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「アキさんどういうことですかー!説明!説明!」
ソフィーが目を見開いて叫ぶ。
「え、だから何が?」
アキが平然と答える。
「ちょ、ちょっと待ってください。1つずつ質問させて頂いてもよろしいですか?」
ミルナが平静を保とうと必死になっている。
「いいけど。」
では……とミルナは気になることを順番に確認していく。
「怒ってました?」
「何に?」
「私達が言った言葉に。『弄んで酷い!』『傷つけた!』とか……。」
「え、いや、全然。」
「何で『どうだろうね?』しか言わなかったんですの……?」
「言い訳したくないし、酷い事したのは事実だし。ちょっと恥ずかしくない?本音言うの。」
「ずっと窓の外を見てたのはどうしてですの?」
「星空綺麗だなって。」
「目を瞑ってたのは?」
「眠かったから。」
「なかなか私達の質問に答えなかったのは?」
「眠かったから。」
「今答えてくれるのは?」
「大分目が覚めたから。」
「わざわざアリアさん達と席を外したのは?」
「庭が綺麗だったから。あとミルナ達に落ち着く時間がいるかなって。」
アキの答えを聞いてミルナはさらに混乱したようで「え?」「はい?」とか呟いている。ソフィー達もわけがわからないと困惑の表情だ。
「ア、アキさん。私からも少々よろしいでしょうか……?」
次はアリアが質問者としての名乗りをあげる。どうやら彼女も混乱しているようで言葉に戸惑いが見える。
「いいよ?」
「先ほどお庭で『俺の為に怒ってくれてありがとう』って。」
「俺の為に怒ってくれたからそのお礼だけど?言葉通りの意味だよ?」
「私やセシルさんが彼女達の態度にむかついた話をしましたよね?アキさんも少しはそう思ったんですよね?だからアキさんは怒ってくれてありがとうって言ったのではないんですか?」
「いや?受け取り方は人それぞれだしねって言ったよね?」
「こ、これからもずっとお側にいますって言った時、安心して嬉しそうな顔してましたよね?1人になるから不安に思ってたんですよね?」
「だってミルナ達は俺より上位ランクの冒険者だし、依頼に行ったら俺1人になるでしょ?アリアがいてくれるなら1人じゃないし安心しない?」
アリアも仏頂面とは程遠い唖然とした表情を浮かべている。
「じゃ次は私です!」
「セシルか、なんでもどうぞ。」
「私の耳触って落ち着くって。」
「うん、だから言葉通りの意味だけど。」
「それはそれで嬉しい……じゃなくて!」
「?」
セシルは「あれー?」と首を傾げているが、寧ろアキの方がよくわからない。
「じゃあ次は僕ね。」
レオが手を挙げる
「いいよ。」
「話し方がぶっきらぼうだったのは?」
「うーん、レオ達に嫌われたらやだなって思ったらつい。あとまだ体が痛い時があって我慢して話してたから。」
「さっき『なんで謝るの?』って聞いたのは?」
「なんで謝るのかわからなかったから。だってレオ達に必要な事とはいえ酷い事させたんだから謝るのは俺のほうじゃない?」
レオが「えええ……」という表情をしている、
「わ、私もいい?」
次はエレンが控えめに手を挙げる。
「うん。」
「アキは私の事嫌い……?」
「大好きだけど?」
「愛想尽かしたりしてないの?」
「全然?むしろ尽かされておかしくないのは俺のほうだし、皆が一緒にいたいって言ってくれて本当に安心したし嬉しかったよ?」
「そ、そうなの……?」
エレンも「あれ?なんか話が違うんだけど」という顔をしている。質問は大方終わったようだ。1人を除いて。
「ソフィーはしなくていいの?」
「し、します!」
「どうぞ?」
「えっと、さっきアリアさんが予定は?って聞いたら別の国にって……。」
「うん、色んな国を物見遊山したいって前言ったよね?そのうち行きたいなーって。だからアリアにどうかな?って聞いたんだけど。」
