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「わかりました。ではこういうのはどうでしょう。」
オリハルコンの魔法が見たいと言われるだろうというのは想定していた。リオレンドはアキとは初対面だし、アキの言う事を疑ってかかってくるかもしれないと思っていたからだ。ただこの提案がエルミラからあがるとは思わなかったが。
「今、その魔法を実演します。ただここでは無理なので・・・私の魔法で別の場所へ転移し、そこで何かしらの魔法を使うというのでどうでしょうか。実際見れば納得して頂けるでしょう。」
これに関してはやはり実際に見てもらうのが一番だろう。アイリスには以前チラッと簡単な魔法を見せた事があるが、あの程度じゃあまり実感は沸かないはず。ここは一発派手にぶちかましてオリハルコンによる魔法の威力を知らしめておきたい。
「ふむ、それは悪くない。アイリス、どうかね?」
「ええ、私は賛成です。」
エルミラの問いかけに是非にと頷くアイリス。
「わしも構いませんよ。」
「そうだな、是非お願いしよう。」
イルとリオルグも賛成のようだ。
ちなみに各国の王妃、そして王子や王女達は全員静かに事の成り行きを見守っている。先程まで「義息子が!」とか騒いでいたルベルシアも静かなものだ。きっと魔獣政策に関する政の話に入ったから一歩引いているのだろう。こういうオンとオフの切り替えはさすがだ。娘であるベルもその辺の線引きは上手いし、やはり親子だけあるな。
「アキさん、どこで実演するつもりですか?」
そんな娘のベルが可愛らしく首を傾げながら聞いてくる。
「んー、そうだな・・・」
しかしどうしようか。
魔法の実演する事は考えていたが、場所までは特に決めていなかった。せっかくなのである程度威力のある攻撃魔法を見せておきたいが、そんなものをぶっ放せるような場所があるだろうか。適当な森や草原で魔法を使えばいいかもしれないが、冒険者や旅の商人などを巻き込んでしまう可能性がある。どっかの街を壊滅させるなんてもってのほかだ。
「もうこの際ミスミルドの王城でもぶっ壊すか?」
「アキさん!それ私の実家!実家ですからね!」
ベルが絶対駄目と頬を膨らませながら抗議してくる。
当然冗談だ。
「あら、アイリーン、城くらい別にいいではありませんか。」
「え・・・お、お母様!?」
ルベルシアからまさかの意見が飛んできた。
冗談・・・だよな?
「お城がなくなったら私は住むところがありません!つまり義息子のお屋敷に厄介になるしかないって事です!それはそれでありですわ!」
本当に何言ってるんだ、この王妃。そんなのは絶対に無しだ。
「えー・・・?」
ベルがもの凄く嫌そうな顔をしている。
「ベル、冗談だから安心しろ。」
「で、ですよね!」
よかったとホッとした表情を浮かべるベル。
それにしてもさっきからエルミラの影が薄いな。ルベルシアも静かに一歩引いていると思っていたら急に前に出てくるし・・・アキは果たしてこの義家族と、特にこの義母と、上手くやっていけるのだろうか。全く自信がない。
「お、おほん・・・アキ君、うちの妻がすまんな。それよりエスぺラルドの東にある森なら人はいないと思うからそこはどうかな?」
エルミラが気まずそうな表情で提案してくる。
しかしエスぺラルドの東部にある森・・・というとまさかあそこだろうか?
「エルミラ陛下、もしかしてそこはアリステールの東にある森でしょうか。」
「おお、そこだ。あそこは地竜などの狂暴な魔獣が多くてな。冒険者もあまりおらんはずだ。森を壊されるのは少々困るが・・・その魔法をわしの目で見ておく必要があるからな、今回は特別に許可する。」
やはりエルミラが言うその場所は、アキが地球からベルフィオーレに転移した際、辿り着いた森で間違いなさそうだ。ミルナ達と邂逅したのもそこだし、その時地竜とも戦っていたしな。
「なるほど・・・ではそこにしましょうか。」
本当にその森に人がいないのかはわからないが、アキが索敵魔法で事前に探っておけば大丈夫だろう。それにあそこなら街からもかなり離れているので大騒ぎにもならないはずだ。
しかし今思えば懐かしい。こんな切欠で再びあの場所に戻る事になろうとは思わなかったが。ただせっかく行くならミルナ達も連れて行きたいものだ。丁度別室で待機してくれているし、護衛と称して連れて行けないだろうか。
アキはベルに声をかける。
「ベル、護衛はいるよね?」
「え?あ、はい、そうですね。でもアキさんの転移魔法を知られてもいい人じゃないとダメですし・・・あ、そうだ、ミルナさん達にお願いしましょう。お父様もそれでいいですよね?」
アキの考えている事をちゃんと見抜いてくれていたようで、ベルが素晴らしい茶番を演じてくれた。そしてエルミラに有無を言わさぬ圧力をかける事も忘れない。いいぞ、さすがベルだ。
「う、うむ、構わんぞ。」
「ありがとうございます!さすがお父様!」
ベルが満面の笑顔をエルミラに向ける。
「う、うむ!」
娘に褒められて滅茶苦茶嬉しそうだ。
しかしこの国王、やはり娘と妻には頭が上がらないらしい。
ただ自分の未来を見ているようであまり他人事ではないのが辛いところだ。
「じゃあミルナ達を呼んでくるか。」
「あ、私が呼んできますね!」
そう言って止める間もなく会議室から飛び出して行くベル。なんかさっきからベルがやたらとご機嫌なのが少々気になるが・・・どうしたのだろう。