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「アキさんは侯爵になったって聞いた。」
どういう意味だろうと首を傾げていると、ミリーが説明を始める。
「うん。」
その通りだ。
しかしミリーがその事を知っているのは少し驚いた。もしかしてエリザから聞いたのだろうか?
アキが侯爵家としての家名をシノミヤと決めた後、エルミラは正式に叙爵した事を公表してくれた。だからアキが侯爵になったのは一般的に知られている事だ。ただそれはあくまでエスぺラルド国内での事。この短期間で他国の叙爵がミレーに伝わっているとは考えにくい。
「学院長から聞いた。」
「なるほど。」
やはり情報源はエリザか。
「そしてここからは私の予想。侯爵になったからにはアキさんは近々正式に学院長達を妻に迎えるはず。そこになし崩し的に加わる事も考えたけど・・・私じゃ妻は無理。アキさんの私に対する対応を見ていればわかる。」
何時になくミリーが饒舌だ。そしてその予想も間違っていない。ミルナ達と結婚式しようと決めたのも侯爵になったからだし、ミリー達を嫁にしないという考えも合っている。ミリーの洞察力が凄い。
「でもアキさんは別に私の事は嫌ってはいない。むしろ好意的に接してくれている。だから妾や側室が狙い目。空があるうちに立候補するのが得策。」
それも正解。アキはミリーやエアルの事は嫌ってはいない。
だだ・・・
「妾の部分だけは否定するぞ?別に空はないからな?」
というより募集すらしていない。
「うん、アキさんがそう言うだろうってのもわかってた。でも侯爵ともなれば妾や側室を囲うのは普通。奥さんが沢山いても、使用人や友人をお手付きにしてもなんの問題ない。体裁面はこれでクリア。」
まあ確かにそうかもしれない。貴族ともなれば、妾がいてもなんらおかしくはないだろう。子孫を残すのも貴族の義務の1つだと言うしな。
「でも俺はこれ以上・・・」
だがアキはミルナ達の事は全員妻にする。イリアを含めると11人もいるのだから、彼女達だけで十分「子孫を残す」という貴族の義務は満たせるはず。わざわざ側室や妾を持つ必要はないだろう。
アキがそう反論しようとしたら、ミリーに言葉を遮られる。
「わかってる。でも私が積極的に行けばアキさんは優しいから断れない。」
ああ、うん、よくお分かりで。その通りだ。
「ミリー・・・お前凄いな。」
「ふんす!」
ミリーが参ったかと胸を張る。
「まあ言いたい事はわかった。」
どうやらアキが侯爵になったのを切欠に、ミリーは本格的にアキに対して動くと決めたらしい。今まではアキが一歩引いていたので、積極的にアプローチしてくる事はなかったが、もうお構いなしと言わんばかりにガンガンくるようだ。
まあその気持ちは普通に嬉しい。ミリーのような美少女に好意を寄せられて嬉しくない男がいないわけがない。だがそれを「はいそうですか」と安易に受け入れるわけにもいかないのだ。
何故かって?だってほら、エリザが般若のような顔でこっちを睨んでるんだもの。
超怖い。
とりあえずあの猫の事は見なかったことにした。
「えーっと・・・エアルもそうなのかな?」
「わ、私ですか!?私はべ、別に・・・!」
「アキさん、エアルは乙女拗らせてるから無視していい。」
「拗らせてないってば!!アキさん!私も!私もお妾さんでお願いします!!!」
いや、お願いされても困る。
1人2人ならミルナ達も「しょうがないですわ」と言ってくれるかもしれないが、下手に例外を作ると、「何故私は駄目なの!」と言われた時に困る。そもそも言い寄られた女性に片っ端からOKしていたら大変な事になる未来しか見えないので、ここは断固として断らなければ。
「「「アキさんじゃあ私達も是非!」」」
遅かった・・・
ミリーとのやり取りを聞いていたであろう他の生徒達が口を揃えて叫ぶ。それぞれがわーわーと言い寄って来て、収集が付かなくなった。侯爵の妾や側室は将来が約束された嫁ぎ先らしく、みんな必死だ。
理由はどうあれ、モテモテで人気なのは嬉しい事だ。たださすがにそこまでの甲斐性はないので勘弁して欲しい。
「アキ君!!!ちょっと来なさい!おねーさんとお話よ!!!!」
そしてとうとうエリザの堪忍袋の緒が切れた。しばらくは黙って聞いていたエルザだったが、生徒達が「そんな年増学院長より私達の方がピチピチですよ!」と煽ったのがトドメになった。しかしうちの猫に年増は地雷なのに、億すことなくその地雷を踏み抜く生徒達には脱帽だ。
「エリザ、俺悪くない・・・」
ただその地雷の皺寄せが全部アキに来るのだけは納得がいかないが。
「うるさいにゃ!!!」
結局そのままエリザに引き摺られ、ミルナ達の元へと連行された。勿論怒涛の説教が待っていたのは言うまでもないだろう。
しかしエアル達とは音楽祭で遊ぶ約束をしただけで、碌に話す事が出来なかった。せっかく我が生徒達に会いに行ったのに、早々に強制終了だ。一体何しにいったんだろうか・・・