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「アキ君のせいじゃないわ。あなたが忙しいのは私も知ってるもの。」
エリザが気にしないでと猫耳をピコピコ揺らす。
「で、両親は?」
「あ、うん、パパはもういないけどママはミレーにいるわ。」
どうやらエリザの父親は病気で既に他界しているらしい。母親の方はミレーで元気にしているようで、エリザもちょくちょく顔を出しているのだとか。
しかしパパにママだと・・・
「ママとか可愛いな。これがギャップ萌えか・・・」
26歳でのくせにやたらと乙女なエリザだ。
「ち、違うわよ!?普段はお母さんって呼んでるの!ほんとよ!今のはアキ君が急に聞くから間違えただけ!そう、間違えただけなの!!!」」
必死に言い訳してくるエリザ。
やはりうちの猫は可愛い。
「うんうん、そうだね、言い間違いだね。」
「にゃー!信じてないわね!ほんとなんだからああああ!」
「まあまあ、落ち着け。それでお母さんはレスミアにいるのか?」
地方都市にいるのならまた別の機会にするつもりだが・・・レスミアにいるのであれば国家会議の際に顔合わせしておきたい。
「そ、そうよ。」
「それなら会議でレスミアに行った時に挨拶しておきたいんだけど、いいか?」
「な、なんでよ!?」
「何でって・・・エリザを嫁にしますってお願いしたいし。」
「そ、そうだったわね!で、でも別にしなくていいわよ!」
「いやいや、そう言う訳にはいかないだろ。」
この猫は何を言っているんだ。エレンやエリスのように父親も母親も既にいないのであれば仕方ないが、いるなら挨拶はしておきたい。というか普通に考えてすべきだろう。
「い、いいのよ!」
エリザの様子がどこかぎこちない。
そんなに母親を紹介したくない理由でもあるのだろうか?
「でも挨拶くらいはしておいた方が良いと思うんだけど・・・もしかしてエリザの家って大貴族だったりするのか?」
アキのような冒険者では母親のお眼鏡に適わないから紹介したくないとかだろうか?エリザの家が大貴族じゃないにしても、彼女は魔法学院の学院長であり、魔法組合のレスミア組合長。そこそこの地位を持っている女性だ。結婚相手は相応の地位の男性じゃないとダメだと言われているのかもしれない。
「そんなわけないでしょ。うちはただの平民。大貴族ならとっくに婚約者決められて結婚してるわ。それにパ・・・お父さんが亡くなったのもお金が無くて薬を買えなかったからなのよ?うちはただの貧乏な平民なの。」
確かに貴族ならこの年まで独身と言う事はないか。いくらエリザが魔法バカとは言えど、家が勝手に婚約者を決めるはず。
しかし父親が亡くなった理由が思いのほか重い話だったのには驚いた。
「そうなのか・・・ごめん。」
「ううん、アキ君のせいじゃないし、昔の事よ。私が小さい頃の話。パ・・・お父さんが亡くなってから魔法の勉強頑を必死に張ったの。もうお金に振り回されたくなかったからね。まあ頑張れたのは魔法が好きだったのもあるけど・・・」
なるほど、エリザが魔法バカになったのはこういう過去のせいなのだろう。金を稼ぐ為に必死に魔法に打ち込んだ。恋愛そっちのけで必死に打ち込んだ。だから26歳という若さで学院長という地位につけたのだ。
「そっか・・・」
まさかエレンやエリスに引けを取らない重い過去があったとは思わなかった。
「あ、いいのよ。気にしないで?それにアキ君には知っておいて欲しかったしね。」
「うちの猫・・・やっぱり良い女だな。」
「ね、猫っていうな!」
「ごめんごめん。しかしエリザは頑張ったから今の地位にいるんだな。それにもうお金にも困ってない。素直に凄いと思うよ。まあそれにもし今後そう言う事があっても俺がなんとかするから安心しろ。」
「う、うん。ありがと。頼りにしてるわ。」
アキの嫁になる以上、お金に困らせる事は絶対にしない。それくらいは最低限の甲斐性だろう。
しかしエリザはなぜ両親に紹介したくないのだろうか。お父さんの事は残念だとは思うが・・・お母さんは健在で、今はお金にも困っていない。そしてエリザの家は貴族でもない普通の平民。それなら紹介してくれても問題ない気がするのだが。
「なんでそんなに会わせたくないんだ?」
「べ、別に会わせたくないわけじゃないわ・・・」
「じゃあ紹介してくれよ。」
「う、うん・・・わ、わかったわよ。」
ソフィー同様、どこか嫌そうな雰囲気のエリザ。まあ会わせてくれるようなので、よしとしよう。理由もきっと会えばわかるし、無理に聞き出さなくてもいいだろう。
とりあえずこれでミルナ、ソフィー、リオナ、エリザの両親に挨拶する事が決まった。ちなみにエレン、エリス、ルティアはもう両親がいないので挨拶する事は出来ない。セシルは父親が不明だし、母親には既に会っているので、後回しでも問題ない。アリアも両親とは縁を切っているので会うつもりはない。本人も二度と会いたくないと言っているし、アリアに変に絡んで来ない限りこちらから接触する予定もない。
「挨拶し終わったら結婚式するか。」
侯爵になった事だし、タイミングとしては丁度いいだろう。
ミルナ達と恋人関係になって数か月。早い気がしないでもないが、もうこの子達以外とは考えられない。それに侯爵になり、色々としがらみや面倒事が増える気がするので、早めに娶った方がよさそうだ。
「「「「「する!!!」」」」