28
「「「はぁ!?どこがですか!!!」」」
何気なしに呟いた言葉だったが、3人に聞こえてしまったようで、一斉に怒られた。
「ベルさんとは仲良しですけどシルヴィアさんは違います!!!」
とステラに怒鳴られ、
「仲良くないわよ!私はアイリーンベルのモノを奪ってやりたいだけなのよ!」
とシルヴィには意味不明な主張をされた。
そしてベルには・・・
「アキさんの目は腐ってるんですか!どこをどう見たら仲良しに見えるんですか!目を洗って・・・いえ、取り替えて来てください!」
罵られた。
うん、ベルが一番酷い気がする。本当にこの子は自分の婚約者なのかと不安になるレベルで罵倒が酷い。
「あら、酷いことを言う婚約者さんね。アキだっけ?やっぱり私に乗り換えなさいな。」
「シルヴィアさああああん!!!」
鬼のような形相でシルヴィに詰め寄るベル。
「うるさいわね。耳元で叫ばないで欲しいのだけれど?」
「シルヴィアさんが馬鹿な事いうからです!アキさんは私のなの!私の!!!」
涙目になりながらアキにギュッと抱き着くベル。まるで自分のモノだと主張しているかのように力強く抱き締めて来る。
こういうベルはちょっと可愛い。
ただまたシルヴィとベルの口論が始まってしまった。
「あ、いい事を思いついたわ。アイリーンベルには私のお兄様をあげる。だからそこの婚約者は私に頂戴?ねえ、お兄様、いい案でしょう?」
おい、やめろ。良い案どころか最悪の案だ。ここでエリク王子が入って来たら余計ややこしくなる。これ以上この場をかき回すのはやめてくれ。
「ぜっっったい!イヤッ!!!」
即座に力強く拒否するベル。
ベルが否定してくれたおかげで面倒な事にはならなさそうだ。ただその言葉を聞いて絶望の表情を浮かべているエリク王子がいるが。シルヴィの提案で一瞬表情が明るくなったのに、ベルが一瞬で地獄に突き落としたからな。
「ア、アイリーンベル王女殿下・・・そんなに私の事が・・・」
「イヤッ!嫌いっ!」
地面に膝をつき、がっくりとうな垂れるエリク王子。
ベルの奴、完全にトドメをさしやがった。
「ベル、そのくらいで・・・な?」
いい加減止めないとエリク王子が立ち直れないレベルの心の傷を負いそうだ。アキもベルにそんな事言われたら同じようになる自信がある。
「だ、だってー・・・」
「大丈夫、大丈夫。シルヴィには興味ないから。」
ベルをそっと抱きしめ、頭を撫でてやる。
辛辣な言葉を吐かれたエリク王子を慰めるのではなく、ここでベルを甘やかすのはちょっと違う気もするが、彼女は自分の婚約者だ。甘やかすのはアキの役目だろう。まあエリク王子には申し訳ないが・・・そっちは男なんだから自分で勝手に立ち直ってくれ。男を慰める趣味はない。
「ほ、ほんと?」
「本当。俺はベルにしか興味ないから大丈夫だよ。わかった?」
「うん、わかった。」
少しだけはにかんで、嬉しそうに頷くベル。
そんなアキとベルの様子を見て、つまらなさそうに呟くシルヴィ。
「あーあ、残念。アイリーンベルから婚約者、奪えなかったわ。」
「最初から奪うつもりなかっただろ。シルヴィのせいで面倒な事になってるんだぞ。」
そもそもシルヴィが余計な茶々をいれてなければこんな状況にはなってない。それに彼女の口ぶりからして、ベルを揶揄いたかっただけだ。本気でアキを奪えるとは絶対に思っていなかっただろう。
「あら、奪えるなら奪ったわよ?」
「それはそれで最悪だな。」
「ふふ、お褒めの言葉をありがとう。」
シルヴィが妖艶に微笑むが、全く褒めたつもりはない。
「せっかくの美人がその性格で台無しだ。直した方がいいぞ?」
この王女、今まであった王女の中で一番扱い辛い。ベルやステラ、そしてユキは一癖も二癖もある性格をしているが、根本的には真面目で良い子だ。だがシルヴィは何というか性格が最悪な方向にひねくれている。悪い子ではないのかもしれないが、一筋縄ではいかない相手だ。
「性格が悪いのはわかってるわ。でもアイリーンベルが嫌がる事するの楽しいんだもの。」
くすくすと笑うシルヴィ。
どうやら性格を直す気はないらしい。しかも自分で「性格が悪い」とわかっている時点で余計手に負えない。
「程々にしろ。俺の可愛いベルを苛めるならさすがに黙ってないからな?」
友人同士、じゃれ合う程度の軽口なら構わない。だが本気でベルに嫌がらせをするならこちらにも考えがある。女子のキャットファイトに口を挟みたくはないが、ベルのパートナーとして、それ相応の報いを受けさせてやるつもりだ。
「じょ、冗談よ。そんなに睨まないで欲しいわ。」
どこか気まずそうな表情で視線を逸らすシルヴィ。
「ならいいけど。」
「もう・・・まあ今日は引いてあげるわよ。でも諦めたわけじゃないからね?覚悟しておきなさい。」
何故ここで諦めない宣言をするんだろうか。というかそもそもアキはベルから離れるつもりは無いのだから未来永劫諦めて欲しい。それにリオレンド家とは今度も会う事になるだろうし、その度にこんなやり取りをさせられるのは勘弁して貰いたいんだが。
「シルヴィに可能性はないから諦めてくれ。」
「あら、未来の事は誰にもわからないわ。アイリーンベルを見限る日がいつか来るかもしれないでしょう?」
「そうだとしてもシルヴィの元へ行く理由にはならない。」
万が一そんな日が来たとしても、アキにはミルナ達がいる。ベルがいなくなったからといってシルヴィと婚約する理由にはならない。
「そうね。でも貴方をその気にさせればいいだけよ。」
「シルヴィは俺の事別に好いてないだろ。なんでそんなに拘るんだ。」
「貴方の事は好いてないと言ったけど・・・私、ちょっと貴方を気に入っちゃったんだもん。だから覚悟しておくのね?」
シルヴィが口角をあげ、小悪魔的な微笑みを浮かべる。
どうやらアキはシルヴィに目を付けられてしまったらしい。どこに気に入られる要素があったのかは全くわからないが、そう言う事のようだ。
最悪だ。色んな意味で。
「アキさん・・・帰ったらお説教。」
「えー・・・さすがにそれは理不尽だろ・・・」
「ダメ。お説教です。」
ハイライトの消えた目でベルが睨んでくる。そしてミルナ達も恐ろしく冷たい目でアキを見ている。これは間違いなく後で怒られるやつだ。
うん、本当に色んな意味で最悪だな。