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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第四章 殺意
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13

「大体こんな大勢でする話でもないだろうに。」


 アキは溜息を吐く。


「ほほほ、諦めるんじゃな。わしに話した時点で余計なお節介をすることぐらいわかっておろうに。」

「ここまでするとは思ってないわ、クソじじい。」

「ほほほ、はよ話してやらんかい。」


 エスタートがアキに事の顛末を話すように促す。


「本当に聞きたいのか?」


 ミルナ達に再度確認する。


「はい。」

「聞きたいです。」

「僕も聞きたい。」

「当たり前よ。」


 ミルナ、ソフィー、レオ、エレンが全員同意する。


 さすがにもう話すしかないかなとアキも諦める。


「どこから始めようか。とりあえず最初から語るとするか。少し長くなるかもしれないけど。」


 最初、ミルナ達を見たときは凄い実力者だと思った。それと同時にとても優しい子達だとも思った。何故なら初めてエレンに刃を向けられた時、この子は人を殺めたことがないとすぐにわかった。他の皆についてもそうだ。


「殺すとか言っているのに全然本気じゃなかった。」


 その時はそれだけ。人を殺めた事がないんだと思っただけだった。でもミルナ達の目的を聞いて考えが変わった。イリアという目的、その為に必要な闘技大会とSランク。今のミルナ達だと間違いなく届かない。


「ミルナ達は優しい。だが裏を返せば甘いということだ。」


 本気でイリアの為にSランクを目指すのであれば覚悟が足りない。勿論この世界の事を全て知っているわけじゃないから確証はなかった。でもアキの予想通りなのであれば間違いなくこの問題で壁にぶつかると思った。その時だったかもしれない、初めてこの計画を考えたのは。レオへの風当たりの件もあったし、使えると考えた。


「そこから大きく分けて2つの事に動いた。」


 1つは計画実行の為の布石づくり。もう1つは情報収集。本当にこの計画が必要なのか情報を集めて確認する必要があった。後者に関しては幸いにも支部長やエスタートという人脈が出来てすぐに終わった。そして確信した。やる必要があると。


「布石についてはミルナが言ってくれたし、今更説明するまでもないと思うが一応しておく。」


 街中で過度にミルナ達と仲良くして嫉妬や羨望を買う。高ランクチームの中にいる弱い存在として不興を買う。簡単なことだった。ミルナ達と普通に話して、ちょっとイチャイチャしているだけでヘイトはすぐに集まってくれた。


「そして一番重要だったのがミルナ達に慕ってもらう事。」


 最大の課題だと思ったが、逆にそれが一番楽だった。特に何か特殊な事をしたわけではない。少しばかり褒めたり、撫でたり、優しくしたりしただけで彼女達はすぐに懐いてくれた。


「4人ともこんなにチョロいとは思わなかったよ。」


 アキはわざとらしく鼻で笑う。ミルナ達は今にも泣きそうな表情をしている。自分達の気持ちを利用されたとわかってショックなのだろう。


 だが懐かれているから利用しようと思った。懐かれているからこの計画にした。切欠はどれが最初かはわからない。ただ彼女達の気持ちをわかっていて利用したのは紛れもない事実だ。


「だから酷いやつって事。利用する為に慕われるように行動しただけ。」


 そして十分に街の温度感が高まっていたのはセシルに調べて貰っていたのでわかっていた。後は丁度いいタイミングで1人になれば冒険者連中は実行に移すだろうと考えた。そして慕ってくれているミルナ達なら必ず助けにくるともわかっている。結果は知っての通り、言うまでもない。


 アキはそこまで話すと一旦話を切る。ミルナ達は一言も発しないでアキの言葉を聞いている。時折悲しそうな表情を覗かせたりしているが何も言わない。テーブルに置いてあった水で少し喉を濡らしてアキは続ける。


「じゃあ何故そんなことをしたか。ミルナ達に覚悟を持たせる為。何故なら人を殺める覚悟、何を持ってしてもイリアの元へたどり着くための覚悟。皆にはそれが絶対的に足りない。」


 闘技大会は対人戦。死者も毎年で出るとミルナ達が言った。そんな生死を賭けた大会で今のミルナ達が勝ち抜けるかと言うと恐らく無理だ。


「イリアの為だったら人を躊躇なく人を殺せたか?」


 間違いなく無理だろう。そしてそんな甘い覚悟で優勝できるくらい闘技大会が甘いわけがない。腐ってもAランクの冒険者同士がぶつかりあう大会なのだから。だからこそ一瞬の躊躇で自分が命を落とすことも十分に考えられる。


「それにミルナ達は明らかに対人経験がなかった。昨日4人と手合わせしたのはそれを確認したかったのもある。」


 エレンと手合わせした時もそうだし、昨日4人同時に手合わせした時にも改めて感じたことだ。普段の攻撃に比べて威力もキレもない。戸惑いを感じられる。


「むしろほとんどの冒険者は対人経験ないのかもしれない。」


 この街の冒険者連中を見ても対人慣れしている感じはしなかった。確定的だったのは今日襲われた時だ。対人慣れしているのであればあんな煩雑な動きはしない。


「普通対人相手なら、フェイントや動きに緩急をつける。でも彼らにはそれがなかった。もちろんミルナ達にも。つまり攻撃が至極読みやすい。」


 ミルナ達が対人慣れしてないことや闘技大会の条件などを聞いてアキはある結論に辿り着いた。支部長に確認したところやはり間違ってはいないようだった。


「考えればすぐにわかった。なんで闘技大会が対人のトーナメント戦なんだと思う?なんでSランクになった冒険者の大半が最初の依頼で死ぬと思う?」


 ミルナ達は答えない。別にアキも答えを待っているわけじゃないのでそのまま続ける。


「ばばあにも確認した。間違いない。Sランクの初依頼は必ず対人戦闘が関わってくるらしい。しかもS難易度の相手ということになる。対人経験が闘技大会までほぼ0だった連中が勝てると思うか?」


