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「えー・・・とにかくエスぺラルドも同意してくださると言う事でいいでしょうか?」
とりあえずベルとの会話を打ち切る。これ以上余計な勘繰りをされても困るし、雑談して時間を無駄にしている場合ではない。
「構いませんわよ!息子の為!火の中水の中ですわ!」
ルベルシアが胸をポンっと叩いて宣言する。
「え、あ、はい。ありがとうございます。」
火の中水の中まで追いかけてくるのはやめて欲しい。まあこれ以上話がややこしくなるのも嫌なので突っ込まないが。そして国王じゃなく王妃が返事をしているのもこの際おいておこう。エルミラもルベルシアに何かを言う気力はないようで、隣で溜息を吐いているくらいだしな。
「ははは、エルミラは相変わらず尻に敷かれておるな。」
リオルグが楽しそうに笑う。
どうやらルベルシアの暴走は日常茶飯事らしい。というか他国にまで知れ渡っているのか・・・こんなんで大丈夫か、エスぺラルド。
「まあ・・・それを知っているのはわしらだけでしょうが。」
「ええ、そうですね。」
イルとアイリスが顔を見合わせて苦笑いを浮かべている。
どうやら2人の言葉から察するに、一応市井の民はエルミラとルベルシアのこの関係性を知らないらしい。きっと普段は、今までアキが見ていた、「上品で気品あふれる王妃」という姿をルベルシアは演じているのだろう。まあ国民にまでこれが知れ渡ると色々不味いというのはわかる。アキも今日まで知らなかったくらいだからな。
「お義母様、何故急に猫被るのやめたのですか。」
気になったのでもう直接聞いてみた。決して一国の王妃に吐くような言葉ではないが、今日を含め、この人には今まで色々と迷惑をかけられたのだから多少の失礼はかまわないだろう。
「だって最初からこんな私だったらアキさんドン引きするでしょう?」
「ま、まあするかもしれません。」
現在進行形でしているとは口が裂けても言えない。
「だから頃合いを見計らってたの!」
「そ、そうなんですか。」
「そうよ!」
「でもなんで今日なんですか。」
今日というこのタイミングは絶対違う気がするのは自分だけだろうか。
「ここの人達は私の性格知っているし、アキさんもお義母さんと呼んでくれるようになったし・・・何より面倒臭くなったからよ!」
うん、間違いなく最後のが本音だな。
「あ、はい。」
もうルベルシアの事は放っておいて話を進めるとしよう。
「ではとりあえず四大国会議は定期開催すると言う事で。主催国は持ち回りでいいでしょう。ただ次回から私は参加しませんが。」
要望されたら参加はすると思うが、自ら積極的に政に関わるつもりはない。
「そうですね、それでいいでしょう。開催日や場所はこちらで決めます。」
アイリスが頷く。他3国もそれに異論はなさそうだ。
「よかったです。それでは本題に入りましょう。皆さん、資料の1ページ目を見てください。」
ここからが会議本番だ。とはいえ全員話は聞いているそうなので、会議は円滑に進みそうではある。とりあえず復習がてら魔獣制度の概要とその問題点を説明するとしよう。
「1ページ目には現在の制度の問題点が書いてあります。皆さん既に把握していると思いますが、一応説明します。」
そしてアキは現制度の問題点を挙げていく。
やはり一番の問題は魔獣に犯罪抑制を任せている事によるリスクだろう。未知の技術に頼っているのが恐ろしい。いつ暴走するかわからないし、何よりその技術を提供したユーフレインがちょっかいをかけてくる可能性もある。それに魔獣を一括管理している立ち入り禁止区域も色々と問題だ。各国の一部地域をいつまでも秘密にしておくのはどうかと思うし、管理している一族を縛り付けている事もあまりよろしくはない。
「ユーフレインという世界やオリハルコンについても説明しておきますね。」
ここからはアキが発見した事実を伝える。オリハルコンは大気魔素を直接利用できる素材である事、魔獣はユーフレインという世界から召喚されている事実などだ。ただこれもアイリス達が事前に情報を共有してくれているらしいので大まかな説明だけに留めておいた。
「ここで一番大事なのはオリハルコンを直接利用しての魔法は今のところ私くらいにしか使えないと言うところですね。」
アキが悪用しない限り、オリハルコンに危険性はない。だが地球の科学知識を持っているアキにしか使えないというのはあくまで「今」だけの話だ。現段階ではベルフィオーレの文明レベルは地球に比べて遅れているが、文明はいずれ発達する。何時誰がアキと同じようにオリハルコンを使えるようになるかなんてわからない。
「現在は私が悪用しない限り危険はありませんが・・・いつまでもそうとは限りません。というわけでオリハルコンの使用は禁止するべきです。」
「そうだな、それにはわしも賛成だ。」
エルミラが頷く。
「はい。ユーフレインの方は私の方で対応します。ですがベルフィオーレ、こちらの世界、の事は皆さんにお任せする事になります。」
ユーフレインに関してはアキが今後何とかしていくつもりだ。ただ調査が順調とは言い難い。どれくらいかかるかはわからないので、ベルフィオーレ側での対策は急務だ。
「うむ、それは当然だ。だがアキ君、1つ聞きたい。」
「エルミラ陛下、なんでしょう。」
「今してくれた話は以前聞いた。だが実際そのオリハルコンとやらでどんな魔法が使えるのか見た事がないのだ。アキ君が言ってるような事が本当に出来るのかね?」
なるほど、エルミラの意見は当然だろう。アキからしてみれば地球の科学は「現実」だが、彼らにとっては机上の空論でしかない。
「わかりました。ではこういうのはどうでしょう。」