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「でもここ・・・懐かしいですわね。」
そう呟くミルナ。
「そうだな。」
ミルナがノスタルジックな気持ちになるのはわかる。アキも同じだ。なんせここはミルナ達と初めて出会った場所。忘れようとおもっても忘れられる場所じゃない。
あの時は彼女達とここまで仲良くなるなんて思いもしなかった。ましてや大切な人になるなんて微塵も考えていなかった。人生、何が起こるかなんてわからないものだ。
「それよりアキさん、さっさと終わらせるのではありませんでしたの?」
「ああ、悪い。そうだった。」
ミルナに言われて我に返る。
もう少しノスタルジーに浸っているのも悪くないが、今はやる事をやってさっさとミレーに戻らなければならない。まだ会議は途中だし、話さなければいけない事も山ほど残っている。ここで想い出に浸ってボーっとしているわけにはいかないだろう。
「さて、どうしようか・・・」
周囲にアキ達以外の人間がいない事は索敵魔法で確認出来た。魔獣がちらほらいるくらいで、遠慮なく好きな魔法をぶっ放せる状況にはある。だが水爆とかはさすがに駄目だろう。大陸間弾道ミサイルのような魔法も考えたが、ちょっと被害が甚大過ぎる。とはいえ中途半端な威力の魔法では、オリハルコンの脅威のデモンストレーションにはならない。
「手榴弾・・・だと威力が弱いか?じゃあナパーム弾?でもそれだと森が全焼するかもしれないな・・・」
被害は気にしなくていいとエルミラは言っていたが、どうしたものか。
「エルミラ陛下、どの程度の魔法を使いましょうか。」
ここはもう直接本人に聞くとしよう。この森はエスぺラルドの領土。国王であるエルミラが判断するのが一番だろう。
「ふむ・・・どのくらいの事が出来るのかね?」
少し考えた後、エルミラが質問に質問で返してくる。
「この森自体を焼失させるくらいは出来ますが・・・やっていいんです?」
「そ、それはさすがに困るな・・・」
やはり森を全て消し飛ばすのは駄目らしい。
「ではどうしましょう。」
「この周辺に人はいないんだな?」
「ええ。」
どうやって確認したのかと聞かれたら、索敵魔法の説明をしなければならなかったので面倒だったが、エルミラはそこまで聞いてこない。一応アキの話は、オリハルコンの事を含め、全面的に信じてくれているようだ。まあ実際に今しがた転移魔法を経験しているのだから当然かもしれないが。
「なら・・・あそこにある山だけ消す事は出来るかね?」
そう言って前方にある山を指差すエルミラ。
あれはこの森の中心にある山だ。この世界に降り立った時、目にしたのを何となく覚えている。ただあまり印象には残っていない。まああの時は異世界に来た事に心躍っていたし、サバイバル生活に必死だった。何よりミルナ達との出会いの方が衝撃的だったので、遠くの景色の事まで覚えてないのは仕方ないだろう。
「出来ますよ。」
山を一つ消す魔法。可能か不可能かで言えば可能だ。何らかの爆弾を魔法で再現すれば何とかなる。
「では許す。やってくれ。」
許可は出た。
だがどうやってあの山を消し飛ばそうか。
山は距離にしておそらく数キロ先にある。
「了解しました。」
ここはやはり威力の高い爆弾を再現するのがいいだろう。そうなると・・・トリメチレントリニトロアミンあたりを使うのがいいか。軍用の炸薬に使われるくらい強力な爆薬。さすがに実際に使用した事はないので専門家ではないが、一応アキは元科学者なので化学物質にはある程度詳しい。それを魔法で補助してやれば、きちんと安全を確保しつつ、かなりの威力を出せるはずだ。
「よし、これでいこう。」
魔法が決まれば善は急げだ。
アキは魔法を構築する為、魔素へ伝達するイメージを頭の中で固める。少しくらい威力があり過ぎてもいいだろう。一発であの山を確実に消し飛ばせるくらいの爆薬を生成する。
「では行きます。」
エルミラ達に原理を説明してもわからないだろうからしない。化学反応なんてこの世界の人間に理解するのは無理だろう。オリハルコンを使ってもたらす事が出来る結果だけ見せればいい。
そして魔法の構築は完了した。
アキはオリハルコンの剣をそっと握り、弾頭に大量の火薬を積んだミサイルをイメージして、山の中腹目掛けて魔法を発動させる。
次の瞬間・・・
――ドォオオオオオンン!!!
一瞬で山が消し飛んだ。
素晴らしい、予定通りだ。
ただ目標の山は完全になくなり、周囲の森も削り、巨大なクレーターが出来てしまっている。一応指向性は持たせたので、アキ達に爆風などの被害は一切来てないが・・・
「「「・・・」」」
エルミラやアイリス達が魔法の威力を見て唖然としている。
うーん・・・これはちょっとやり過ぎたかもしれない。
「アキさん!やり過ぎ!!私の国を破壊しないでください!!!」
隣にいたベルに頭をペシっと叩かれた。やはりやり過ぎだったらしい。だがエルミラがやれと言ったから遠慮なくやっただけだ。その証拠にエルミラは何も文句を言ってこない。まあ唖然としていて思考が追い付いてないだけな気もするが。
「反省はしている。次からは気を付ける。」
調子に乗って威力をあげすぎたのは認める。だが今回ので大体の威力はわかったし、次からはもっと上手く調整できるはずだ。
「次はありません!その魔法もう禁止!私の国では禁止です!!!」
オリハルコンの魔法の威力は脅威だ。ベルも改めてそれを実感したのだろう。
そしてベルだけでなく、うちの子達も同様に驚いている。まあこのレベルの魔法を使うのは彼女達の前でも初めてだし、実際見ると聞くのでは大違いだったと言う事か。
「わかった。」
心配しなくても今後この魔法を使う予定はない。というかこんな魔法を乱発したらベルフィオーレが壊滅する。
「ほんとですね!?約束ですよ!!」