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いよいよ国家会議当日の朝を迎えた。会議が行われる王宮へはベルと一緒に馬車で向かう予定だ。
「おはよう。」
「アキさん、おはようございます。」
ベルが爽やかな笑顔で挨拶してくれる。
「今日はよろしくな。」
「はい・・・ってアキさんもしかして少し緊張してます?」
顔が強張ってますよとベルが覗き込んでくる。
流石に気付かれるか。
ベルの言う通り、緊張しているのは事実だ。ただこれはいつもの事で、地球にいた頃も科学者として研究発表のプレゼンなどの際はいつもそうだった。
「ああ、わかるか?」
「はい。何か不安な事でもあるんですか?」
「いや、そう言う事ではないんだけどね。」
特にこれと言った理由はない。過去に地球でプレゼンしていた頃も、どれだけ準備しようが、自信があろうが、緊張はしていた。だからこれは多分ただの体質だ。
「そうなんですか?」
「みっともなくて悪いな。」
「ふふ、そんな事ないですよ。むしろアキさんの新たな一面が見れて嬉しいです。」
くすくすと楽しそうに笑うベル。
「それよりベル、そのドレス、綺麗だよ。」
会議に行くにあたってアキが正装しているのと同様に、ベルもいつもより豪華なドレスを身に纏っている。黒いレースと金糸の刺繍がふんだんにあしらってあるワインレッドのドレス。いつもの深い青色のドレスもいいが、こちらのドレスもよく似合っている。
「えへへ、ありがとうございます。アキさんも似合ってますよ。」
「そうか?まあ、ありがとう。」
アキも先程アリアに手伝ってもらい正礼装を着たので、出掛ける準備は終わっている。後は時間になったら出発するだけだ。
「今日はアキさんを私が独り占めですね!」
ベルが嬉しそうに腕を絡めてくる。
ちなみにミルナ達は既に出発した。アキはベルの婚約者として彼女をエスコートする必要があるので、王宮入りは別行動になるのだ。ミルナ達の引率はエリザに任せてある。ミレー出身の彼女なら問題はないだろう。
「独り占めじゃありません。私がいます。」
アリアが何時もの仏頂面でボソッと呟く。
ちなみにアリアがいるのは、彼女がうちのメイドだからだ。アキやベルの身の回りの世話をする側仕えが体面上は必要なので、アリアはアキと一緒に連れて行くいう事にしたわけだ。
「気のせいです。」
「気のせいではありません。現実を見てください。」
ベルとアリアが早速火花を散らしている。
「朝っぱらから喧嘩しないでくれ。」
「アキさん?アキさんは私の味方ですよね?」
「いえ、メイドである私の味方です。そうですよね?」
2人を諫めようとしたら何故か巻き込まれた。おかしい。
「知らん、勝手にやってろ。」
「酷いです!アキさん謝罪と甘やかしを要求します!」
「本当ですね。王女様の言う通り酷いと思います。今すぐ私を甘やかすべきです。」
面倒だったので、2人突き放したら、一瞬で結託しやがった。手のひら返しが凄い。
「ごめんごめん。それよりベル、他国の王族はちゃんと到着したのか?」
こういう時はさっさと謝り、話題を変えてしまうのが最善だろう。女子が結託したら男が勝てるわけがないのだから。
「え?あ、はい。大丈夫ですよ。私のお父様達もちゃんと到着しました。」
「そうか、それならよかった。」
どうやら欠員はいないようだ。全員参加で会議が出来るのは重畳だ。
「問題児の王子様は?」
「・・・参加してますね。」
スッと目を逸らし、呟くベル。
やはり面倒事は避けられないらしい。一応覚悟はしていたから問題はないが、そのせいで会議が滅茶苦茶にならない事を願うばかりだ。いざとなったら本当にミルナ達を使うとするか・・・
「まあ・・・頑張るよ。ベルは俺のだ。」
「はい!私はアキさんのです!」
再びベルが嬉しそうに腕を絡めて来る。
「王女様、私がいます。」
「気のせいです。」
「気のせいではありません。だから現実を見てください。」
ベルとアリアがまた火花を散らし始めた。しかも似たようなやりとりをさっき聞いた気がするんだが・・・デジャブか?
「程々にしとけよ。もうすぐ出かけるんだし。」
もう2人好きにさせよう。止めるのも面倒だ。
「「はい。」」
無駄に聞き分けはいい2人。それならもっと仲良くして欲しい。




