52
――ユーフレインでの爵位授与当日
国家会議まで残り5日。
アキはミルナ達を連れ、午前中にユーフレインの屋敷へ転移しておいた。授与式は昼過ぎだが、今のユーフレインの屋敷は安全とは言い難い。転移した途端面倒事に巻き込まれる可能性もあるし、早めの行動だ。幸いにも今日は屋敷が暗殺者に取り囲まれていたりする事はなかったが。
「アキさん、やはりお似合いです。」
アリアに正礼装の着付けを手伝って貰い、授与式へ向かう準備は完了。
「そうか・・・?」
「ええ、その姿のアキさんに今すぐ踏まれたいです。」
「黙れ、変態。」
「ありがとうございます。」
いつも通りブレないアリア。さすがだ。しかし褒めるなら普通に褒めて欲しい。
「やっぱりこういうのは似合わないと思うんだけどな・・・」
「そんな事ないですわ!素敵ですわ!」
「そうですよ。かっこいいです。」
「そうか・・・ありがと。」
授与式に同行してくれる予定のミルナとベルが褒めてくれた。ただそこまで褒められるとさすがにちょっと照れ臭い。
ちなみにミルナは白色のドレスを着て、髪飾りやネックレスで少しばかり着飾っている。彼女のドレス姿は初めてなのでついつい見惚れてしまった。いつもは背中に流している長い髪もアップにしていて滅茶苦茶綺麗だ。
「ミルナも似合ってるよ。」
「ふふ、嬉しいですわ。」
ドレスの袖口で口元を隠し、くすくすと上品に笑うミルナ。
こうしていると本当に気品があるお嬢様に見えるミルナ。素がポンコツなお姉さんだとは誰も思わないだろう。まさに絵に描いたような貴族令嬢だ。
「アキさん!私!私もドレス着てますよ!」
対抗心を抱いたベルが、必死にアピールしてくる。
「いや、ベルはいつものドレスだし・・・」
ベルはいつもの青色のドレスなのであまり新鮮味はない。一応、セミロングの銀髪を少しだけ巻いて、薔薇の髪飾りを付けており、社交界仕様のベルではある。普段この子は装飾品を付けたり、髪を巻いたりしないからな。
「でも一言くらいあっても良いと思います!あるべきです!」
「うんまあ・・・ベルも綺麗だぞ。」
「えへへ、知ってます!」
嬉しそうにはしゃぐベル。しかし変な茶番をやらせないで欲しい。
まあ可愛いけど。
ちなみにエリスもいつもの動きやすい服ではなく、薄い水色のドレスを着て着飾ってくれている。エリスは護衛とはいえ、正式な場での授与式。一応正装してもらった。
「エリスは・・・うん、化けたな・・・」
普段は剣士のような騎士のような格好に拘っているエリスだからだろう。ドレスで着飾ると見違えるような美しさだ。元々美人なのもあるが、ドレス姿のエリスは磨かれた宝石のように美しい。綺麗なロングヘア―の金髪を軽く結い上げ、髪留めで留めている。ベルやミルナに劣らない。どこかの国の王女だと言われても間違いなく信じてしまうだろう。
「アキ、やはり私のような無骨な女は・・・こんなの似合わないのだ・・・」
どうやらエリスは「化ける」を違う意味に捉えてしまったらしい。
「いやいや、綺麗だってことだよ?」
「ほ、ほんとか!?」
「うん。侯爵令嬢だと言われても疑わないよ。」
「う、嬉しいのだ!そ、それに実際に私は侯爵令嬢なのだ!あ、いや厳密には令嬢ではなく夫人だけど・・・」
「そうか、俺は侯爵になったんだったな。つまりエリスはエリスアレイ・シノミヤ侯爵夫人になるって事だもんな?」
「う、うむ!」
ついつい自分が貴族になった事を忘れてしまう。まあ昨日の今日だから実感がないのは仕方ない。しかも今日はユーフレイン側でも侯爵になる。これでエスぺラルドとエヴァグリーンの2ヶ国での爵位・・・慣れるまで時間がかかりそうだ。
とりあえず授与式に向かう準備は終わった。
そして午後、出発する時間になったので、エリス、ミルナ、ベルを連れ、予定通り、イニステラ城へと向かった。