「じゃ、じゃあセシルさんが一緒に行きたいって言ったら好きにすればいいって。」
「だってセシルの人生だし、好きに生きるのがいいんじゃないかな?」
アキが言い終わると今度こそ質問が終わったのか全員が静かになる。
するとソフィーが急に泣きながら抱き着いてくる。
「うわーん、アキさーん。」
「よしよし、人殺しさせてごめんね。俺といてくれてありがとう。」
優しく撫でてやる。ソフィーとの和やかな雰囲気が流れ、アキは段々と心地よくなってきた。気持ちがよくなればお腹も空く。
「お腹空いたなー。なんか食べたいな。」
そんな事を考えていたらいつの間にかアリアやセシルを含めたソフィー以外の全員がアキの方向を見ている。皆もの凄く何か言いたそうな表情だ。
「アキ!あんた殺す!今すぐ殺す!」
「なんで?」
何故かエレンに殺害予告された。
「アキさん、私もお仕置きしてもよろしいですわね?」
「えへへ、僕もする。」
エレンに続きミルナとレオも名乗りをあげる。
「だから何で?」
「アキさん、私もちょっとアキさんを折檻しますね。」
アリアが相変わらず恐ろしい事を言っている。
「アキさん!覚悟してください!」
セシルが詰め寄ってくるのでとりあえず兎耳を掴む。
「やっ……なんで触るの……!」
「覚悟して私の最高の感触の兎耳を堪能しなさいって意味では……?」
「じゃないもん!ち、違うもん!」
とりあえず皆を落ち着かせてミルナに話を整理させる。
「つまりアキさんはそもそも別に怒っているとか私達に絶望したとかはなくて、私達が一緒にいるって言った事に感謝している。ずっと静かだったのはただ眠かっただけで、アリアさん達としていたのは、強いて言うなら、日常会話ということでよろしいんですの……?」
話を纏めるミルナ。
「要点だけ取るとそれでいいんじゃない?」
それを聞いたミルナは口を膨らまし拗ねている。ただすぐに泣きそうな表情になり、アキの側に来て思いっきり抱きしめてくる。彼女のアクアブルーの髪から花のようないい香りがしてアキは少しドキっとしてしまう。それにミルナの柔肌から彼女の温もりが伝わって来て理性が飛びそうになる。
「どっか行ってしまうかと思いました。そんなのダメだから。」
しかしそんなロマンティックな展開ではない。アキは彼女を泣かせてしまったのだから。アキは「泣くな」とミルナをそっと撫でてやる。
「えっと、俺も一旦整理させてね。つまりミルナ達は自分達が酷い事言って、俺に絶望されたと思ったと。そしてアリアやセシルとどこかに行っちゃうって思ったってことでいいの?」
「ええ……。」
ミルナがアキの腕の中で小さく呟く。アキは自分の態度や対応を思い返す。確かにそう受け取られてもおかしくなかったかと反省する。だがそれはありえない。
「俺の態度が皆を勘違いさせたのは謝る。まあ、もう皆が色々言ってくれたから俺も言うけど……。」
アキは少し間を開け、彼女達にはっきりと伝える。
「俺が嫌いになるわけない。ミルナ達といるのは楽しいし、感謝している。気持ちを利用したのは悪かったと思っているけど、慕われているのは嬉しかった。エレンは素直じゃないけど優しくて面倒見がよくて、レオはいつも落ち着いていて努力家で、ソフィーは純粋でいつも可愛い笑顔見せてくれて、ミルナは凛としているけど実は泣き虫な女の子で……あといい香りがするよ?」
アキを抱きしめたままだったミルナ。アキに指摘され抱きしめている事をやっと思い出したようで、ミルナは顔を真っ赤にして急いでアキから離れる。
「だから安心して。寧ろ俺のほうが感謝しているんだから。そしてミルナ、何より……」
「は、はい。」
「たいきをもやせー!が聞けなくなるのは寂しい。」
「やめて!それは言わないでっていったでしょ!」
