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「とりあえずミルナ、続きを話してくれ。」
ミルナを落ち着かせ、続きを話すように促す。
わざとミルナが取り乱すようなことを言い、落ち着かせる。完全なマッチポンプ・・・というか不毛なやり取りだ。まあミルナの反応が楽しいから今後もやり続けるけど。
「な、なんか釈然としませんが・・・まあいいですわ。」
ミルナはコホンと咳払いを一つし、話し始める。
「私は毎日が新鮮で楽しいですわ。アキさんは私が知らない事を沢山知っていて・・・見た事もない世界に連れて行ってくれます。まあちょっと意地悪ですが・・・それはそれで嬉しいですもの。」
そう言って嬉しそうに微笑むミルナ。
「そっか・・・楽しいならよかったよ。」
改めて言われると、なんか照れ臭いな。
「じゃあ次・・・ソフィー。」
出会った順にというならソフィー、エレン、リオナだ。
先ずはソフィーに声を掛ける。
「はい!私は楽しいですー!ミルナさん、エレン、リオナ達と冒険者をしていた時も楽しかったですけど、今はもっと楽しいですー!アキさんがいて、アリアさんやセシルさん達がいて・・・毎日いっぱい色んなお話出来るのが最高ですー!」
ソフィーがいつものようにバンザイしながら叫ぶ。
「うん、そうだな・・・」
ソフィーの言う通りだ。ミルナ、ソフィー、エレン、リオナ、アリア、セシル、ベル、エリス、エリザ、ルティア、そしてイリア。今となっては全員がいてこそだ。誰か一人でも欠けたらこの華やかで賑やかな日常は消えてしまうだろう。
「じゃあ次、エレン。」
「わ、私・・・?えっと・・・最初はアキの事は『殺してやるこの変態!!』とか思ってたわ。まあ今でもたまに思うけど・・・でもアキがいてくれてよかった。あんたがいるから今私は笑えてるのよ。」
エレンが頬をほんのりと赤く染めながら小さく呟く。
懐かしい。そういやエレンと出会った当初は、口を開く度、「ぶっ殺す!!!」と言われていた。そして確かに今でもよく言われる。でも今は冗談だとすぐわかるし、エレンなりの愛情を感じるから問題ない。あの当時は本気で殺気を放って来ていたしな。怖った。
「でもツンデレなのは変わらないな。」
お手本のようなツンデレ。それがうちのエレンだ。
「ねえ、アキがよく言うその『ツンデレ』って一体なんなのよ。」
そう言えばツンデレの説明はした事なかった。まあ言ったら怒るのが目に見えているから言ってなかっただけだが。
「エレンのように可愛い女の子の事を言うんだ。」
嘘ではない。まあ本当の事でもないが。
「アキさん!じゃあ私もツンデレですー?」
ソフィーが私も可愛いからそうですよねと手を挙げる。
「あー・・・ソフィーは違うかな?」
「えー!」
アキが地球から持ってきた資料をある程度は読んでいたはずだが、どうやらソフィーはツンデレの意味を知らないらしい。
「アキさん、嘘はよくないですよ?」
そう口を挟むのはセシル。うちの兎はツンデレの意味を知っているようだ。まあ誰よりも地球の資料を読み漁っていたから当然かもしれない。
「嘘ではないぞ。」
「まあそうですけどね。確かに『ツンデレ』というのは可愛いみたいですけど・・・定義としては違いますよね。中々素直になれず、ついつい邪見な対応をしてしまう。でも大事な場面ではちゃんとデレデレになる女の子・・・の事ですよね?」
その通りだ。さすがセシル、完璧だな。
「おう、つまりエレンの事だな。」
「ちょっと!?どういう事よ!ぶっ殺すわよ!!!」
エレンが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「そういうとこだぞ?」
「まあ・・・こういうとこですよね。」
恥かしさで居ても立ってもいられなくなり、叫ぶ・・・というツンデレの基本を忠実に守るエレン。
「なるほどですー!」
「なるほどですわ。」
ソフィーとミルナも納得したのか、感心したようにうんうんと頷いている。
「ぐっ・・・う、うるさいわね!リオナ!なんとか言いなさいよ!」
「えー・・・私に振らないでよ。でも話を聞く限り、エレンはどう考えてもツンデレだと思うよ・・・?」
「違うわよ!リオナ!裏切ったわね!」
別にリオナは何も裏切ってないと思う。むしろエレンの無茶振りにちゃんと応えるあたり滅茶苦茶良い狼だろう。
「安心しろエレン。ツンデレは可愛い。つまりエレンは可愛い。わかるな?」
「か、可愛い!?そ、そうなの・・・!?」
「そうだぞ。俺がいた世界では・・・絶壁ツルペタ属性と一緒で、一部の人には絶大なる需要があったぞ?」
むしろツンデレと絶壁が合わさって最強まである。
「な、な、ななななによそれ!全く嬉しくないわよ!!!」
「まあ俺は全く興味なかったけど。」
「やっぱあんたは今すぐぶっころおおす!!」
手に持っていたフォークとナイフを振り上げながら飛び掛かってくるエレン。行儀が悪いな。しかしこれで本当にぶっ殺されるならそれはそれで面白いと思い、アキは何もせずエレンの様子を伺う。
するとエレンはフォークを振りかぶったままの不格好なポーズで、アキの目前でピタっと止まる。
「それで俺を刺すんじゃないの?」
「そ、そんな事したらアキが怪我するじゃない!!!」
本当にツンデレのテンプレのような反応をする子だ。ツンデレの教科書とやらが存在するならエレンは間違いなく表紙を飾れるだろう。
「みんな、わかるな?これが『ツンデレ』だ。結構可愛いだろ。」
「「「「なるほどー・・・!」」」」
納得したように頷くミルナ達。
勿論エレン以外。
「やっぱり今すぐぶっころおおおす!!!」
そしてそのエレンは顔を真っ赤にして飛びついて来た。とはいえやっぱりフォークやナイフで攻撃してきたりはせず、恥ずかしそうにギューッと抱き着いて来るだけだ。
はい、可愛い。