20
結局あれから30分くらい、エリク王子は自分の素晴らしさについてベルに語っていた。王子と婚約する事がどれだけベルにとって幸せなのかをつらつらと箇条書きのように述べていたのだが・・・しょうもない理由かと思いきや、存外まともだったのに驚いた。
ベルとエリク王子が結婚することで、両国を繋ぐ懸け橋となり、お互いの国にさらなる発展と繁栄をもたらす事が出来るとか言っていた。うん、確かにその通りだ。アキなんかと結婚するより、他国の王子とした方が国としては遥かにメリットがあるだろう。
ただベルにとってそんな理由はどうでもいいらしく、ひたすら暇そうにしていたが。そして最終的にベルが「だって貴方の事好きじゃないし」と一刀両断していた。
可哀そうに。
それでも王子は必死に食い下がり、何とかベルの心を惹こうと努力していたのだが、その結果・・・
「その男より私の方が顔もいい!子供にも期待できます!」
と王子が言えば、
「男は顔じゃありません!」
とベルが言うし、
「私の方が華があります!見た目が地味なその男よりは絶対にいいです!」
と言えば、
「私どちらかというと地味な方が好みなんです!」
とうちの王女が反論するという子供の喧嘩のような口論に発展している。
おかげでこっちにまで多大な精神ダメージが来る。ベルは意図してないのだろうが、アキの心はそろそろ折れそうだ。
確かにアキは男前でもないし、華もない。そんな事は自分でもわかっている。だがベルにああやって宣言されると心に来る。
「何故!王女殿下!何故その男なんですか!」
「もういい加減にしてください!どうしてわからないんですか!私はかっこよくなくて華が無い地味なアキさんが好きなんです!」
いい加減にして欲しいのはこっちの方なんだが。
やはり後でベルはしばく。
しかしまたお互いに感情的になり始めているな。ちょっと一回止めた方がよさそうだ。
「おい、ベル。」
「は、はい!なんですか!私の大好きなアキさん!」
ベルが満面の笑顔で振り向く。
「どうも。地味で華のないアキです。」
「あ、え!?ち、違うの!今のは!あれは!ち、違うんです!」
大慌てで必死に言い訳を始める。
「いいよ、事実だし。わかってるし。」
「やだ!拗ねないでください!」
「拗ねてないし。」
「滅茶苦茶拗ねてます!大丈夫です!アキさんはかっこいいです!私はかっこいいと思います!世間が何と言おうと私だけはそう思ってますから!安心してください!」
全く安心できない。つまり世間一般的にはかっこよくないと言ってるようなものだ。なんでこの子は傷口に塩を塗りたくってくるんだろう。
「はいはい、それはもういいから。それよりまた言い合いになってるぞ?少しは落ち着いて話しろよ。ベルが感情的になってどうするんだ。」
「だ、だってー!」
私は悪くないもんと子供のように頬を膨らませるベル。
もしかして王子が中々引き下がれないのはこのベルの態度のせいではないだろうか。もう少し毅然とした態度でちゃんとお断りしていれば、ここまで面倒になってなかった気がする。今までがどうだったかは知らないが、今この場ではベルが悪影響を及ぼしているのは確実だろう。
「ちなみにエリクリアム殿下は以前からベルに婚約を申し込んでたんですよね?」
「ああ、そうだ。」
「その時はなんて返事をされたんですか。」
「む?返事はもらってないぞ?」
「あ、そうなんですか・・・?」
どういう事だ?ベルはちゃんとお断りしたと言ってた。それなのに王子は返事をもらってないと言う。ちょっとこんがらがって来た。
一度最初から整理しよう。
「殿下、最初にベルと出会ったのは何時でしょう。」
「ふむ・・・多分6歳くらいの時だったか。その時から王女殿下は美しくてな。将来妻するのはアイリーンベル王女殿下しかいないと子供ながらに思ったものだ。」
つまり幼少の頃にベルと出会い、王子が一目惚れしたと言う事か。
「それからも何度かベルと会ってるんですか?」
「そうだ。まあ会うと言っても見かける程度だったがな。話したのはいつが最後だったか・・・もう覚えていない。やはり国が違うと年に1度くらいしか会う機会がないんだ。それも遠目から見かけるくらいだしな。」
どうやら闘技大会等、他国を招いて行われる催しの時にベルを見かける事くらいしか接点がなかったらしい。まあエリクは他国の王子だ。仕方ない事なのかもしれない。
「だが見かける度に王女殿下は美しくなっていたのだ!そう!それはまるで・・・!」
「あ、はい、なるほど。それで婚約の申し込みをしたのはいつなんでしょう。」
王子がまた自分の世界に入ろうとしたので急いで言葉を遮る。ベルの素晴らしさを他人から延々と聞かされるのは苦痛でしかない。ベルが良い女なのは当然分かっている事だしな。
「あ、う、うむ。それは去年の暮頃だな。」
大体1年、アキがこの世界に来る半年くらい前だ。アキと出会う前のベルか・・・その頃はどんな王女だったんだろう。ちょっと気になる。
しかしこの王子、ベルとまともに話したのは幼少の頃が最後だったのか。それでいて婚約を申し込んだというのだから凄いな。まあ世界が違えば文化も違う。それに王族なんてそんなものなのかもしれない。
「実際に会って結婚を申し込んだんですか?」
「いや、流石に会う機会が作れなくてな。いつも通り手紙を送った。」
婚約の申し込みも手紙らしい。
「それで返事は?」
「さっきも言ったがもらってない。」
つまりベルが返事を出してないと言う事だろうか。しかしベルはその辺は律儀なはずだ。何故返事を書かなかったのだろう。