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そんな雑談をエリザとしながら食堂へ入ると・・・丁度ナギやシャルが夕食をテーブルに並べてくれているところだった。
「ナギ、シャルちゃん、ありがとね。」
使用人に「ありがとう」を言うのはおかしいのかもしれないが、いつもアキの身の回りの世話をしてくれている彼女達には感謝している。ちゃんと感謝の気持ちは言葉にして伝えておきたい。
ちなみにジーヴスとユミーナもミレーに連れて来ているのだが、彼らの姿は見えない。おそらく2人はキッチンだろう。ジーヴスとユミーナが料理の盛り付け、ナギとシャルが配膳係というわけだ。
「お料理、頑張ったよ!」
ナギが褒めて褒めてと犬耳をピコピコ動かし、尻尾をブンブン振りながら近寄ってくる。完全に飼いならされたわんこだ。エレンが猛犬なら、ナギは従順な忠犬といったとこだな。
「よしよし、いつもありがとな。」
ナギの犬耳をそっと撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める。
「シャルちゃんもミレーまで出張させてごめんね。」
「大丈夫ですよ!このお仕事大好きなので!」
本当にシャルはいい子だ。どこぞの変態メイドの妹とは思えな・・・
「アキさん、今失礼な事を考えませんでしたか?『シャルはいい子だな。どこぞの変態メイドの妹とは思えないな』とか考えましたよね?」
「気のせいだろ。」
一字一句言い当ててくるアリアが凄い。というか意味が分からない。
「そんな事より食べよう。アリアも座りなさい。」
「あ、はい。」
ご飯は全員で食べる。それは使用人だろうと関係ない。それがこの屋敷の決まり事だ。
「ナギとシャルちゃんも食べておいで。」
「「はーい!」」
アキがそう言うと、2人は元気よく返事をし、食堂から出て行った。
ちなみに彼女達はいつも別室で食事を取る。アキとしては同じテーブルで食べたいと思っているのだが、ナギ達がどうしてもと遠慮したのだ。ジーヴスの言葉で言うなら「私はアキ様の奥方ではありませんので遠慮させて頂きたく。」との事だ。
多分アキとミルナ達の時間を邪魔しないよう気遣ってくれているのだろう。後はまあ・・・普通に気まずいだけだと思う。アキがジーヴスの立場でも同じように遠慮している気がするしな。
それはさておき、とりあえず食べるとしよう。
「では・・・いただきます。」
「「「「いただきます!」」」」
今日の夕飯は野菜のスープ、パン、そしてステーキだ。ステーキには塩、果実、野菜が複雑に絡み合ったソースがかかっている。味は・・・うん、初めて食べる味だ。
これはシャルの味付けじゃないな。シャルの料理は何回か食べた事あるからわかる。となると・・・ナギ達か?今日はナギやジーヴスも料理に関わっているし、多分そうだろう。もしかしたらこれがユーフレイン風の味付けなのかもしれない。
「でも・・・うん、美味しい。」
「初めての味ですー!」
「そうですわね。これはこれで悪くないですわ。」
ミルナ達も初めて食べる味付けに興味津々のようで、美味しそうにパクパク食べている。うちの食いしん坊乙女達の食欲が衰えてないのであれば、大丈夫だ。今後もアキが疲れている時はちょくちょくナギ達に食事係をお願いしてもいいかもしれない。
「イリアはどうだ?」
「え?私?うーん・・・美味しいよ。でもなんか懐かしい味・・・かな?食べるのは初めてのはずなのにどうしてなのかな。」
うん、やはりこの味付けはユーフレインのものなのだろう。イリアの感想がそれを物語っている。
「きっとこれはユーフレインの味付けなんだろうな。」
「あ・・・なるほど!えへへ、やっぱり私はあっちの世界の人間なんだね!」
改めて自分の出自が証明された事が嬉しいのか、イリアが小さく微笑む。
「そうだな。」
「でも私はベルフィオーレで生まれ育ったはずなのに・・・この料理を懐かしく感じるのが不思議。どうしてなのかな?」
「さあな、それは俺にもわからん。」
何故イリアが食べた事もない料理に懐かしさを感じるのか。遺伝子にユーフレインの存在が刻まれているからだろうか?はっきりとした理由はアキにもわからない。
人間とは本当に不思議な生き物だ。科学的に証明する事が出来ない現象が時折平気で起こる。これもそんな類のものだろう。
「わからないけど・・・イリアの故郷はやっぱりユーフレインだったと言う事でいいんじゃないか?」
元科学者としては理由が気になるし、原因を模索してみたいとも思うが、それは美しくない。これはわからないままにしておくのがきっとロマンチックだ。
「うん・・・そうだね!」
嬉しそうに微笑むイリア。
柄ではないが、偶にはロマンチストになるのも悪くないな。
「それより・・・みんな、今日までありがとう。」
イリアのおかげで、部屋が少し穏やかな雰囲気になった。丁度いいタイミングだと思い、アキは話を切り出す。
「アキさん急にどうしたんですか・・・?」
ベルが不安そうな表情で尋ねてくる。アキが急に改まって礼を言ったから、何か重要な話をすると思ったのだろう。
実際、大事な話がある。まあ「アキにとっては」だが。