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「それでシルヴィは何か用?」
「アイリーンベルの婚約者を近くで見ておこうと思って。」
どうやらアキを値踏みしたかっただけらしい。
「ベルとは仲が良いのか?」
ベルは同世代の友達はいないと言っていたが、シルヴィの口ぶりからして2人は仲が良いように聞こえる。しかも同じ王女同士、話も合うだろう。
「え?別に仲良くないわよ?」
真顔ではっきりとそう言い放つシルヴィ。
「そ、そうなんだ。」
仲良くはないらしい。やたらと馴れ馴れしくアイリーンベルと呼ぶからてっきり2人は仲が良いのかと思ったが、違うのか。
「ええ、アイリーンベルのモノに興味があるだけよ。」
「なるほど・・・?」
これはまた強烈な性格の王女だな。言いたい事をズバズバとはっきり言う、ステラとはまた違ったタイプの王女様だ。
ただベルはこの手のタイプも間違いなく苦手だろう。
そう思いベルの方を見ると・・・案の定もの凄い嫌そうな顔をしていた。いつもならアキが他国の王女に絡まれたら真っ先に割って入ってくるのに、一歩引いているのは、出来るだけシルヴィと関わりたくないからに違いない。
「それで俺はシルヴィのお眼鏡に適ったのか?」
「んー・・・そうね・・・顔はそこそこ、頭は悪くなさそう。体は・・・」
そう言ってアキの腕や胸をぺたぺたと触ってくるシルヴィ。
「おい、何するんだよ。」
「え?確認よ?」
何の確認だ。まあ美少女に体を触られるのは悪い気はしないが。しかしやたらと積極的な子だな。こういうタイプは距離感がよくわからないので困る。しかも「顔はそこそこ」とか本当にはっきりと言ってくれる。普通に失礼だろう。まあそれが事実なのは残念ながら認めざるを得ないが。
「ちょ、ちょっと!シルヴィアさん!アキさんから離れてください!!!」
とうとう我慢できなくなったのか、ベルが割って入って来る。そしてシルヴィをアキから引き剥がしてくれた。
助かった。
「あら、アイリーンベル、元気そうね?」
「何が『元気そうね?』ですか!白々しい!私のアキさんから離れてください!シッシッ!」
「何するのよ、私は貴女の婚約者を見たかっただけなのだけど。」
「さ、触る必要はないでしょう!見たいなら離れて見てください!」
「はぁ・・・面倒な女ね。ねえ貴方、こんなのやめて私の婚約者になりなさいよ。」
シルヴィが妖艶な笑みで見つめてくる。
「・・・はい?」
この王女、急に突拍子もない事を言い始めたぞ。さっきまで彼女の兄であるエリク王子と婚約者どうこうやり合っていたのだからやめて欲しい。また面倒になるだろうが。やはり血か、血なのか?
「な、ななな何言ってるんですか!ダメ!絶対ダメ!アキさんは私のなんですよ!」
「別にいいじゃない。」
「よくない!!大体アキさん!なんでアキさんもすぐ断らないんですか!!!」
何故かこっちに飛び火した。
「え、いや、そりゃ断るけど・・・」
「すぐ!すぐに断りなさい!!!」
「え、あ、はい。」
「返事はいいから早く!!!」
今まで理不尽な説教を散々受けてきたが、今日のは飛び切り理不尽な気がする。しかもミルナ達もさっきからアキを睨んでくるし。まあ睨んでくるだけで文句は言っては来ないが。ただそれは各国の王族がいるから我慢しているだけだろう。帰ったら間違いなく色々言われるに違いない。
まあそれはともかく、今はシルヴィの相手だ。とりあえずちゃんと断るとしよう。ベルに殺される前に。
「シルヴィ。」
「何かしら?私に乗り換える気になった?」
「なってない。それは断る。」
「あら残念。」
「そもそも俺とシルヴィは今日初対面だよね?何で急に乗り換えろとか言い始めたんだ?お互いの事何も知らないし、シルヴィに好かれる要素なんて無いと思うんだけど。一目惚れ・・・とかするようなタイプじゃないだろ。」
乗り換える乗り換えない以前に、そんな事を言い始めた理由が気になる。あのユキでさえ「乗り換えない?」とか冗談を言い始めたのはアキと出会って少し経ってからだ。こんな初対面で言われる理由が全くわからない。
「ええ、そうね。別に貴方の事は好いてはいないわよ?」
「じゃあ何で?」
「私、アイリーンベルのモノが無性に欲しくなる性格なのよね。」
そんな理由なのかよ。
だがそんな滅茶苦茶な理由だからこそ質が悪い。真正面から「お断り」しても「別にいいじゃない」と言われるだけだ。正論が通用しない。
「シルヴィ、それは性格悪いぞ?」
「わかってるわ。でも私は王女よ。それに美人でしょ?だからいいの。」
わかってやっているのか。それは余計に質が悪い。しかも自分で美人とか言い始めた。この王女、果てしなく面倒だ。出来たら二度と関わりたくない。いくら美少女でもさすがにこれはちょっと遠慮したい。
「アイリーンベル、そう言う訳で、彼は貰うわね?」
「どういう訳ですか!!!ダメです!ダメ!そんな意味不明な理由であげるわけないでしょう!ちゃんとした理由でもダメですけど!!!」
いいぞ、ベル。もっと言ってやれ。
「ケチな女ね。」
「な、なんですって!?失礼な事言わないでください!わかりました、いいでしょう!そんなに私のモノが欲しいなら・・・!あげます!私のモノをあげましょう!このステラさんを!!!」
そう言ってベルはステラを連れて来てシルヴィに差し出す。
まさかここでステラを投入してくるとはさすがのアキも思わなかった。しかも一応ステラは友人だろう。それを躊躇なく差し出すあたりが凄い。
「ちょっと!?ベルさん!?困ったらすぐに私を差し出そうとするの止めてもらえませんか!!」
当然のように抗議の声を上げるステラ。
「あ、それはいらないわ。」
「でしょうね・・・」
真顔で即答するシルヴィ。そして溜息を吐きながら同意するベル。
「ちょっと!ベルさんにシルヴィアさん!!!私の扱い!扱いが酷いです!!そろそろ泣きますよ!本当に泣きますからね!?」
これはさすがに泣いてもいい。さすがにちょっと可哀そうだとステラに同情してしまった。
だがこの3人・・・割といい関係ではないだろうか。仲が良い親友同士とまではいかないかもしれないが、本音でぶつかり合える悪友と言えるだろう。
「3人共、仲良しだな。」
「「「はぁ!?どこがですか!!!」」」