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「そうなのか?」
今日のシルヴィを見る限り、結構面倒な性格をしていると思ったのだが・・・違うのだろうか。
「ええ、あれは私にも予想外だったんです。あの子、興味がないものにはとことん興味ないんですよ。人のモノを欲しがる性格だと言うのはわかってましたが・・・それでも興味がなければ欲しがりすらしないんです。」
どうやらシルヴィは好き嫌いが激しいらしい。しかし何に興味を示すのかわからないとか余計に質が悪いな。
「小さい頃はおやつ、おもちゃ・・・色々取られました。最初は抵抗していたんですけど・・・しつこいんでもういいやってなってしまうんです。でも手を出されなかったものも沢山あるんですよ?」
「なるほどね。」
「それに今まで彼女が欲しがるモノは全て『物』で、『人』に興味を示す事はなかったんです。だからアキさんに興味を示すなんて夢にも思わなくて・・・不覚です。」
ベルが深い溜息を吐く。考えが甘かったと悔やんでいるらしい。ただベルの言う通りなのであれば、あまり彼女を責める事は出来ない。まあシルヴィのあの性格を考慮するなら、いささか浅慮だったと言わざるを得ないが、それでも興味を示すか示さないかがシルヴィの気まぐれである以上、そこまで読むのは難しいだろう。
「二度と会いたくないな。」
「ええ、会いたくないですね・・・」
ベルと顔を見合わせ、溜息を吐く。
とりあえずシルヴィの謎は解けた。しかしあの王女、話題に出すだけでも疲れる。ある意味凄い存在感だ。
「じゃあ四大国会議の結果だけど・・・」
「あ、アキさん、その前に1つ質問があります。いいですか?」
セシルがちょっと待ってくださいと手をあげる。
「なに?」
「シルヴィア殿下ってリオレンドの王女なんですよね?」
「え?うん、そうらしいな。」
「王女なのに手を出さないんです?」
・・・おい、一体何の話だ。
「その言い方だと俺が王女なら見境なく手を出しているように聞こえるんだが?」
「え、違うんです?」
セシルが心底驚いたような顔で見つめてくる。
失礼な兎だな。
「誤解にも程がある。」
確かにこうして何人もの婚約者がいるのだから見境がないと言われてもしかたない。だが一応ちゃんと分別はつけている・・・つもりだ。というか他人から言われるならともかく、ミルナ達には言われるのはなんか納得いかない。
「えへへ、冗談です。」
「おい。」
「でもアキさんがちゃんとあの王女様のお誘いをお断りしたのは褒めてあげますだから今日のお話は無しにしてあげますね。」
「・・・ありがとう?」
いつもと変わらぬ行動をしていただけなのに、ここでも奇跡的に説教フラグを回避していたらしい。今日は調子がいいのかもしれない。よくわからんが。
「まあ・・・さすがにアレの相手はちょっと気の毒でしたしね・・・」
隣にいたベルがそう小さく呟いたのが聞こえた。
多分これがこの子達の本心なのだろう。
とにかく今日はノー説教デーらしい。
「それがセシルの聞きたい事?言いたい事?だったのか?」
「あ、いえ、そう言う事でなく・・・」
セシルが違いますと首を振る。どうやらこれはただの前置きで、他に聞きたい事があるようだ。
「アキさんって多くのお嫁さんを貰う事に抵抗はないんですか?」
「・・・いきなり何?」
あまりに予想外の質問で、つい聞き返してしまった。
「えっと・・・私は最近、ずっと会議の資料を作ってました。その際アキさんがいた世界の文化に触れる機会が多かったんです。」
確かに最近セシルは地球から持ってきた資料や本を読み漁っていた。
「文献を読んで知ったんですが、アキさんの世界は1人の女性としか結婚しないんですよね?」
「まあ、そうだな。」
大昔は違ったのかもしれないが、今の地球のほとんどの国は一夫一妻を採用している。アフリカや中東の一部地域や民族などで一夫多妻や一妻多夫の風習が残っていると聞いた事はあるが、おそらくほとんどなかったはず。というよりアキが暮らしていた日本、そして先進国と言われる国々では一夫一妻が普通だ。そう言う意味でも一夫多妻制は身近にはなかったと言える。
「そんな世界で暮らしていたアキさんは私達を全員お嫁さんにするのに抵抗がないんですか?」
どこか不安そうな表情でセシルがそう尋ねてくる。
「もしかして最近落ち込んでいたのはそれが理由?」
ここ最近、セシルがどこか元気がなかったのには気付いていた。声を掛けようかとも考えたが、本当に悩んでたら相談してくると思い、様子見していたのだ。
「き、気付いてたんですか・・・?」
それは当然だ。
「だって兎耳が元気なかったし。」
セシルのテンションは兎耳ですぐにわかる。感情が顔に出やすいタイプの人間がいるように、セシルは耳に出やすい。セシルは機嫌がいいと、兎耳がもふもふで張りもいい。落ち込んでいる時はちょっとごわごわしていて、耳がわずかながらに垂れ下がっているのだ。
「ど、どこで判断してるんですか!!!」
「凄いだろう。兎耳マイスターと呼んでくれ。」
「呼びません!!ばかっ!!!」