18
「エリクリアム王子殿下、先程も申し上げました通り、ベルは私の婚約者です。」
「それは聞いた!だがそんなのは許されんと言っておる!」
本当に何言っているんだ、この王子は。
「ベル、言ってやれ。」
「はい。私が決めた事です。なにか問題でも?」
そう、ベルが決めた事なのだからなんの問題もない。エルミラが先程「婚約者は自分で見つけろ」と宣言していた通り、ベルはそれを実行したまで。エリク王子がやっているのと同じことをベルはやっただけだ。その相手がアキであってエリク王子でなかった事はご愁傷様としか言いようがないが、ベルが決めた事なのだから仕方ないだろう。
「くっ・・・し、しかしベル王女殿下!私のほうが・・・!」
「アキさんを悪く言わないでください。あと『ベル』と呼ばないでください。そんな呼び方を許した覚えはありません、エリクリアム王子殿下。」
さり気なく愛称で呼んだエリクを咎めるベル。アキがベルを呼ぶときは「ベル」と言わないと不機嫌になるのに、どうやらエリクが呼ぶのは駄目らしい。ちょっと特別扱いされている感じがして嬉しかったのは内緒だ。
「どうしてですか!その男は王女殿下の事をそう呼んでたではないですか!」
「当たり前です。アキさんは私の婚約者ですから。」
「それが納得いかないのです!」
「別に貴方に納得して頂く必要はありません。」
ベルが淡々と告げる。だがその通りだ。エリク王子の言っている事はただの八つ当たり、妥当性はまったくない。
「ベルの言う通りです。エリクリアム王子殿下、申し訳ありませんが彼女は私の婚約者ですので身を引いて頂けないでしょうか。」
「き、貴様・・・この私に意見をするというのか!王女殿下に相応しいのは私だと言っているだろう!貴様こそ身を引くがいい!」
「いえ、だからベルが・・・」
「そんなものは関係ない!」
ああもう面倒だな。この王子、本当に人の話を聞かない。しかも感情論で話すから、何を言ったところできっと無駄だなんだろう。
「ではどうされたいんですか。」
「貴様が身を引け!」
「ですからそれは無理です。ベルは私がいいと言ってるんですよ。」
雰囲気は最悪だ。幸いにもまだ暴力には訴えて来ないが、一触即発。いつ手を出してきても正直おかしくはない。
「最後にもう1回聞くが・・・貴様は王女殿下から離れる気はないんだな!」
「ええ、ありませんね。ちなみにエリクリアム王子殿下が身を引くというのは・・・」
「ありえん!つまりだ!もう我々の決着は決闘でつけるしかあるまい!アイリーンベル王女殿下を賭けて勝負しろ!それしかなかろう!勝った方が王女殿下の婚約者だ!」
「え・・・お断りますけど。」
即答で辞退する。ぶっ飛んだ案が出て来て少々驚いたが、考えるまでもない。小説やドラマで決闘は定番のイベントかもしれないが、現実ではありえない提案だ。
「な、何故だ!?」
説明しないとわからないのか?
まあいい、はっきり言ってやるとしよう。
「ベルは景品ではありません。」
「そんな事はわかっている!」
「いえ、わかってらっしゃらないです。決闘をして私が負けたとしましょう。ですがそれでベルがエリクリアム殿下の婚約者になると本当にお思いなのですか?」
女を賭けての決闘。小説等ではよく描かれる場面ではあるし、盛り上がる展開なのかもしれない。だがこれでは女性側の意見を完全に無視している事になる。
「ベルは俺が負けたら婚約者やめるか?」
「やめません!負けても勝っても私はずっとアキさんのお側にいます!」
ベルが高らかに宣言してくれる。
まあ普通はこうなる。ベルがアキを好いてくれているのは何も戦闘能力が高いからではない。むしろ純粋な戦闘力で言えばミルナ達の中では一番低いくらいだしな。
「エリクリアム王子殿下、そういう事です。」
自惚れかもしれないが、ベルは「アキ」という人間を慕ってくれているのだ。だから決闘を行う意味は全くない。まあエリク王子が自己満足の為にやりたいと言うのであればしてもいいんだが・・・それをしたところで素直に引き下がる相手ではないだろう。
「だ、だがそうでもしないと王女殿下の婚約者になれないだろう!」
「いえ、何をしてもなれません。」
「なんだと!私に諦めろというのか!」
「はい。」
最初からそう言っているだろうに。ベルが自らの意志でアキの婚約者でいる限り、この王子に可能性なんてない。だがこれでは話が永遠に平行線だ。何かしらの区切りをつけてやらないと、この王子、永遠と付き纏ってきそうな気がする。
「ではこういうのはどうでしょう。」