり相当憎んでいるのだろう。
「でも売られた先があれだろ?」
「はい、アキさんもご存知の通り、売られた先も碌な物ではありませんでした。妹を連れて逃げ出してやろうかと思っていたくらいです。」
売られた先が幼女趣味の貴族様だったからな。シャルの身に危険が及ぶ可能性があったわけだし、アリアがそう考えるのも当然だ。
「逃げて、私が娼婦の真似事でもしてお金を稼げばいいと思いました。私は無愛想ですが・・・その見た目はそれ程悪くないと思うので・・・」
「アリアは美人だからな。でも・・・逃げなかったんだな?」
そこまでの覚悟なあったのに、アリアはあの屋敷に残る事を選んだ。
おそらく理由はシャルだろう。
「はい。理由は既にお察しかと思いますが・・・逃げたところで住む家も場所もありません。それに私だけならともかく、妹を路上生活させるわけにはいきませんでした。だから私がシャルを守りつつ、あの屋敷で2人で我慢して暮らせば、最低限の生活は出来る・・・という訳です。」
まあそうだろうな。アリアが娼婦の仕事についたとしても、すぐにお金が入って家を借りられるわけではない。暮らしが豊かになるわけでもない。つまりアリアには選択肢はあったようで何もなかったわけだ。
「でもそんな時です。『ここで惨めな生活を送るしかないんだ』と絶望していたところにアキさんが来てくださったんです。そして私達を連れ出してくださいました。」
「あれは偶々だよ。」
そもそもミルナ達が指名依頼をしくらなければアリアに出会う事はなかった。助けたのも気まぐれだ。だから本当にただの偶然なのだ。
「それでもです。アキさんにとっては偶然だったかもしれませんが、私にとっては人生最大の出来事と言っても過言ではありません。あそこから私とシャルを連れ出し、新しい居場所を下さいました。今では姉妹揃って毎日笑えます。それが私にとって全てです。だからアキさんの出自や知識は正直関係ないのです。私を助けてくれた。それだけです。そして一生お側でお仕えするには十分な理由です。」
ここまで饒舌なアリアは本当に珍しい。だがそれくらいあの時の出来事が彼女にとってはターニングポイントになったと言う事なのだろう。
「そうか。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言ってアリアは深々とお辞儀をする。
「アリア、俺が死ぬまで俺だけのメイドでいてくれ。頼むよ。」
もうメイドがいない、というかアリアがいない生活は考えられないしな。
「勿論です。ずっとずっとお側においてください。」
「あー・・・あといい奥さんになってくれると嬉しい。」
「・・・あっ・・・」
一応アリアの存在意義はメイドだけじゃないぞという意味で言ったのだが、これはちょっと照れ臭い。
ついアリアから視線を外してしまう。
「え・・・あの、はい・・・が、頑張ります・・・ね?」
そんなアリアも恥ずかしかったのか、少しだけ頬を染め、俯きながら小さく呟く。
「うん、頼んだ・・・そ、それでだ。」
これ以上は間が持たないのでアキは急いで話を進める。
「次に出会ったのは・・・ベルだな。」
アリアとセシルが終わったと言う事は次はベル。うちの王女様だ。
「私ですね!アキさんとの出会いから・・・今日まで!10時間は語れます!」
やっと出番が来ましたと嬉しそうに声を上げるベル。
「うん、それはやめよう。簡潔に頼む。」
まだ先も詰まってるしな、ここはさくさくお願いしたい。