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「なんでもいいですわよ。でも昨日は冒険やお買い物しましたし、今日はお屋敷でのんびりしません?」
「そうだな・・・うん、そうしようか。」
ミルナの提案に乗ることにした。国家会議と音楽祭が終わるまではバタバタしそうだし、それが終わってからは領地経営に本格的に乗り出さなければならなくなる。内政に自信はないが・・・貴族の義務だから仕方ない。その他にも各屋敷の使用人の雇用と選別、ユーフレインでオリハルコンの調査、ユキの国政の手伝い。あとはミルナ、ソフィー、リオナの故郷にもいかなければ。
うーん、いつまで経ってもやることが減らないな。まあ慌ただしくも楽しい毎日だから文句はないが。
「会議が終わったらミルナ、ソフィー、リオナの両親に挨拶にいかなきゃな。いい加減顔合わせくらいはしておいきたい。」
「そ、そうですわね・・・」
「えー、別にいかなくてもいいですー。」
「私は久々に帰りたいかなー、アキの事も紹介したいしね。」
ミルナ、ソフィー、リオナは三者三様の反応を見せる。
ミルナは家出した手前、両親には顔を合わせにくいのだろう。しかも帰ったと思えば婚約者を連れているのだから余計気まずいのかもしれない。
「ミルナの両親は俺が説得するから大丈夫だ。」
「は、はい!」
説得に使える手札はいくつもある。多分大丈夫だ。
「ソフィーはなんで嫌なんだ?両親と喧嘩別れしたとは言ってたけど・・・」
「えーっと・・・えへへ?」
笑って誤魔化そうとするソフィー。
うん、やっぱりソフィーの笑顔は本当に可愛い。中身は駄エルフだけどな。
「俺の事、認めてくれなさそうなのか?」
「あー・・・いえ、アキさんは多分大歓迎されると思うので大丈夫ですー。」
どうやら帰りたくない理由はソフィー自身にあるらしい。まあ喧嘩して飛び出してきたのだから、お説教が怖いとかそんな理由なのかもしれない。
「まあ行ってみればわかるか。」
ソフィーは言いたくなさそうだし、無理して聞き出さなくてもいいだろう。
「うー・・・あまり帰りたくないです・・・」
「でもいつまでも帰らないわけにもいかないだろ。俺もちゃんとソフィーの両親に会っておきたいし。そうじゃないと安心してソフィーと結婚できないぞ?」
こうやってちょっと焚きつけてやればすぐに手のひらを返すはずだ。
「むむむ・・・それならいくです!アキさんとの未来の為!あなたのソフィー、がんばります!」
うん、やっぱソフィーが一番チョロい。
後はリオナだ。ただ彼女に関しては特に問題はないだろう。家出してきたわけでもないし、喧嘩別れしてるわけでもない。
「リオナの両親と仲良くできるといいな。」
「うん!アキなら大丈夫だよ!」
ぱたぱたと尻尾を振るリオナ。
「そしてリオナの知り合いをもふもふしまくるのだ!」
「それはしなくていいから!!!」
「でもせっかくもふもふ帝国に行くんだから・・・」
もふもふがいるのにモフらないのは勿体ない。むしろもふもふへの冒涜だ。
「私の故郷はそんな場所じゃないからね!?普通の獣人の街だよ!!」
「つまりもふもふの街だろ?」
「ち、違わない・・・けど違う!そう言う事するなら連れていかないんだからね!」
それがなければ喜んで案内するのにと獣耳をペタンとさせるリオナ。
失礼な。さすがに見ず知らずの相手に手当たり次第モフッたりしないぞ。それに勝手にモフったら普通に犯罪な気がする。
ただ獣耳を垂れ下げてるリオナは可愛いのでモフるけど。
「きゃあっ!も、もう!なんでそうやってすぐ・・・!」
「リオナが可愛いのが悪い。」
「そ、その言い方はずるい・・・ねえ、アキ?私の耳や尻尾なら好きなだけ触っていいけど、他の人にはしちゃダメだよ?約束してね?そしたら安心して私の故郷を案内してあげられるから・・・」
「大丈夫だ。」
安心して欲しい。先も言ったように、街行く人を勝手にモフったりはしない。
「ちゃんと『ぐへへ、そこのお嬢さん、ちょっとだけ尻尾触らせてくれないかな?』って声かけてからモフるからな!」
「変態だ!?やめて!声かけないで!!」
「それは無理だ。」
「なんでさ!?約束!約束してよ!」
「えー・・・ちょっとだけ。ちょっと触るだけだから。大丈夫だって。」
「全然大丈夫じゃない!犯罪臭しかしない!絶対ダメ!!!」
むぅ・・・駄目か。
「わかった・・・」
まあここは一旦引くとしよう。これ以上余計な事を言うと本当に故郷に来るなって言われそうだ。
「もう!アキのばか!」
「悪い悪い。あ、そういえばエリザの両親はミレーにいるのか?」
アキは話を逸らす。
「え?私?」
ちょっとわざとらしかったか?
だがエリザの身の上話はした事なかったし、一応聞いておきたい。それにもし両親が健在で、ミレーにいるのであれば、今度の国家会議と音楽祭がいいタイミングだ。挨拶くらいはしておきたい。
「うん、両親はいるのか?」
「え、ええ・・・いるわよ?」
「そっか。むしろもっと早く聞いておくべきだったよ、ごめんね。」
「い、いいのよ!アキ君のせいじゃないわ。」
ミルナ達の故郷へ行くって言ってるのに、エリザの事を聞いてないのは失敗だ。エリザは気にしてないようだが、これは反省だな。