やっといつもの雰囲気に戻ったミルナだったので少し安心する。エレンとレオもこっちに来たそうだがエレンは恥ずかしいのと、レオは一応今は男なので遠慮しているようだ。2人には後でと目で合図してやると嬉しそうに頷いているので一先ずこれでいいだろう。
「大分痛みも治まったし、帰ろうか。明日出立する準備しないと。」
「そうですね!帰りましょうー!」
ソフィーもすっかり復活したようで元気に同意してくれる。
「アキさん、お荷物お持ちいたします。」
ソファーから立ち上がったタイミングで自然とアリアが声をかけてくる。
「ちょっとアキ、その人ついてくるの?」
エレンが不満そうだ。
「もちろんです。私はアキさんのメイド兼従者ですから。」
「そ、そんなのダメよ!」
「あら、何故ですか?それを決めるのはアキさんです。アキさんはいいって言ってくれました。」
言ったっけ?と思うアキ。だが何を言ってもアリアはついてくる気がするので、不毛なやり取りは避け、彼女を連れて行くべき理由を考える事にした。
しばし逡巡してアキはミルナ達に告げる。
「王都での屋敷とか任せられるのは助かるでしょ。忙しくなるんだしさ。それにメイドとして相当優秀だ。俺はアリアがいると助かるかな。駄目かな?」
「アキさんがそうおっしゃるなら私達は何も言えませんわ。」
ミルナも少し拗ねているが渋々同意する。なんとか説得出来そうだ。
「ありがとうございます。」
アリアはアキに深くお辞儀する。
「ところで皆さまはアキさんの事を見限ったりはしないという事でよろしいのでしょうか?」
「当たり前でしょ!」
「もちろんですー!」
エレンとソフィーが真っ先に答える。
「チッ……念の為の確認でした。お気になさらず。」
「ちょっと!こいつ今舌打ちしたわよ!クビよ!アキ!」
「アキさん、クビにしましょー!」
とりあえず騒ぐ2人の頭を軽く叩き黙らせる。
「落ち着け。後、アリアもわざわざ火種つくらないように。」
せっかくミルナ達を説得する理由まで考えてアリアを連れていけるようにしたのだからその努力を一瞬で灰にしないで欲しい。
「申し訳ありません。」
アキだけには素直なアリア。もう色々面倒そうなので、そのうち勝手に和解するだろうと考える事にする。
「よし、帰るぞ。」
「あの……アキさん?」
「今度はなに?ミルナ。」
「え、あの……それは……?」
ミルナがアキの右手を指差す。
そこにはアキに捕まったセシルの姿があった。
「なに?え?私……?あれ?」
混乱している様子のセシル。
「何言っているんだミルナ、俺の兎耳持って帰るだけだよ。」
「ち、ちがう!アキさんのじゃないもん。ひっ……あ、触っっちゃだめ……!」
相変わらずセシルは急に耳を触ると可愛く取り乱す。
アキは本日何度目かわからないセシルの耳を堪能する。さすが獣人族の尻尾や耳は小説でもよく書かれている通り癒されるな。まさかとは思ったけど、本当にそうだとは。事実は小説より奇なりどころか、事実は小説通り事実だった。
「これで毎日素晴らしい癒しが楽しめる。連れて帰るんだ。異論は認めん。」
「異論あるから!私の異論きいて!」
冗談はこれくらいにしてセシルを離して最後にちゃんと撫でてやる。
「セシルは本当にどうする?好きなようにするといい、来るならついてくればいい。残るならそれもいい。ちゃんと考えて決めるんだよ。明日の朝アリステール発つから来るなら屋敷までおいで。」
それだけ言い残し、アキはミルナ達を連れて屋敷を出る。エスタートが用意した馬車に乗り込み、扉を閉めようとする……と、ふと玄関の方から声が聞こえた気がして振り向く。
「考えるまでもないです、もう決めてます!行きます!私はアキさん専属受付嬢ですからー!」
セシルが嬉しそうに手を振っている。アキも軽く振り返して馬車に乗る。
「アキさん、帰ったら色々『お話』しましょう。本当に色々あります。」
そこには素敵な笑顔で微笑むソフィーがいた。




