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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第四章 殺意
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15

 アキは自分が寝かされていた部屋に戻り、扉を開ける。部屋にはもう誰もいない。アキは先ほど座っていたソファーに腰掛け、窓の外の星空へと目を向ける。そういや地球ではあまり星を見上げることってなかったなと少し感傷に浸る。


「これからどうされますか?」


 アリアが予定を尋ねる。彼女が聞きたいのは今日これからどうするのかではなく、多分明日以降の話だろう。そういう意味のどうするの?だとアキは解釈した。


「別の国に行って物見遊山するのもいいな。どう?」

「アキさんが行くところであればどこへでも付き従います。」


 アリアは深々とアキにお辞儀をする。信頼できる従者って悪くない、そんな感覚になる。アリアの場合は共犯者という部分もあるので余計そう感じるのかもしれない。


「ア、アキさん……私も行っていいですか?」


 どうやらセシルも同行希望のようだ。


「協会の仕事は?」

「辞めますよ?別に何か夢があったわけでもないですし。母が支部長だったからという理由でしていたお仕事です。それにアキさんと物見遊山、楽しそうじゃないですか。アキさんの生き方を見ていて少し羨ましくなったんです。」


 アキの生き方。とても褒められた生き方ではないと思う。ただこの世界に来てからの生き方は確かに少しだけ好き勝手にやっている気がした。


「自分の人生だ。好きなように、悔いのないように生きればいい。」


 もし本当にセシルがそれを望むなら、好きにすればいい。彼女がついてくるというのであればアキは別に構わない。


「はい!好きにします!」


 アキの言葉を聞いてセシルは嬉しそうに微笑む。

 




「そんなんダメですー!絶対ダメー!」


 扉が開いてソフィーが勢いよく飛び込んでくる。


「そうですわ、彼には私達と王都に行くという用事があります。ですのでその予定はキャンセルしてください。」


 今度はミルナだ。エレンとレオを連れて部屋に入ってくる。アキはチラっとだけミルナ達の方を見るが、すぐに視線を窓の外に戻す。ミルナ達はそんなアキが気に入らなかったのか、何かを言おうとしてアキに近づく。


 だがアリアが彼女達とアキの間に割り込んだ。


「今更何か御用でしょうか?ご主人様はお疲れですのでお引き取りください。」


 アリアはいつにも増して仏頂面になり威圧感を放つ。完全にミルナ達を敵視しているようだ。


「あんたに何の権利があってそんな事言っているのよ!」


 エレンが威圧するが、アリアは全く臆する事なく淡々と告げる。


「貴方こそ何の権利があって騒いでいるのですか?お引き取りください。」

「あんた……!」

「エレン、黙りなさい。」


 ミルナが怒り心頭なエレンを一喝し、黙らせる。そしてアリアに丁寧にお辞儀して懇願する。


「アリアさん、申し訳ありません。今更自分勝手な申し出なのはわかっております。ですがアキさんとお話させて頂けないでしょうか。」


 真摯な彼女の頼みを無下に断っていいか判断出来ず、返事を言い淀むアリア。そもそもアキから断れなど一言も言われていない。ここまでの一連の行動は完全にアリアの独断だ。


「アリア、いいから。」


 アキの言葉を受け、アリアはわかりましたとアキの背後に移動して待機する。彼女の立ち振る舞いはとても綺麗で気品が感じられた。その姿を見るだけで彼女のメイドとしての優秀さがわかる程だ。


「アリアは本当に優秀なメイドだね。」


 嬉しそうに微笑むアリア。アキにだけは心を許しているようで普通の人のように表情が変わる。


 アキは一息吐き、ミルナ達の方を向いてソファーに座りなおす。





「ミルナ、何?」


 アキは端的に尋ねる。アリアの時のような優しさはない。ただ用事を済ますためだけの会話。それがミルナ達には辛い。いつものアキのように話して欲しい。


 彼女達はその為にしなければいけない事をする。


「アキさん、ごめんなさい!」


 ミルナがアキに向かって深く頭を下げる。


「アキさん、許してください。」


 ソフィーも。


「「アキ、ごめんなさい。」」


 レオも、あの素直じゃないエレンさえもアキに向かって深く頭を下げる。

 ただアキの声色、表情は特に変わらない。


「なんで謝るの?」


 ミルナ達はわかっている。アキの性格上、謝るだけじゃ意味がない。何故謝っているのかをちゃんと理解していなければ、何もアキの心に響かない事をわかっている。


「アキさんの事を少しでも疑ってしまいました。いつも私達の為に一生懸命だったアキさんなのに。そんなアキさんを疑いました。」


 ミルナが頭を下げたまま、呟く。泣いているのか、床に涙らしき雫が落ちる。


「刺されて傷ついたのはアキさんなのに、自分達が傷ついて可哀そうという態度をとりました。私達の為にやってくれたのに。ごめんなさい。」


 ソフィーも顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら必死に言葉を紡ぐ。


「僕たちの気持ちを利用した事、酷いと思ってごめんなさい。アキが弄ぶ為にそんなことするわけないのに。全部僕達の為なのに。」


 レオがソフィーの言葉を受け継いで自分達の愚かさを謝る。


「覚悟ない私達がこの先死なないように、自分が嫌われても構わない覚悟で色々やってくれたのに、酷いとか言ってごめんなさい。酷いのは私なのに。」


 常に気丈で気の強いエレンも必死にアキに謝ってくる。勿論レオもエレンも涙でいっぱいだ。


 アキはそれを静かに聞いていた。特に反論することも意見することもなく、ただただ静かに彼女達の言葉に耳を傾けていた。


「アキさん、これからも私達といてください!」


 何も答えないアキに対してソフィーが必死に叫ぶ。


「アキ!何か言いなさいよ!言ってよ!」


 エレンも願うように言葉を乞う。


 するとミルナ達にはアキの口が動いたように見えた。

 聞き逃さない様に必死に耳を澄ます。


「みんなはそれでいいの?」

「それしか嫌よ。」

「それがいい。」

「それしか考えられませんわ。」

「もちろんです!」


 アキが尋ねると、エレン、レオ、ミルナ、ソフィーが順に返事をする。アキは少しだけ目を瞑り、再度外を眺める。そしてアリア、セシルを眺める。2人もアキの言葉を待っているようだ。


「いいんじゃない?よろしくね。」


 あっさり言うアキ。何を言われるのかと待ち構えていたミルナ達は拍子抜けする。


「え、え、アキさん?」

「なんだソフィー。」

「そんな簡単に……いいんですか?私達酷い事言ったのに。」

「言ったっけ?」


 アキ以外の全員が固まる。セシルとアリアもだ。


「「「「「「は?」」」」」」

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