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「今日はそろそろ終わりにしませんか?」
時刻は既に夜。日もすっかり沈んでしまった。まだまだ議論する事はあるが、腹も空いてきたし、これ以上会議をしても効率が悪いだけだろう。それに一通り説明すべき事はしたし、アキがこの場にいる必要性はもうない。
「ええ、十分です。あとはアキさんから頂いた資料を参考にしつつ、私達で進めますね。」
アイリスにそう告げられる。
どうやら後はアキ抜きでやってくれるらしい。概ね予想通りの展開だ。アイリス達はアキを国政に巻き込むのを後ろめたいと言っていた。だからこの会議で議論の切欠だけ与えれば、あとは彼女達だけで進めてくれると思ったのだ。
「ありがとうございます。何かありましたら言ってください。」
「ええ、その時はお願いします。」
ベルフィオーレはもうアイリス達に任せる。アキの役目はユーフレインを何とかする事だ。まあベルの手伝いである程度ベルフィオーレにも関わる事にはなるだろうが、表立って動く事はないだろう。そもそもベルはまだ王女。国王であるエルミラが健在である限り、国は彼が中心となって動かしていくはずだ。
「では私はそろそろ失礼しますね。」
アキは軽く挨拶をして、会議室から出て行こうとする。
ミルナ達の事を随分と待たせてしまった。オリハルコンのデモンストレーションを行う際、護衛を頼んだだけで、その後はずっと放置。絶対退屈しているだろう。早く連れて帰って構ってあげなければ拗ねられそうだ。
「はい!帰りましょう!」
ベルが嬉しそうに腕を絡めてきた。
「あれ?ベルは帰っていいのか?」
まだエルミラ達は議論をしていくような事を言っていたが、王女であるベルは帰っていいのだろうか。シルヴィやステラは残るようだが・・・
「当然です。私は特別なんです。アキさんと一緒にいるんです。」
ドヤ顔でそう語るベル。
「あ、うん、そうなんだ・・・」
まあベルがいいと言うなら何も言うまい。それにベルも今日はずっとアキのサポートをしてくれていた。会議中は無駄口を叩く事もなく、アキが会議を円滑に進められるよう、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。さすがに疲れただろう。連れて帰ってちゃんと労ってやるとしよう。
「ええ!?ベルさん帰っちゃうんですか!?」
ステラが立ち上がり、大声で叫ぶ。
「はい、ステラさん、さようなら。」
「冷たい!冷たいです!」
うん、また始まった。
会議中はステラもベルも静かだったのに、一区切りついた途端、こうなるらしい。しかしこの展開・・・デジャブだ。となると間違いなくあの王女も出てくる。
「あら、アキ?私を置いて帰るの?寂しいわ・・・」
シルヴィが顔を手で覆いながら、涙声で悲しそうに呟く。
やはり出てきやがった。しかもわざとらしい。絶対嘘泣きだろう。
「帰るよ。さようなら、シルヴィ。」
「酷いわ・・・私とは遊びだったのね?」
「遊んだ覚えすらないが。」
「会議が始まる前、あんなに愛を語り合ったじゃない。」
シルヴィと愛を語り合った覚えなどない。まあ会議前のアレはシルヴィと「遊んだ」と表現出来なくもないが・・・
「さっきまでちゃんと王女しててかっこよかったのに・・・」
会議中、ずっと真面目な王女をしていたシルヴィには正直感心した。ベルも、ステラも、シルヴィも、優秀な王女なのだとすぐにわかった。それなのに何故、会議が終わると3人共こうも残念になるのか。
「あら、惚れた?」
「惚れてはない。優秀な王女様なんだと感心しただけだ。」
「惚れてもいいのよ?」
「それは断ると言っただろう。俺はベル一筋。王女はベルだけで十分だ。」
会議前も似たようなことを言ったが、改めてはっきりとお断りしておく。ただこの王女、何を言っても正直無駄な気がする。何故ならシルヴィには正論が通用しないからな。
「断るのを断るわ。」
やはりシルヴィには何を言っても無駄だ。
「よし、帰る。」
こういうタイプは相手にしないのがきっと一番だろう。
「ま、待ちなさいよ。」
慌てた様子でアキを引き留めてくる。
どうやらシルヴィの事は無視するのがやはり一番効果的のようだ。
「なに?帰りたいんだけど。」
「わ、わかったわよ・・・ところでアキはリオレンドに来る予定はないのかしら?」
この王女、全くわかってない。帰ると言っているのに、何故新たな質問をするんだ。しかもこの質問に答えない限り、帰すつもり何てないのだろう。
無視して帰ってもいいが・・・別に隠すような事でもない。
ここは正直に答えるとしよう。
「あるよ。俺の嫁の1人がリオレンド出身でね。近々挨拶に行く予定だよ。」
四大国会議と音楽祭が終わったら、ミルナ、ソフィー、リオナの故郷を巡る予定だ。どの順番で行くかはまだ決めていないが、リオレンドはリオナの故郷。間違いなく行く事にはなる。何よりリオナの故郷はもふもふだと言っていた。これは絶対に行かなければならない。そう、絶対にだ。
「ふ、ふーん?来るのね?じゃあその時は王都に寄りなさい。」
「えー?」
リオナの話によると、彼女の故郷はリオレンドの田舎。王都からは馬車で数日の距離にあると言っていた。だから王都に立ち寄るつもりは正直なかった。リオレンドの王都に知り合いなんていないしな。
「なんでそんなに嫌そうなのよ!?」