 闘技大会を対人にする意味、それはSランクでの初依頼を想定している。もちろんAランク同士の戦闘はそこそこの見世物にもなるのだろうが、対人経験がない者同士が争ったところで大した試合にはならない。闘技大会はSランクになる前に対人戦を経験させる為だと考えられる。


「つまりSランクに君臨する連中は対人経験が豊富か、人を斬るのに躊躇しない人間ということになる。だから俺はミルナ達に殺させた。人を殺す事を躊躇させない為に。」


 アキがはっきりと口にすることでミルナ達は改めでその事実を実感する。


「ミルナ、ソフィー、レオ、エレン。君達は今までのままじゃ闘技大会を勝ち抜けない。勝ち抜けないだけならまだ良い。Sランクになったとしても最初の依頼で間違いなく死ぬ。だから殺させた。」


 何か質問があれば聞くけどと、アキはそう言って話を締めくくる。


 ミルナ達の間で沈黙が流れる。アキに聞かされた事実を自分達のなかでかみ砕いて必死に理解をしているようだ。暫くしてミルナが口を開き静寂を破る。


「アキさんは……覚悟をさせる為だけに私達に好かれるよう……行動にしたんですか?私達を撫でたり褒めたりは演技だったんですか……?違いますよね?あの行動はアキさんの素ですよね?そうですよね……?そうって言ってよ……。」


 ミルナがアキに肯定してと懇願するような目で確認する。アキは何も答えない。


「アキさん答えてください!アキさんは私達を傷つけたりしませんよね!」

「アキ、どうなの!演技じゃないよわね……!」

「気持ちを弄んで……酷いよ、答えてよ……アキ。」


 ソフィー、エレン、レオ、が各自アキに問いかける。


「どうだろうね。」


 アキはそう呟くと再び目を閉じ、窓から吹き抜ける心地よい夜風を体で感じる。


「で、結局あなた方はアキさんを嫌いになったんですか?」


 沈黙を破ったのは予期せぬ人物だった。


「アリアさん……?」


 誰かが彼女の名前を呟いた。アリアはいつもの鋭い眼差しと仏頂面でミルナ達を一瞥するとアキの側まで移動して、長年連れ添った従者のような自然な所作で跪いてアキの手を取る。


「アキさん、私は貴方にお仕えしたいです。」

「アリアさん、その話は後でと。」

「いえ、一言だけ言わせてください。あとアリアと呼んでください。敬称はいりません。」

「わかった、アリア、なに?」


 アキが尋ねる。すると彼女が優しく微笑む。


「彼女達が貴方を見限ろうとも、私は貴方の傍にいます。貴方が私にとっての正義です。例え今後あなたが何千人、何万人殺めたとしても私にとっての正義は貴方です。私の罪を背負ってもらった貴方に一生かけて仕えます。なので1人にはなりません。安心してくださいね。」


 今までの彼女からは考えられないような優しくて穏やかな顔だ。無表情で淡々と仕事をこなすメイドとはかけ離れた可愛い笑顔。アリアは、アキが見限られて1人になるのを不安に思ってるかもしれないと、心配して声をかけてくれたのだろう。


「そりゃ心強いな。」


 アキが苦笑する。


「ふはは、アキよ。そうなったらわしの商会で働かせてやると言ったじゃろうが。安心せい。」

「うるさい、じじい。むしろ商会ごと乗っ取ってやるぞ。」

「孫が反抗期じゃ……困ったものよ。」

「それはこっちのセリフだよ。」


 お節介焼きが多くて困ると、アキは少しだけ嬉しそうに微笑む。


 依然ミルナ達は黙ったままだ。アリアの言動や行動に何か言いたそうにしていたのは気付いていたが、結局自分が何を言っていいのか、自分が何が言いたいのか、よくわからないようだった。どこか辛そうで悲しそうな表情をしている。


「爺ちゃん、ちょっと庭を散歩してきていい?」

「別に構わんぞ。」

「そっか、ちょっと夜風にでも当たってくる。気持ちのいい夜だしね。」


 アキはソファーから立ち上がる。少し眩暈がしてよろめくが、すぐにアリアが支えてくれる。


「念の為にご一緒してよろしいですか?」

「ああ、頼むよ。ありがとう。」

「いえ、アキさんの従者としての初仕事頑張りますね。」


 アリアは完全に従者になった気でいるようだ。アキとしては別に構わないが、従者を今までの人生で持ったことなんて当然ないので扱いに困ってしまう。どこまで命令していいのかわからない。まあ、アリアに聞けばいいかと一先ず考えを振り払い、部屋を出る。


「私もいきます。」


 セシルが後を追ってきた。多分気を利かしてミルナ達だけにしてあげようと思ったのだろう。あの爺さんはどうするのだろう。余計な事言わなければいいのだがと思いつつも、アキはセシルとアリアを連れて庭へと出る。

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