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イニステラ城へ到着すると、すぐさま衛兵がユキのいる謁見の間へと案内してくれた。どうやらユキがちゃんと通達してくれていたようだ。まあユキの「私を楽しませなさい!」催しに参加しまくっていたから、城の兵士やメイド達には顔をすっかり覚えられていたというのもあるだろう。
アキ達は謁見の間に足を踏み入れる。
王座にはいつも通りユキが氷のような表情を浮かべながら座っていた。ただどこっかよそよそしい雰囲気・・・というか空気が張り詰めてピリピリしている、そんな感じだ。多分、いつもはいない貴族達がいるからだろう。彼らは扉から王座へ続く赤い絨毯を囲むようにして左右に立っており、アキ達に品定めするかのような視線を向けてくる。とてもではないが居心地が良いとは言えない。
シズ以外でこの国の貴族達を初めて見たが・・・これは確かにユキが苦労しそうだ。まあアキが感じた第一印象なので、勝手な偏見ではあるが・・・どいつもこいつも碌な人間じゃないように見える。
そもそも今日の集まりはユキによって開かれている。つまりアキ達の事はユキが招集したというのは少し考えれば誰でもわかるはず。そんなアキ達を訝しげな目で見ている時点で駄目だろう。例え不満に思ったとしても、その感情を表に出してはユキに不敬だと言われてもおかしくはないのだから。
(変な目で見てこないのは・・・シズの父親であるフォルティスくらいか・・・?)
シズの父親がいる事には驚いたが、軍の元帥であればこの場にいてもなんらおかしくはない。確かフォルティスは公爵、つまりフォルティス・アーベントロイト公爵だったはずだ。
(・・・ん?シズもいるじゃん。)
そんなフォルティスの隣にシズが立っていた。すぐにシズがいると気付かなかったのは、彼女がドレスを着ていていつもと雰囲気が違ったからだろう。
綺麗だ。
落ち着いた薄紫色のドレスがシズの黒髪によく似合っている。
(あ、こっち見た。)
シズが小さく手を振っている。
ただシズには申し訳ないがさすがに振り返す事は出来ない。
(でも何でシズがいるんだ?)
周囲の貴族達を見る限り、妻子を連れている貴族は他にいない。おそらくここにいるのは有爵者だけだろう。つまりその家の当主のみだ。
(もしかして授与式に参加したくて無理矢理ついて来たのかな?)
シズらしい行動だ。まあ気持ちは嬉しい。
あとで礼を言っておくとしよう。
(あ、ユキのお兄さんもいるな。でもなんであんなとこに・・・?)
王子である兄も参加するかもとユキは言っていた。だが何故か貴族達の後ろの方に立っている。王子だからユキの隣に座るなり立つなりすればいいのに・・・何故あんなところにいるんだろうか。
(もしかしてユキの指示か?)
彼女は兄を辟易しているからあの扱いなのかもしれない。もしくは兄が勝手に参加しているかだ。どちらにせよ・・・これは国家会議が終わったらあの兄妹仲を本格的に改善する必要がありそうだ。
(さて・・・とりあえず玉座の前まで行って跪けばいいんだっけ?)
ベルフィオーレでも謁見の経験はあるが、いつも無礼講だったので、ここまで物々しい雰囲気での謁見は初めてだ。一応昨日ユキと打ち合わせした際、簡単な礼儀作法は教えてもらったので、無礼を働く心配はないが。
アキはミルナ達を引き連れ、ユキの前までゆっくり丁寧に歩いて行き、静かに跪く。
(ミルナ達は大丈夫かな・・・)
彼女達の方をチラッと横目で見る。
ベルはさすがだった。平然としていて緊張した様子もない。だがミルナは少し頬を引き攣らせており、エリスも同様だ。こっちの2人は少し緊張しているらしい。
「シノミヤ・アキ。面を上げていいわよ。」
ユキが静かに呟く。