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「みんな、今日までありがとう。」
イリアのおかげで、部屋が少し穏やかな雰囲気になった。丁度いいタイミングだと思い、アキは話を切り出す。
「アキさん急にどうしたんですか・・・?」
ベルが不安そうな表情で尋ねてくる。アキが急に改まって礼を言ったから、何か重要な話をすると思ったのだろう。
実際、大事な話がある。まあ「アキにとっては」だが。
「丁度いいタイミングだと思ってな。話がある。」
「え、その・・・アキさん・・・?」
何故か泣きそうになっているベル。
多分アキが変な事を言うと思っているのだろう。まあ確かにこの切り出し方だと、「みんな、今日までありがとう、俺ここから去るよ」とか言ってもおかしくない。
「いや、変な事じゃないから大丈夫。」
だが心配しなくとも、そう言う事ではない。今更アキがベル達を置いてどこかへ行く気などないのだから。もし地球に戻らなければならない事があったとしても、ミルナ達は絶対に連れて行く。そのくらいの気持ちだ。
「そ、そうですか・・・ではどうしたんです?」
「うん、なんていうか・・・」
ベルが神妙な顔で見つめてくる。ミルナ達もだ。
「とりあえず、深刻な雰囲気出して悪かった。」
大事な話だとは言ったが、別に大した事ではない。アキは単純にこの機会にミルナ達にちょっと礼を言いたかっただけなのだ。
「音楽祭だったり、みんなの実家巡りだったり、ユーフレインの事だったり・・・とまだまだ忙しいけど、四大国会議が終わって一区切りついただろ?だから今日まで色々ありがとう・・・それを言っておこうと思って。うん、それだけなんだ。」
――バァン!!!
ベルがテーブルを両手で思いっきり叩く。
「なんですか!それは!アキさん!!!」
「・・・え、お礼だけど・・・」
「それはわかります!でもなんでそんな言い方するんですか!馬鹿なんですか!!阿保なんですか!!テーブルの角にでも頭をぶつければいいのに!!!」
ベルがもの凄い剣幕で怒鳴ってくる。
「・・・俺、怒られてるの?」
「当たり前です!あんな言い方されたら私達を置いてどこかに行ってしまうように聞こえるでしょう!!!」
やはりそう言う風に聞こえてしまったらしい。
「悪かった。でもそれはないってさすがにわかるだろ?」
先も言ったように、今更ミルナ達を置いてどこかにいくなんてありえない。そんな事はミルナ達もわかってくれているはず。そこを疑われるのはちょっとショックだ。
「そ、それはそうですけど・・・!」
気まずそうに視線を逸らすベル。
「まあ・・・お互い様って事にしようか。」
アキの切り出し方も悪かった。ここは痛み分けという事でどうだろう。
「そ、そうしましょう!それでアキさん!なんで急にありがとうなんですか!」
ベルがここぞと言わんばかりにアキの提案に乗ってくる。アキの事を疑ってしまった事に多少の後ろめたさを感じているらしい。
「うん、さっきも言ったけど一区切りついたからな。」
というのも、今日まで色々ばたばたして息を吐く暇もなかった。アキが地球からベルフィオーレに来て早数か月。アリステール東部の森でミルナ達と出会い、この世界の知識と引き換えに、彼女達の仲間であったイリアを探すのを手伝う事になる。その過程でセシル、アリア、エリス、ベルと出会った。その後はベルの依頼でミレーへ行く事になり、そこでエリザとルティアが仲間に加わる。
そしてミレーの次はサルマリアだ。色々な情報を得ていく中で、イリアは立ち入り禁止区域にいるのではちう結論に達し、立ち入り禁止区域を探索していたら案の定イリアに襲われた。結果的にイリアは仲間になり、大事にはならなかったが。
そして今に至るというわけだ。
魔獣の事やユーフレインの事は端折ったが、これがここ数か月の出来事。
「色々あったなー・・・って思ってね。」
「確かに・・・そう言われるとそうですわね。」
ミルナがどこか遠い目をしながら小さく微笑む。
どこか一つでも違う選択肢を選んでいたら今のアキ達はなかっただろう。ミルナ達に声をかけなかった、前の主人からアリアを助けなかった、ベルの相談に乗らなかった・・・例と挙げたらきりがない。
「そうだ、聞いてみたい事があったんだ。」
「なんですの?」
ミルナが首を傾げる。
「ミルナ達は俺についてきて後悔してない?もちろん変な意味で聞いているんじゃないからな?単純に今の心境を聞いてみたいだけだ。」
この子達がアキの事を慕ってくれているというのは十二分に分かっている。そういう意味ではなく、彼女達はアキについてきたことで、今まで経験した事がないような様々な事を知り、見たはず。それについてどう思っているのか聞いてみたい。
「そうですわね・・・では私からいきますわ。」
どうやらミルナから答えてくれるらしい。うちの女性陣のリーダーはミルナみたいなところがあるからな。
「なるほど、おっぱいの大きい順か。」
アキがボソっとそう指摘すると、部屋が一瞬沈黙に包まれた。
そして数秒後、何を言われたのか理解したミルナがカッと目を見開き、叫ぶ。
「違いますわよ!?その意味のわからない順はなんなんですの!!!ありえませんわ!出会った順!出会った順番ですわ!!」
「そうとも言う。」
「そうとしか言いませんわ!!真面目な話をしようとしているんですから茶化すのやめてくださいませんこと!?」
ミルナが真面目な表情をしているとついつい弄りたくなってしまう。やはり彼女は凛としたお姉さんをしているより、慌てふためいていた方が可愛いからな。
「うむ、次からは気を付けるとしよう。」
「なんでそんな偉そうなんですのよ!!!」