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アキは会議室へと続く扉を開け、中に入る。
会議室は四方が吹き抜けとなっており、そこからはミレーの街が一望できた。この部屋へ来るまでいくつかの階段を上がったので、「おや?」と思っていたが、やはりこの王宮の中でもかなりの上層にるようだ。
「おお、絶景だな。」
きっと国賓をもてなす為に用意された部屋なのだろう。こういう機会でもなければ一生入る事がないような場所だ。
「気に入って貰えたようでなによりです。」
部屋の中央に設置された円卓テーブルの一角に座っていたアイリスがにこやかに話しかけて来る。
しかし円卓のテーブルか・・・なんとも男心を擽るシチュエーションだ。
ちなみに部屋自体は豪華絢爛と言う訳ではなく、無駄な装飾品などは一切ない。ただ気品ある調度品が適所に配置されており、非常に上品な造りとなっている。多分アイリスの趣味だろう。
「やあ、アキ君、久しぶりだね。」
そしてアイリスの隣に座っていた男が軽く手を上げ、挨拶してくる。彼はアイリスの王配であるジラルドだ。
「イアイリス女王陛下並びにジラルド殿下、本日はお日柄も良く・・・」
公式な場なので、正式な挨拶をと思い、アキは格式ばった言葉を口にしたのだが、アイリスに手で制された。
「アキさん、いつも通りでいいですよ。」
「いや、でも・・・」
アイリスはそう言うが、さすがに不味くはないだろうか。確かに今はまだアイリスとジラしかいないが、他国の王族が来たらさすがにアイリスと呼ぶのは駄目な気がする。
「いえいえ、誰も気にしませんよ。それに面識がないのはリオレンド王国くらいでしょう?そもそもエスぺラルドの国王陛下や王妃様は将来の義父、義母ではありませんか。他人行儀なのはよくないですよ?」
確かにアキはベルと婚約しているのだから、エルやルベルシアとは義理の親の関係になる。だがサルマリアとはそう言った関係は一切ない。ミレーも同様だ。これが非公式の場であれば、いくらでも愛称呼びをしても問題ないとは思うが、こういった場ではさすがにいかがなものか。
「それにサルマリアの王女殿下とは特に親しい間柄だと聞いています。」
ああ、ステラの事か。
「まあそうですかね?」
「はい、彼女も来ています。だから気楽に行きましょう?」
「でもリオレンドの方々とは面識ないですし・・・」
「大丈夫です。アキさんの事は少し話しておきましたので問題ありません。」
どうやらアイリスが色々と裏で手を回してくれていたらしい。まあそれならいいか?しかし欲を言うならベルとの関係も説明しておいて欲しかったものだが・・・さすがにそれはないだろう。
「わかりました。そこまでアイリス女王陛下がそうおっしゃるなら。」
「『アイリスさん』でもいいんですよ?アキさんはルベルシア王妃殿下の事をお義母様と呼んでると聞きました。」
何でアイリスがそれを知っているんだろう。というかアキが呼びたくてそう呼んでいるわけではない事は是非主張しておきたい。お義母様って呼ばないとあの王妃、全力で無視するから仕方なく呼んでいるだけだ。
「いえ・・・それは遠慮します。」
「残念です。では私の事もお義母様と。」
おかしいだろう。どうしてそうなった? しかもそれで呼んだらベルの母親が絶対不機嫌になるやつjyないか。リオレンドの王子という面倒事が既にあるのに、余計なおかわりはいらない。
「絶対嫌です。」
「冗談です。」
ふふふと楽しそうに笑うアイリス。
「しかし女王陛下は緊張感ないですね・・・」
ここは少しくらい嫌味を言っても許されるはずだ。
「あら、だって私は緊張する必要ないですもの。どちらかというと緊張するべきなのはアキさんでは?そうでしょう?」
「まあ・・・そうですね。」
どうやらアイリスに嫌味は通用しなかったらしい。というか上手く躱して反撃までして来た。
「とりあえずアイリス女王陛下、他の方々は?」
このままアイリスと話していても弄られるだけだ。そう判断した。だが会議室にはまだアキ達しか来ていないので、会議を始めるにも始められない。
「それならもうすぐ・・・あ、来たみたいですよ?」
「ベルさーん!!!!」
噂をすればなんとやら。元気よく会議室に飛び込んでくる1人の少女がいた。
ああ、うん、ステラだな。第一声がベルなのは間違いなく彼女だ。しかしいいのか?一国の王女がそんな登場の仕方で・・・